《香川外科の愉快な仲間たち》久米先生編 「夏事件」の後 105

普段通りの豪快さと元気の良さは相変わらずの杉田師長だったけれども、アクアマリン姫という田中先生が付けたあだ名がピッタリの明さとか繊細なじが吹き飛ばされてしまうのはちょっと、いやかなり殘念な気がする。

あの時、彼と立ち話に夢中になることはなくて2・3分程度話しただけで立ち去ってしまったほうが良かったのかも知れないとかに後悔した。そうすれば醫局から手室と普段の業務が出來たのに……と。

だって、醫局も朝の慌ただしさは當然有るものの、香川教授の真摯かつストイックな雰囲気に皆が敬意を表していてガチな育會系のノリが多い外科とは思えないと個人的には思っている。

それに手室で秀逸な手技をこなす香川教授の秩序立った靜謐せいひつさは、アメリカの手のようにジョークをバンバン飛ばしながらハイテンションで行うのとは全く異なる空間を醸し出していたし。

―ーどちらかと言うと杉田師長のほうがアメリカ人チックな気がする。豪放磊落ごうほうらいらくとかマイペースなところとか……。

元同級生の、しかし斷じて友達ではない!!井藤が起こした信じられない事件の直後は凄く怒っているのが分かったし、その後も怖くて近寄れなかったというのは紛れもない事実だったけれど。

香川教授は――アメリカ時代とかベルリンでの國際公開手の時の映像は一応見ていたし、英語では冗談を言って會場を沸かせていたのが信じられなくて絶句してしまったのも事実だった――高山を流れる清い川のような手技ではあるけれども、そこにはアクアマリン姫に似た明な雰囲気が場の空気を爽やかさで満たしている。

そっちの方がオレには合っているような気がした。

救急救命室での勤務は當然深夜帯なので、夜中の妙なハイテンションが脳分泌されているのだろう、そっちでは全く違和を抱かなかったオレだったが、朝日が燦燦さんさんと降り注ぐ今の時間にはなんだかキツい。

「アクアマリン姫って、田中先生がPCに向かって何かしているけれど、あれに関係あるのかしら?

田中先生は割と表が真面目だったので、ゲームとかをしている雰囲気ではないわよね?

論文を書くとかそういう話も聞いていないし、柏木先生も妙な言葉を使っていたし、久米先生相手に。

なんだかオカ……は差別用語らしいんで、場末ばすえの――ニューハーフみたいで妙に可笑しかったんだけれど?」

そう言われてみれば。

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