《香川外科の愉快な仲間たち》久米先生編 「夏事件」の後 108

杉田師長はDOA「亡くなってご到著」患者だと他の病院では判斷されそうな――そして実際には形だけ「醫療行為」をして「最善は盡くしましたが、殘念です」という常套じょうとう――文句しか言わない醫師とは全く違う。

まあ、災害とかが起こって救急救命室の限界をオーバーしたキャパになった場合は知らないけど、トリアージブラックに――手當不要――判斷されてしまう患者さんでも「まだ脈が微かにれているわ。開マッサージ!!とか言ってしまえる人だ。実際にそうやって助かった患者さんも居る。

ただ、開マッサージは患者さんのの上に乗って行うのが普通なので、オレが乗った場合肋骨が折れてしまうという……。

ただ、救急救命室の場合は命に係わるものを最優先させるので、心臓がいてくれれば肋骨を折ろうが関係ないっちゃない。

田中先生だって同じような重なのに――オレのはぜいで、向こうは筋という悲しい差はあるものの――患者さんのの上に乗っての心臓マッサージで肋骨を折ったという話は聞かない。

今度そのコツを聞いてみようと思った。

そして杉田師長は醫療のことに関しては人が変わったように熱心だし真剣さは研ぎ澄まされた刀のような――いや、ナタかも――輝きを帯びる。

そしてオレの頭部の畫像を見ている――本當は読影は醫師しか出來ない決まりだが、Aiセンター長も兼ねている田中先生に教えを乞うて完全にマスターしたらしい。

Aiセンターの業務は病院で死亡した患者さんの本當の死因をMRIやCTを使って確認するというもので、田中先生はセンター長になるために放線科の専門試験にも見事バスしている。

田中先生に「すごいですね!おめでとうございます」と心の底から言ったら――なくともオレは外科関連の専門試験は仕方なくけているだけで、他科のなんてける気にもなれない――すると田中先生は苦い笑みを浮かべていたのが印象的だった。

「目指したいものは遙か遠く、しかも高嶺にあります。この程度では距離は全く埋まりません」

と、分かったような分からないような返事を返してくれた。今思うとなんだか詩ポエムのような気もする。

「ポエマー田中」とあだ名を付けようかと一瞬思ったけれども、命名者がオレだということくらい田中先生は直ぐに分かるだろうし、そうなった時の報復が怖いのでやめておこう。

ポエムとは正反対にいる杉田師長の口ぶりもなんだか笑いを堪えているじだった。

多分。

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