《香川外科の愉快な仲間たち》久米先生編 「夏事件」の後 124

「田中先生には、格別なご配慮を賜ったにも関わらず……」

「格別なご配慮」というのが分からない。まあ、田中先生は井藤の件で誰よりも熱心にいていたのでその関係かもしれないけれど、違うかも知れない。何しろ病院顔の広さもハンパではないことは知っている。もちろん人気もだけれど。

そういうのが表に出てしまっていたらしくて、木村先生は畫像を読影用のライトにセットしながら口を開いた。

「あの、もう名前を言うのも聞くのもおぞましい研修醫の危険を早い段階で教えて下さったのが田中先生なのです。

その予兆を察知して厚意で私どもに教えて下さったのに、あんな最悪の事態になったことは脳外科の一員として慚愧ざんきの念に堪えないです。

それはそうと、全く異常は認められませんので大丈夫です」

畫像に異常がないのはある意味當たり前だったけれど、田中先生は本當に、そして心の底から井藤による香川教授への攻撃(?)を事前に防ごうとしたのは確かだった。

だから當然脳外科にも接は試みたハズで、それでも防ぎきれなかったという無念の思いが脳外科の醫局にも、そして田中先生にもあるのだろう。

「岡田さん、そうじゃないのっ!これは、ああすべきなのよっ!!」

醫局にしつこく粘っていた甲斐が有ったと心の中でガッツポーズをした。

それに木村先生さえ研修醫のオレに――まあ、香川外科の一員だったからだろうが――こんなに丁重に接してくれるのだから――しかも誰かは分からなかったけど、ケーキまで買いに行こうとしてくれた。

基本的にはそういう雑務はナースに任せるのが普通だ。

「岡田さん、脳外科にお邪魔しています。し用事が有ったので……」

流石に転倒した結果の仮病ならぬ「仮傷」で手をサボったとかは良い辛い。

「久米先生、またお會いできて嬉しいです」

ガミガミと叱っていたナースは苗字を聞いて、真っ青な顔になっている。人を幽霊か何かみたいに思っているのかも。

「――久米先生ってもしかして、香川外科の?」

恐る恐るといったじで確かめられた。

「はい、そうです」

そう答えると、葵の家紋の――徳川將軍家の親戚とかしか持てないヤツだ。今は京都の観地で山のように打っているが――印篭いんろうを見た悪代みたいに地面に這いつくばるような勢いだった。

「そんな、まだまだ私は半人前で……しかも『人間扱いをされない』とまで言われている研修醫の分際です。

すると。

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