《香川外科の愉快な仲間たち》久米先生編 「夏事件」の後 138

木村先生は悲しそうなじで頭髪を掻き上げている。頭皮マッサージなら、ハゲ……いや、弱り切っていそうなにも効果的だろうと思えるが、何だか憂さ晴らしをしている強さだったので、余計に髪のが抜けてしまわないか心配してしまった、余計なお世話だろうけど。

「久米先生は、ご存知かどうかは分からないのですが、ウチの病院改革の一環で電子カルテに一本化された時が有ったのです。しかも従來使っていたマイクロソフト社のモノをアップル社に移行するという作業なのですが。

その時も同じシステムエンジニアを呼んで作業をしてもらったのですが、朝の9時から3時間で仕事が全て終わりました。

その人が『これを復舊させるのは三日三晩徹夜しないと無理です』とお手上げ、いや匙を投げたというじでした。『このPCを木端微塵に打ち砕いた上で水を掛けて山の中にこっそり埋めて來たらどうですか?』とまで言われました……」

電子カルテへの完全移行は——普通なら予期しないパグとかも見つかってしまうというウワサはネットとかにも書かれているので――凄く大変だろうと皆がハラハラしていたらしい。しかし、ウチの病院と契約している會社の人がよほど有能だったのか何の支障もなくスムーズに業務が効率化したと聞いている。

古めかしい教授達は、萬が一に備えてPCの中にインプットした報を全てプリントアウトして萬が一に備えていたともチラッと聞いた。

その紙の量も凄かったらしいけれど、まあ危機管理能力という點は評価したい。ただ紙で殘しておいて、データが最悪全部吹っ飛んだとしても、誰が力しなおすんだ?という問題はあるような……。

まあ、杞憂に終わって良かったとも思った。何しろ教授の中には「USBメモリって何だ?」とか真顔で聞く人も居るらしいし。

「そんなにPCの中がぐちゃぐちゃだったらそうするしかないかも知れませんね。専門家がそう言うのならアドバイスに従……えなかったのですか」

木村先生の悲しげな怒りの表で察してしまった。

「何しろ、個人所有のPCなので強く言えなかったみたいですね。當時の白河準教授も。

これが我々のような病院貸與品だったら話は早かったのですが」

醫局の人間だけが混を極めていると思っていたのだけれども、パソコンまでがカオスだったとは……」

悄然と肩を落とす木村先生に何と言って良いのか分からなくて困っていると、軽やかな足音と共にコーヒーの良い香りが漂ってきた。

案の定。

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