《香川外科の愉快な仲間たち》久米先生編 「夏事件」の後 155

「――ここだけの話なんですが、香川教授があんなに酷い目に遭わされたでしょう?あのポンコツの井藤……センセに」

アクアマリン姫はガチに怒っているらしく、華奢な指を拳骨形に固めてブルブルと震わしている。

「あ、久米先生もお怪我なさったんですよね、あの時、そう言えば……」

怪我と言っても、オレの場合、北教授からの第一報がって田中先生が杉田師長の機転で――伊達に年とかキャリアは積んでいないなと思わせる素晴らしい決斷力と判斷能力だった――北教授の搬送された救急車で京都駅に向かった。オレはその後「何もない」ところで転んだ上に、咄嗟に手でを庇うということが出來なくて顔面を思いっきりコンクリートでぶつけただけで、きっかけは井藤の兇行だっただろうけれど、オレの怪我までアイツのせいにするには流石に可哀相だ。井藤は大學時代から嫌って避けてきたオレだったけれども。

「オレの怪我は置いておいて……というか些細なことなので気にしないで下さい。それで?」

この話しは自分でも間抜け過ぎると思っていたので、出來ることならスルーしたい。アクアマリン姫は田中先生の印象通りとても格の良いだろうなとは思うけど、オレの顔面の怪我については流石に呆れるかもしれないし。

今まで順調に好度を上げているじがしたので、マイナス要素は避けたいのが正直なところだった。

「喫茶店での田中先生は、何となく傷ついたというか、心に鬱屈が溜まっているようなけました。

いえ、普段通りの――と言っても私はそうお會い出來るわけではないのですけれど――快活さとか笑みを浮かべてはいらっしゃいましたけれど、何となく、一回目に會った時とは違うなって思いました」

へーそうなんだ?と思った。オレは全くそんな変化に気付いていなかった。

けれども、香川教授がメスで付けられた傷は大したことがなかったのは不幸中の幸いだったと思う。だけれども、あの「神の手」とも呼ばれる腕にメスを突き付けられたのだから、その時のショックは凄いものだったんだろうなって思ってしまう。

オレは「神の手」とかじゃないけれど、外科醫として指や腕は殊の外大切にしている。

香川教授の場合は、世界中から手技の実績を慕って患者さんが集まって來ているのだから猶更「腱を切られたら」とかの恐怖をじるだろう。

田中先生は誰よりも早く井藤のバカの危険を察知していていただけに、未然に防げなかったとの忸怩たる想いがあったのかもしれないな。誰にも悟らせないように振る舞っていただけで。アクアマリン姫の――はそういう勘が優れているとか言うし――言葉を聞いて改めてビックリしてしまったんだけど。

そして。

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