《転生しているヒマはねぇ!》6話 代理

オレは夢に邁進する男だ。

これからの冥界での生活をエンジョイするするために、初の休日を図書館で過ごし、マタイラの現界の歴史について書かれた本を読み漁った。

もっとも量が膨大すぎて、50年くらい前までしか遡っていない。それも大まかな歴史の流れや、大國の文化などをかじった程度だ。

現界の歴史に人類が登場してから約30萬年なので、大まかな流れを摑むだけでも途方もない時間がかかる。オレが擔當する植の誕生やら現界の発生は、うン十億年前。冥界にいたってはその遙か昔から存在してるそうだ。

まあ、なんにしろ、オレとプルルさんのハッピーライフの準備は整った。

だというのに

「フッ、お前の働きぶりを直接見に來てやったぞ。嬉しいだろう」

なんでお子ちゃまが……。

オレは言葉もなく、その場に崩れ落ちた。

「うむ、うむ。嬉しくて聲もでんか。わかる! わかるぞ! ハーッハッハッ」

いつまでも落ち込んでいても仕方ないし、このちんちくりんの高笑いを聞いているのもしゃくなので、オレは顔を上げて口を開く。

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「あのマーシャ様、プルル補佐はどうなされたのでしょうか」

オレの質問にマーシャ様は眉をしかめた。

「なんじゃ、堅苦しい言いをしおって。魂姿の時は、もっとくだけた言いであったろうが。許す。もとに戻せ」

転生界で一番偉い方と聞いたので、ちょっとビビっていたが、思いのほか懐の深い方のようだ。

オレはマーシャ様の言葉に甘えさせてもらうことにした。

「おい、ガキんちょ。オレのプルルさんはどうした?」         

「誰がガキんちょじゃ!!」

「ぐはっ」

マーシャの前蹴りがオレの脇腹に刺さった。

思っていた以上にの小さい奴。

というか、聞いていた話と違う!

「こ、このは痛みをじないのでは?」

「フフン。儂は魂魄に直接ダメージを與えられるからのう。儂の一撃は地獄界の魂魄崩落刑こんぱくほうらくけいよりも魂魄を削り取る。お前程度の魂魄なんぞ、あと二三発も打ち込めば跡形もなく消し去れるわ!」

ふんぞり返ってとんでもないことを言ってくる。

地獄界の魂魄崩落刑というのがどういうものかは知らんが、この嬢ちゃんが危険であることは理解した。

「だいたい儂は子供ではないわ。転生界では一番、冥界全でも六番目の歳上じゃ! 覚えておくがよいぞ、くそガキ!」  

「え、マジで! どう見ても中學生にしか見えないぞ」

役所の廊下で、どう見ても六十歳を越えてるようにしか見えない爺さんとすれ違ったことがあったが、こいつはそれより歳上だというのか。

「うむ。すっかりくだけた口調になったの。良いことじゃ。確か中學生というのはチキュウでは十三・四歳であったな。この姿、我らは仮かたいと呼んでおるが、これは魂魄の影響を強くける。

つまり、いつまでもしく若い姿の儂は、衰えを知らぬ高貴でしい魂魄を持っているということじゃな。崇め奉ると良いぞ」

なるほど、どれだけ年を重ねても長しない、の小さいガキんちょということか……。

それが、冥界の中でもかなりの権力を握っている。

うん。敵にしちゃいけない奴だね。わかった。

「スバラシイ。マルデメガミダ。イヤ、ソウニチガイナイ」

「何故、棒読みじゃ!

ムゥ、仮じゃと思考にモヤがかかりおるからな。本音がわかりづらくなるのが難點じゃ」

本音をオブラートで包むのは、弱者が生き殘る必須スキルさ。

「まあまあ。そんなことよりプルルさんはどうしたの?

まさか病気とか怪我じゃないよな」

「違う。あやつは病にかかるようなな魂魄はしておらんし、仮は怪我はせん。単なる有休じゃ。有休」

「あれ? マタイラの現界に有休なんて概念ないだろ」

本で読んだ限りじゃ、こっちの現界は剣と魔法のファンタジーだ。あまりチキュウの會社のようなシステムは発達していなかったようにじたが……。

「ほぅ。勉強しておるではないか。見直したぞ」

クソッ! なんでプルルさんじゃないんだ!

「我らが取りれておるのは、自分たちの現界の文化だけではない。異世界の文化も楽しそうであれば取りれておるのだ。

冥界は、そこに永住しとる魂魄からすれば、退屈なとこじゃからな」

「ふーん。そうなのか。でも有休か。それならそれで仕方ないか。明日は?」

「來る。そういえばお前さっき、オレのプルルとか言っておったの」

プルル『さん』だ。馬鹿者め!

「なんじゃ、あやつに惚れおったか?

まぁ、あやつも儂ほどではないが、高貴な魂魄じゃからな」

……。

「まさか、プルルさんも存在して長いのか?」

「ん? いや、あやつは若いぞ。

まだ生まれてから4千年程度しかたっておらんからな」

スッゲェ歳上でした。ニホンの隣の國並の歴史でした。

「お前にとっては殘念だったかもしれんが、今日は我慢せい。

儂も半ば無理矢理働かせた手前、お前の様子を見ておきたかったんじゃ。今日1日は、大人しく儂に補佐されておけ」

マーシャの視線は慈に満ちていた。態度はデカいが、こいつなりにオレに気を使ってくれているようだな。

は小さいが、悪い奴ではない。

仕方ない。今日1日くらいは子供のお守りをしてやるとしようか。

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