《転生しているヒマはねぇ!》16話 預言
キリッ!!
「プルル補佐。こんな所で會うなんて偶然ですね」
オレは、ナイススマイルを顔にりつけそう言った。運命ですねって言いたかったくらいだ。
「アハハ、もう補佐じゃありませんよ。もう! マーシャ様ったら、前から予定に組んでいた有休を取っただけなのに、翌日、出勤してきたら補佐代じゃー! ですよ! もう、本當にワガママなんだから! 
あっ。今のは緒で♪」
ペロッと舌を出すプルルさん。
もう! ホントーにカワイイんだから! あっ。今のはナイショで♪
「それと、ここでお會いしたのは偶然じゃないんですよ。アイちゃんから、先週、監視がここで本を借りたらしいって聞いたので、今日もいらっしゃるんじゃないかと。貸出期間1週間ですし。
勉強をされるなら私でも何かお手伝いできるんじゃないかと思いまして。それにちょっとお願いもありまして……」
「お願いですか。ボクにできることなら、なんでもさせてもらいます! なんでも言ってください!」
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「え、え~と~、とりあえずそれは後で! ほら! まずは監視の探している本を見つけちゃいましょ!」
顔を赤くして誤魔化してきた。何か言いづらいことなんだろうか?
まぁ、本人が後にすると言っているのだから、今はお言葉に甘えて、こちらを優先させてもらおう。
とりあえず、オレはまだ憶測に過ぎない人類部への疑は伏せ、ハイエルフがソレイユ王子にクロスジャミールを寄贈することにした経緯を調べたいことをプルルさんに伝えた。
「なるほど、監視は今回の一件に、冥界側からではなく現界側からアプローチしていくことにした訳ですね」
「送る魂をすり替えることで影響をけるのは、冥界より現界です。ソレイユ王子が生まれてから、本人や周囲の魂に特別な変化を観測できていない以上、王子が生まれてから彼の周囲で起きている珍しい出來事を調べてみるのは必要だと思いまして」
「アハッ。やっぱりダイチ監視はスゴいです」
「え? そんな特別なことを言ったつもりはないんですが……」
「そんなことないですよ! アイちゃんもずっと譽めてますもん。『アイツは頭が良い。マーシャ様と違って良い意味で常識に囚われない』って」
うん。比べている相手がチョロいな。
「やっぱり現界の、それも異世界の経験者は一味違いますよ」
「ん? その言い方だとプルルさんは現界を生きたことはないんですか?」
「ええ、冥界生まれの冥界育ちです。マーシャ様とアイちゃんもですよ」
「……ところで、アイちゃんというのは、やっぱりアイシス補佐のことですか?」
「はい! アイちゃんとは生まれた時期が近いので、仲が良いんです」
アイツも4千年の歴史か……拳法とか得意そうだもんな。
「話をもとに戻しますけど、そういうのを調べるんだったら、本より新聞の方が良いと思いますよ」
「へぇ、マタイラにも新聞かあるんですね」
「冥界だけですけどね。冥界には刺激がないですから、現界の報を好んで読む人多いんです。現界とかかわり合うことなんてないんですけどね」
「う〜ん。でも新聞記事を細かく調べていくのは大変そうですね」
オレが頭を掻きながらそういうと、プルルさんは首を橫に振った。
「そんなことはないと思いますよ。エルフ・・・特に世界樹のある大森林のハイエルフは、壽命が長いせいか、魂ばかりでなく、生活自に変化の乏しい種族です。
遠く離れた大陸の王子の誕生祝いに、花を送るなんて大事件です。
冥新の記者さんたちが、これを記事にしない訳ないです!
絶対、特集組んでますよ!」
太鼓判を押すプルルさんに連れられて、新聞コーナーにやってきたが、さすがに10年前の新聞はそこにはなかった。しかし、司書さんに確認すると、保管してあり、希するなら持ってきてくれるとのことだった。
オレは資料室の資料に記載のあったクロスジャミールが寄贈された當日と前後3日、計7日分の冥界新聞を見せてもらうことにした。
結果から言うと、そこまで必要なかった。
翌日の新聞に、ハイエルフがホーレイト王國にクロスジャミールを寄贈するに至った理由が、きっちりと書かれていたのだ。
預言。
新聞には、それこそがハイエルフがソレイユ王子の誕生を祝福している理由だと記述されていた。
『月が太のを纏いし時に生まれし狼の子 死より出たる秩序の破壊者 集いし數多の命と共に討ち滅ぼし 世界を救わん』
ハイエルフの集落の長老が、王子の生まれる一月前に宣った預言だそうだ。
ホーレイト王國の國旗には狼が描かれ、王子の生まれた時刻は、ちょうど金環日食が起きた時だったそうだ。
つまり、ハイエルフたちは、ソレイユ王子が、そのうち出てくる秩序の破壊者とやらを倒す勇者だと考えたと、そういうことらしい。
それは別にいい。この預言をハイエルフたちが信じて、王子と仲良くするのは彼らの勝手だ。
問題なのは、この預言が魂のすり替えを計算にれたものかどうかだ。
この預言の示すは、ソレイユ王子で正解だとしても、預言の示す魂は、今の王子の魂か、それともオレか。
仮にオレだとしたら、今回の魂のすり替え事件にはこの預言の容が関係してるんじゃなかろうか?
この記事からわかることは、これくらいか。その後、ハイエルフから王子に接があったのかは、この記事からはわからない。人類部の資料を見た限りでは、王子の側にいたエルフメイドは、ハイエルフの中にはいないみたいだから、大森林の出ではないようだ。
「ありがとうございました。プルルさん。とりあえず知りたかったことは知ることができました」
「それは良かったです。どうですか? 事件解決の役にたちそうですか?」
「それはなんとも……。謎がより深まったとも言えますし……」
もっとも、謎が深まるのもひとつの進展とは言えるか。なくとも停滯ではない。
「なんにしろ、助かりました。プルルさんがいなかったら今日中にこの記事のことを知ることはできなかったでしょう」
「エヘヘ。そう言ってもらえると、ここまで來た甲斐がありました。……そ、それでそのう……さっき言っていたお願いなんですけど……」
「ああ、そうでしたね。今回のお禮もしたいですから、ボクにできることであれば、なんでも仰ってください」
「そ、それでは!」
プルルさんが大きく息を吸い込む。
……ゴクリ。
「私と角合わせして下さい!!」
?
「嫌……ですか?」
プルルさんが不安そうに上目遣いで聞いてくる。
ああもう! なんでこう仕草のひとつひとつがカワイイんだ!
「滅相もない! ボクにできることならなんでもします! ただその角合わせとはなんですか?」
「あっ、ごめんなさい。そうですよね。生前は角が無かったんですもんね。え~とですね。角合わせというのはお互いの角と角とをぶつけ合うんです。
あっ、でも安心してください。痛かったりはしませんから」
ふーん。まぁ、魂魄が削られないというなら、オレに嫌はない。いや、削られてもいいか、プルルさんの頼みだしな。
「わかりました。どうぞ遠慮なくやってください。オレはどうしたら良いですか?」
プルルさんに満面の笑みが咲く。
「わぁ、ありがとうございます! 私がやりますので、ダイチ監視はそのままリラックスしていてください」
そう言って、テーブルを挾んで正面に座っていたプルルさんは、オレの隣に移してきて、オレと向かい合った。
そして、顔をグッと近づけてきた。
「ちょっ! 近い! 近いですよ、プルルさん!」
「? 近づけないと、角が屆きませんよ? それに私と監視の角は長いほうですから。他の人とはもっと近いですよ」
なんだと?! 削ってやろうか、このクソヅノ!!
「では、いきますよ。えい!」
可らしい掛け聲と共にプルルさんが自の角をオレの角にぶつけてくる。
「えい! えい、えい! えい!」
右から、左から、時には正面から、とても幸せそうに角をぶつけてくる。
カワイイ♪ めっちゃカワイイ♪
こんなブロンドショートの顔が間近に迫ってくる。
手頃なサイズのが目の前で揺れている。
これはもう、抱きしめても良いんじゃなかろうか?
今の彼なら、後から謝れば許してもらえる・・・かもしれない。
我慢はできず、オレの腕が彼に向かってびる。
「な、なにしてんだよ。お前ら……」
「「え?」」
オレとプルルさんは同時に聲のした方を見た。
すぐ側に、アイシスが立っていた。
「真面目に勉強してると思ったのに!」
言うなり、紙の束をオレの顔に叩きつけた。
手の上に落ちてきた紙束には、マタイラ植生分布図と書かれていた。
まさか、昨日頼んだという、自習用の參考資料を持って來てくれたのか……。
しかも、よく見れば、あのアイシスが目に涙を浮かべているではないか!
普段とのギャップで凄くカワイイ♪
いやいやいや! 今はそんな事考えている場合じゃない!
「……帰る」
俺たちに背を向けたアイシスの腰に、プルルさんがしがみついた。
「待って! アイちゃん! 違うの!!」
「不潔だ!!!」
アイシスは腰にプルルさんをぶら下げたまま、凄まじい速度で走り去る。
呆然と二人を見送っていたオレを司書さんが現実に引き戻した。
「図書館ではお靜かに願います」
「はい、ごめんなさい」
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