《転生しているヒマはねぇ!》17話 疑
あ~あ。なんかやる気しねぇ〜。
昨日はあの後、他にもなにか摑めないかと、持ってきてもらった新聞と新聞コーナーにまだ置かれているものをじっくりと読んで見たが、ソレイユ王子に関連しそうな容は、3日前にホーレイト王國國王レオパルド3世が15歳になった第一王子を正式に次期國王とする旨を発表したという記事くらいだ。
むしろ、ソレイユ王子が、世界を救う勇者だというなら、その方がき安くて良いだろう。どのみち事件解決に役立つ報ではない。
だが、オレのやる気が沸き起こらないのは、報がないのとは関係がない。
現界への羨。転生できた王子の魂への嫉妬。冥界への虛無。
新聞なんて読むんじゃなかった。
いつかは冥界のに染まる。新聞を読む前にはそんな風に考えていたが、甘かった。
オレはいつか冥界に殺される。
冥界には現界のような輝きがない。ここは語の舞臺じゃない。
現界の魂のような役者ではないのはもちろん、観客ともいえない。見てはいても、移することもなければ、まずい芝居にがっかりすることもない。拍手なんて送らない。ただ、役者の変化を見ているだけだ。
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裏方ですらない。舞臺を整えたりしない。役者に助言なんて與えない。
舞臺が演じられるステージを作るのに必要な資材を建設予定地に運んで、サヨナラするだけのようなものだ。
冥界で、子供の仮はおろか、若い仮を持つ者の魂數がない理由がよくわかった。こんな世界で、若い気持ちを維持できる訳がない。
マーシャや書課の二人が特別製なのだ。
そんなダークなオレの気持ちに、拍車をかける事態まで起きている。
アイシスが來ていないのだ。
いつもオレより早くモニター室にいて、元気よく挨拶をしてくれていたアイシス。もちろん、いつかは補佐の役目から外れ運営省の書課に戻ることはわかっていたが、それは今日ではなかったはずだ。
昨日、激しく誤解されたのはわかっていたが、プルルさんがついていったからには、誤解はといてもらえたと思っていたのだが……。
「はぁ〜。最悪だな。仕事なんかやってられねえよ……」
「やる気がないなら~、辭めちまえ〜♪ キャハハハハーッ♪」
「ヒャァァァァァァ!!」
突然耳元でした聲に、オレは椅子から転げ落ちた。
何事かと、転んだまま顔をあげると、が宙に浮いていた。
赤く長い髪。髪と同の、額の左右から生えた2本の細長い角。背中の蝙蝠のような翼。おからびる鞭のようなしっぽ。
調った顔立ちに、男をするのが目的ですと言わんばかりの蠱的な姿態。
「キャハ♪ いいねぇ、いいねぇ。いいリアクションだねぇ♪
冥界の連中は反応薄すぎてつまんないからねぇ~。アンタの薄いのは頭だけ。マーシャ様が言ってた通りさ」
「薄くねえよ! 薄くなったのは20代後半からだ!! この姿の頃はまだ大丈夫なはずだ!!!」
「キャハ♪ そりゃあ、これ以上老けないように頑張らないとねぇ。私が楽しむ為にも、今の魂魄を保っておくれよ~♪」
浮いたまま笑って、クルクル回る。
「つーか、アンタ誰だよ?! いつって來たんだよ?!」
「いつからって、最初からいたさ。こんなじでさ♪」
オレに向けて投げキッスをしてくる。
瞬間、の姿が消えた。
「え?」
「誰かは……ナ~イショ。 キャハ♪」
「ヒャァァァァァァ!!」
またもや、不意打ちの囁きに、今度は悲鳴をあげながら立ち上がってしまった。
屈んでいたが手を叩いて喜んでいる。
「キャハ♪ ホントにいいねぇ~。魂魄を見れちまうマーシャ様や書連中じゃ、この魔法も意味ないからねぇ~」
くそっ! 落ち著け。落ち著け、オレ。
このままでは、この得たいの知れないムカつくのペースになっちまう。
ん? 得たいの知れない? 
うん。確かに知らないだが、ひとつだけ覚えのあるものがあった気がするぞ。
……そうだ。言葉だ。コイツが最初に囁いた言葉。
「窓際叩きのチェリー」
オレの呟きを聞き、は手を叩くのをやめた。
「あら、ばれちゃたのさ」
さして、殘念そうでもなく、チェリーは微笑んで立ち上がる。
「よろしく、ダイちゃん。アイシスが魂魄不調で休んじゃったから、代わりできたのさ」
「魂魄不調?」
オレに會いたくないとかではなく?
「現界で言う調不良さ。最初はプルルが代わることになったんだけど、プルルが、昨日アンタがソレイユ王子のことを調べてたって報告したら、お前の方が良いかもしれんてさ。
ンフフ♪ さて、なんでだろうね?」
チェリーは意味深な笑みでオレを見る。
……コイツ、試してやがる。
コイツはさっき、オレのやる気なし宣言を聞いていたからな。
オレが使えないと判斷すれば、容赦なく追い込んでくるはずだ。
窓際叩きだからな。
當然、報告もされ、アイシスやプルルさんの耳にもる。
考えろ、考えろ、ダイチ! 
やる気なくして、老け込んでいる場合じゃない。
考えるのをやめて、ただけれるだけの魂になったら、復帰した時に、アイシスががっかりする!
全力で考えろ!
黒髪ショートもオレの髪も、失うには早すぎる!!!
え~と、最初はプルルさんが代わる予定だった?
マーシャの奴、とりあえずお菓子のことは水に流したということか……違うか。きっと忘れただけだろう。殘念な子だからな。
でも、ただの殘念な子でもないのは確かだ。
報復でないなら、コイツを寄越した理由がちゃんとある。
マーシャが代理代を決めたのは、オレが王子を調べ始めたと聞いた後。
そして、コイツのさっき見せた能力……。
「……調査はどれくらい進んでいるんだ」
チェリーは正解とばかりに飛び上がって拍手してくる。
「キャハ♪ よくわかったじゃないのさ。あの三人が気にるのもわかる気がするねぇ~。まっ、プルルは角だろうけどね」
マーシャが言っていたことだ。オレが調査して見せるのは囮。ならば當然囮の効果を調査する奴がいる。囮だけを消されてもつまらないならな。
隠れてきを調査するなら、さっきの消える魔法は有効だ。
「そうさねぇ。マーシャ様にはアンタが聞いてきたら話してもいいとは言われてるから、話すのは吝かじゃないんだよ。……でも、実はあまり芳しくなくってねぇ~。」
「人類部には當然目をつけてるんだろ」
「ご明察♪ ただのミスにしろ計畫的な犯行にしろ、人類部の奴らが関わっているとしか考えられないもんねぇ~。でもさ、きがないというか、殻に閉じ籠っててね。
だいたいの魂は終業時刻を過ぎたら、居住界に帰るけど、部長と送魂課の課長が帰らなくてね。しかも、10年前かららしいのさ。ちなみに送魂課の課長は10年前は送魂課の注係だった。その課長にいたってはさ、モニター係が帰った後、モニター室に居すわるんだよ。モニターは監視課の擔當だってのにさ」
「骨に怪しいな」
「そうなんだけどさ。10年も続けてりゃ習慣だと言われたら、強制的に調べる訳にもいかない。姿を消しても、部屋にずっといられるんじゃ、こっそりとはできない。なんたって、あたしら本來は食事もトイレも必要ないからね」
まぁ、そうだな。
でも、なんだろうな? 犯人なら証拠をかくそうとするのは當然かもしれないんだが、妙に違和があるな。
「どうしたのさ? 黙っちゃって」
「ああ、なんかイメージが合わなくてさ」
「イメージ?」
「なぁ。マーシャ、時間取れないかな? できれば、マーシャもえて話がしたい」
チェリーはしだけ考えたようだが、すぐに頷く。
「わかった。マーシャ様には魂魄通話しとくよ。時間は取ってくれるさ。あの人、普段の仕事サボるの大好きだからね。それとこっちの仕事も気にしなくていいよ。叱るのが自分の仕事と勘違いしてる、暇人の課長に押し付けるからさ」
「わかった。ああ、それと」
「なんだい?」
「……活をれてくれて、ありがとな」
チェリーが目を見張る。やがて妖艶に微笑む。
「素直に禮の言える男は嫌いじゃないよ」
オレは気合いをれ直し、マーシャと面談することとなった。
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