《転生しているヒマはねぇ!》27話 冥界新聞社
時間にすれば1分にも満たない時間だった。  
アイシスはオレに抱きついたまま、スクッと立ち上がった。長差があるのでオレのが浮く。
アイシスが丁寧にオレを床に下ろしてくれる。
「ありがとう、ダイチ! 元気出た!!」
その言葉が噓でないのは、表だけじゃなく、なんというか纏っている雰囲気みたいなものでも伝わってくる。
「ダイチ、悪いが帰ってもらってもいいか? 私、今から仕事に行く!!」
「今から⁉  どうして?」
「ん~。私だから?」
アイシスのその返答に、魂魄の底から笑いが込み上げてきて、オレはおもいっきり笑った。アイシスも笑った。
「わかった。オレはもっとマタイラの事を知りたいから、勉強してくるよ」
「そうか。……あと、言葉なんだが……」
「あ! す、すいません!」
「違うんだ! これからは、その、さっきみたいので頼む。……そのほうが嬉しい。と言うか、マーシャ様にはタメ口で、私には敬語って、おかしいだろう!」
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「そうか? 最適解だと思うが。まぁ、わかった。これからはコレで。
……アイシス。もう、大丈夫なんだな?」
アイシスがしっかりと頷いてくれる。
「大丈夫! し、気恥ずかしいが、みんなの希になってくる‼」
まるで、一度沈んでしまった太が、より輝きを増して再び昇ってきたかのような、強い意思のこもった瞳だった。
惚れた。
今までさんざん黒髪ショートが良いだの、言が心地好いだの言ってきたが、そんな建前的な理由全て吹き飛ばして、オレは目の前の、輝くひとりの魂魄に惚れた。
「そ、それとだな。わ、私にとっての希は、そ、その……ダイチだから‼ ……も、もう行け!」
急にモジモジして、そう言ったかと思うと、今度はオレを玄関へと押しやってくる。
あー、なんなんでしょ? このカワイイ魂は♪
オレは、最後にはほっこりとした気持ちに包まれ、アイシスの部屋を後にした。
マンションの外まで來ると、オレは自分の顔をパシッとひと叩きした。
気持ちの切り替えだ。
アイシスのお見舞いは、オレの予想の斜め上を行く形で終わったが、人に発破をかけたからには、オレ自も頑張らない訳にいかない。
マタイラを知る。
特に現界のことだ。
冥界のことはこれから実際に験できるし、アイシスも含め、助けてくれる魂も多い。
現界は、基本的に覗くだけの場所にはなりそうだが、魂すり替え事件の真相にたどり著く為には、蔑ないがしろにする訳にはいかないと思う。過去、現在、特に王子を取り巻いていた環境は詳しく知っておきたい。
オレは、昨夜『い~と魔鬼魔鬼』からの帰り際、半ば無理矢理に押し付けられたノラの魂魄信號に向けて思念を飛ばす。
ノラはすぐにでた。
(やあ、やあ、ダイチさん。よくぞ連絡してきてくれました!
もしかして、もうマーシャ様の許可を取ってきてくださったんでござんすか?)
(ああ、うん。それは取れた。社長の言ってた通り簡単だった)
(いや、いや。簡単か難しいかは関係なく、筋を通すというのが大事でござんした。あっしの抜けていたところを、ダイチさんは補ってくれたでござんすよ。それでどういたしますか?  仕事容や契約容を説明したいのですが、ダイチさんに時間がおありなら、今日にでもウチにいらっしゃいませんか?)
(それなんだけど、今からは無理かな? 今日、仕事が休みになったんだ。できれば、昨日の続きというか、もうちょっと現界の世界勢なんかも教えてくれると嬉しい)
(おお!  願ってもない申し出でござんすよ! できれば王子の件の後も、現界コメンテーターみたいな役割をやってもらいたいと思っておりました! よござんす、いらしてください。ウチの場所はわかりますか?)
(いや。今、景観ぶち壊しのマンションの前にいるんだけど……)
(ああ、あそこですな。近いでござんすよ)
ノラが會社までの、道順を説明してくれた。ここからなら、5分くらいで著きそうだ。
それにしても景観ぶち壊しで通じたぞ。みんなじてんじゃねぇか? マーシャのセンスはダメダメだな。
(いろいろ忙しいだろうに、すまないな)
(ウチは、優秀な社員でもってる會社でござんすよ。あっしはいてもいなくても変わりござんせん。たまに、良い記事書いてくれそうな魂をスカウトするだけでござんすから、基本暇でごさんす。遠慮せず、お越しになってください)
それじゃあまたあとでと、ノラとの通話を切った。
口ではああ言っていたが、仮にも新聞社の社長だからな。実際には、わざわざ時間を取ってくれたに違いない。……たぶん。
冥界新聞社は、すぐに見つかった。居住界のメインストリート『冥界大通り』沿いだ。周囲には、おそらく居住界の生活を支えているのであろう、大きそうな會社の社屋が複數見られた。
新聞社にり、付のおばちゃんに來訪を伝えると、すぐに応接室に通された。ソファーに腰掛け待っていると、ほどなくして、ノラが、自らお茶と茶請けの乗った盆を持って現れた。小脇に書類がっていそうな封筒を挾んでいる。
「お待たせしました、ダイチさん。ああ! 座ったまま、座ったまま」
立ち上がりかけたオレを制し、茶と茶請けをオレの前に置くと、ノラはオレの向かい側に座った。
「來てもらって早速ですが、仕事の話をサクッと終わらせましょ。その方が現界談義に華を咲かせられるってもんでござんすよ」
ノラは封筒から、契約書類やオレに依頼する仕事容をまとめたプリントを取り出し、オレに説明していく。
仕事の容は、さして難しいモノではない。現界で起きた事象について、オレの率直な意見を、毎日、原稿用紙2~3枚程度でまとめるだけだ。
オレの日々の心の聲に比べればない。
「問題ございませんか?」
「大丈夫だけど、報酬高くない?」
「へ? そうでござんすか?」
月の報酬額が、オレの部屋の月の家賃を大きく上回る額になっていたのだ。毎日とはいえ、記載する量自は多くない。しかも、容はオレの獨斷と偏見で構わないという。その割りには、額が多い気がする。ぶっちゃけ役所を辭めても生活できる。
まぁ、実際には、冥界では、金がなかろうと野宿だろうと、快適に生活できてしまうから無報酬でも、まったく問題はない。こういう制度を取りれてるのは、あくまでも刺激のためだ。
「それじゃぁ、顧問料も込みということで。ありゃ、そうすると逆に安くなりますかな?」
「顧問?」
「はい。あっしらがやっとるのは、所詮は異世界にある現界の真似事でごさんす。ラヴァーさんにお聞きした容を、それっぽくやってるだけでごさんすよ。そこで、実際に新聞のある世界にいらっしゃったダイチさんに、いろいろとご指導して頂ければと」
「ふーん。でも、ここ古くからやってるんだろ? ノウハウなんてたくさんあるだろ?」
「変化に乏しいのが、冥界の特徴でござんすよ。もちろん、社員たちは皆頑張ってくれてますがね。
ダイチさんには、新風を吹き込んでしいでござんす。異世界の方で、マタイラの冥界に留まってくれる貴重な方は、これまでラヴァーさんくらいしかいませんでしたのでね」
「へぇ。ラヴァーさんて異世界出なんだ?」
「前世は、マタイラの現世で、商売の神様をやってらっしゃいましたが、その前はハテナキという世界で、AIなる職業に就いてたとか。AIがどんな仕事かは知りませんがね」
……え?  ……きっと何か別の略だよね? あのAIじゃないよね?
「さて、つまらぬ話はここまで! そろそろ現界談義と灑落こもうじゃござんせんか!」
頭を悩ませるオレを目に、ノラが、舌嘗めずりをして、そう言った。
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