《転生しているヒマはねぇ!》32話 人事異
「もし、可能ならお願いしたいです」
長い時間をかけて、ソレイユはオレの言葉にそう答えた。
「わかった。出來る限りのことはやってみるよ。しつこく頼むくらいしかできないけどな‼」
「はい。それで充分です。正直、戻せる記憶があったとしても、まったく刺激のないこの部屋で思い出せる気はしませんから、出られる可能があるなら、それに賭けたいです」
まぁ、そうだろうな。
思い出すにしても、やっぱりきっかけは必要だろう。
「わかった。……それじゃあ、オレ帰るわ」
「え⁉ もうですか?  私に聞きたいことがあるって言っていたじゃないですか! まだ、なにも質問されてないのですが……」
よっぽど退屈していたのだろうか、ソレイユの聲が殘念そうだ。
「ああ、あれね。しは聞けたし、殘りはお前がこの部屋を出れてからの楽しみにとっておくよ。進む先に楽しみがあった方が、頑張れるからな」
「……わかりました。ホーレイトの事は、他にも気になることがいくつかありますので、聞いてくださいね。この部屋の外で」
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「おう。期待しないで待っててくれ」
オレはナイススマイルを見せた……気分に浸ってインターホンを押す。
ドムスさんは、面會の終了を伝えるとすぐにやって來た。仕事が早い。
ドムスさんの存在自にせかされたが、それでもオレは部屋を出る直前に、もう一度ソレイユに聲をかける。
「ソレイユ!」
「はい?」
「また、今度な‼」
「!  はい、また今度!」
オレが部屋を出ると、ドムスさんは、速やかにドアを閉め、特にのこもらない表で鍵をかけた。
ソレイユの姿は扉の向こうに消えたが、オレの中にはしっかりとした手応えが殘る。
やっぱり、魂の姿で來たのは正解だったな。
ソレイユが打ち解けてくれたがある。仮という壁を作ったままではこうはいかなかったろう。
話を聞くという目的は、ほとんど先延ばしになったが、先のことを考えたらこれで良かった。
今後に明るい展ができたオレは、上機嫌で魂宿所を出る。
すると、魂宿所に向かって歩いてくる人影が視界にった。 人影はレイラさん。彼もオレに気がつき手を振ってくる。
「レイラさん、どうしてここに?」
「お話しは後で。まずは、……」
不思議がる俺を制し、レイラさんはオレの魂魄に優しくれた。
視點が急に切り替わる。
さっきまで、オレの覚では上にあるとじていたレイラさんの顔が、はっきりと下にあった。
驚いたことに仮に戻っている。
「おお! レイラさんもできるんですね! 仮造り」
「ええ、こう見えても、姉さんの妹ですから♪」
「……姉さん?」
「あ、ごめんなさい」
レイラさんが可らしく自の頭を軽く叩いてペロッと舌を出す。
「マーシャ様のことです。異父姉妹なんですよ、私達。勤務中以外は、姉さんと呼んでいるものですから。ここには、姉さんの代わりに來たんです。『儂は疲れた。後は任せる』ですって。
それで、面會が終わったら、知らせてくれるよう所長にお願いしておいたんです」
な、なんだと。この大人の雰囲気ありまくりのおねーさんが、あのちんちくりんの妹だと!
「母が同じなんですよ。私の方が2千年くらい後に生まれてますけど」
「母と言いますと、か……小説家の?」
「ええ。能小説家の」
レイラさんがそう言って笑う。
昨日、所長室で會った時より、雰囲気がすごくらかい。
どうやら、公私をきっちりとわける人のようだ。
「それにしても、ダイチさん。魂宿所から出てこられた時、とても素敵な雰囲気を纏っておいででしたよ。なにか進展がありましたか?」
そう問われ、ソレイユとの面會の容をレイラさんに話した。
「……お話しはわかりました。ただ、ソレイユ王子を役所で働かせる件に関しては、姉さんでも一存で決めることはできないと思います。彼はダイチさんと違って、今のところ『容疑者』の筆頭ですから」
あー、やっぱりそうか。
「ですが、ダイチさんの仰る通り、彼の前世の記憶を呼び覚ますには、充分な刺激が必要と思われますね。かなり深く消えているようですから。
監視付きという條件で、私の方から警備部と人事部に話をつけたいと思います。後は、姉さんが副所長を説得するだけですから、それほどお待たせせずに実現できるでしょう」
レイラさんがそう請け負ってくれた。
マーシャに大丈夫と言われるより、數倍安心できるから不思議だ。
「その件は、とりあえずお待ち頂くということで。……ダイチさん、お帰りになる前に、私と一緒に、転生役所の掲示板を見に行きませんか?
新しい人事が張り出されていますので」
「人事ですか?」
「ええ。今回の人類部の不祥事をけ、他の部署でも業務上の不正がないか、2日かけて調査いたしました。けないことに、かなりホコリがでてきまして、人事の見直しが行われたのですよ。
その人事異の結果が、掲示板に張り出されています。
ダイチさんも、面白いことになっていますよ♪」
レイラさんが、悪戯っぽい笑みを浮かべる。
ああ、こういう笑い方をすると、角はあるけど確かにマーシャに似てるわ。
レイラさんがの方が、お姉さんには見えるが。
特に斷る理由もなかったので、オレはレイラさんに連いて、転生役所のり口にある掲示板前へと移することにした。
そこでオレが目にしたものは……。
「出世、おめでとうございまーす!」
「……」
さっきのレイラさんの発言から、オレの名前も異の中にあるとはわかってはいた。
ただ、なぜかオレの名前は昇格人事の中にある。
魔獣部 送魂課 送魂先調査係 係長  カワマタダイチ
「えーっと、理由をお聞きしても?」
「冥界には定年退職という概念がない為、ポストが空くことが滅多になくて。これまで、昇格人事というのは、ほぼありませんでした。
この環境は、刺激が必要な冥界の魂に良くないという事で、降格人事が大量に発生した今回を機に、業務実績の定期的な調査を行い、更には、係長という役職も増やして出世の機會を増やし、所員のやる気を上げようということになったのです」
オレの聞きたいのは、そこではない。
「なるほど。で、なぜオレが?  勤めて20日程度なんですが……」
「冥界で勤務期間を考慮にれてしまうと、ますます出世の機會を奪ってしまいますよ。
功績をあげた者。下の者が功績をあげやすい環境作りに努めた者。そういった者たちを正當に評価する。昇格できない場合でも、手當てやボーナスで応えようと、一昨日の會議で決定したんです。
日々の変化の乏しい冥界にとっては、今回の決定は、とても革新的な事なんですよ♪」
そんな楽しそうに言われても、それもオレの聞きたい事ではない。
この人、わざと言ってないか?
「オレ、何かしましたっけ?」
「あら、人類部に強制捜索を行うための理由になった報。ソレイユ王子とダイチさんの魂が似ていない事を、姉さんと共に確認してきたのは、ダイチさんじゃありませんか」
「いや、実際に確認したのはマーシャで……」
「姉さんひとりだったら、発覚していなかった可能があります」
うん。それは否定しない。
「ま、まあ、いっか。わかりました!  明日……今日からまた、仕事覚え直して頑張りますよ!」
日付はすでに変わっていた。
今から帰って眠れる時間は數時間。
睡眠不足というものが存在しないのはありがたい。
「フフフ、益々のご活躍、楽しみにしています」
仕事の覚え直しにはなるが、なんとかなるだろう。
仮に次の定期調査で、業務実績最悪と判斷されて降格されても、別に困らないしな。気楽にやれる。
「でも、業務実績を定期調査なんかしたら、まずいんじゃないですか?」
「なぜです?」
「お姉さんが、一番降格に近いんじゃないですか?」
姉妹と知れたので、茶化すように言ってみた。
「あら? ダイチさんは、転生界運営省と転生役所のこれまでのシステムの構築と今回の改革の提案。誰がされてると思ってらっしゃるんですか?」
え?
「冥界で働く魂たちが、しでも快適に過ごせるように、居住界の創造を提案し、その創造に一番貢獻したのは誰だとお思いですか?」
「……まさか」
「その、まさかです」
レイラさんは姉の代わりに、姉の分まで育っているを張った。
悪魔の証明 R2
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