《転生しているヒマはねぇ!》33話 パーティー(前半)

「それでは、カワマタダイチさんとンボドロゴさんの昇進を祝って!  乾杯!!」

「「「「「乾杯!!!」」」」」

一昨日に來たばかりだというのに、オレとンボさんは、また『い〜と魔鬼魔鬼』に來ていた。

ただし、今日は二人ではない。

「ハッハッハ! 今日は経費で落ちるようじゃ! 遠慮せず飲み食いすると良い!!」

「姉さん。はい、アーンして」

「経費ではない。私の奢り」

「おや?  ケチなあんたが、隨分気前が良いじゃないのさ」

「おめでとう、ダイチ。私も自分の事のように嬉しいよ」

「ダイチさん、まずは記念に角合わせを!」

「もう昇進を果たすとは……。さすがはダイチさんでござんすな」

「チェリー様! 是非、私めを椅子に!!」

昇格人事の欄には、オレの名前だけでなく、ンボさんの名前もあった。

オレと違って部署の異はない。

異世界部 迎魂課 付係 係長 ンボドロゴ

これはもう祝うしかないと、晝休みに役所の食堂でンボさんと計畫をたてていると、いつの間にかオレの背後にラヴァーさんが立っていた。

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「その話、預かる。二人とも魂魄信號換の準備を」

俺たちはまるで催眠にでもかけられたかのように、突然現れたラヴァーさんに異議を挾むこともできず、まれるがままに手を差し出し、魂魄信號換を行った。

「終業時刻に同時連絡する。二人とも予定を空けておくことを希

言いたいことだけ言って立ち去る彼に、なんだか話を続ける気を奪われてしまいそのまま解散した。

そして本當に終業時刻ジャストに、『い~と魔鬼魔鬼』5時半集合とだけ連絡をけ、二人で來てみたらこの狀況である。

マーシャに書5人、植部とンボさんの所屬する異世界部の方々、それに部外者のノラやまったく知らない顔までが、関係者面して、テーブルについている。

完全にこの集団の貸切狀態。

早くても今日の晝の予約であったろうに、よくキープできたもんだ。

「ラヴァーさん、これはいったい?」

オレはともかくンボさんは、完全に固まっている。

「二人の昇格祝い、及びダイチ歓迎會、及び先行投資」

「先行投資?」

「肯定。私は居住界のほとんどの飲食店のオーナー。この店もそう。元人類部モニター係の男にこの店の運営を任せていた。不覚。即日代」

ん?ということは、ここ潰れない?

「來月より観事業に著手予定。二人に協力を要請」

その言葉を聞いて、オレよりもンボさんが激しく反応した。

「ム、ム、ム、ムリです! ムリです、 ムリです!、ムリですよ〜! ダイちゃんはともかく、おいらは落ちこぼれです!  付の仕事でさえ、ヘマするんです! クビにならないようにするだけで、一杯なんですよ‼ なんでおいら係長になっちゃったんだろう?」

ンボさんの魂のびが痛い。オレも生前に同じ想いを抱いたことがある。自分の納得いく結果が出せないでいると、そう思っちゃうよね。

「否定。ダイチにむモノ=ンボにむモノ……否。

ダイチ発見時証言検証。

け渡し魂待機部屋區畫清掃中との証言。

あの辺りの清掃業務は総務部清掃課第8・9ブロック係の業務。

なぜ、ンボが?」

「そ、それは! あの部屋の周囲だけ、他に比べて汚れてる気がして……。なんか、あまり近づきたくないじはしましたけど……。た、魂に気持ちよく待機してもらうのも、お、おいらの仕事だから……」

ンボさんが俯いてしまう。

その話は、ンボさんから聞いている。

ンボさんの仕事ではなかったが、待機する魂が嫌な想いをしないようにって。もしかしたら、部屋の中も汚れてるかもと、開けてみたらオレがいた。

特に報告せずに自分でやってしまおうとしたのは、爭いを避けるンボさんの格上理解できる。

相手の足りないところを指摘して軋轢を生むくらいなら、自分でできる範囲は、自分でやってしまおうと思ったのだろう。その判斷が良いか悪いかは人によって評価が別れるだろうが、オレはそんなンボさんが大好きだ。

「その真面目さがダイチ発見に貢獻。

調査の結果、あの部屋とその周辺に忌避の魔法がかけられていたことが判明。

強制力弱の魔法、だから逆に使用がばれにくい。

魔法影響下により、清掃擔當者はそこのみ業務放棄。この狀態が10年継続。

汚れていることを報告しなかったのは、低評価。そこに踏み込んで、清掃しようとしたのは高評価」

「そこなのさぁ〜。ンボさんと言ったよね。あんたのそういうトコ、けっこう好かれてるみたいだよ♪」

いつの間にか監視課課長を椅子代わりにしていたチェリーが、話に割り込んでくる。

「植部の連中がさ、ダイちゃんの昇格を祝ってんのは、それに伴う異で厄介払いができるからさ」

離れたテーブルに陣取っていた、監視課課長を除く植部の方々が座っている方を見ると、一斉に視線をそらされた。……けっこう傷つくぞ、おい。

「でも、異世界部の連中は違うのさ。あんたの優しさ、真面目さ、ずっと見てきているからね。

心から喜んでくれているのさ、あんたのその真面目さが、報われたことを……さ」

驚きの表で顔を上げたンボさんは、異世界部の方々に目を向ける。異世界部の方々もンボさんに、暖かい視線を送る。

オレの方との気溫差が激しいな!

まぁ、それは置いておくとして、冥界は噓、誤魔化しができづらい環境であるから、余計に他者との距離ができやすい。

魂が傷つくのを恐れる為だ。

ひとりでいることが多ければ、その分自分の思い込みに囚われやすくなる。

ンボさんは、そういう悪循環にはまっていたのだと思う。

ンボさんは、自分で気づかなかっただけで、周りから評価されていたのだ。ンボさんは決して無能なんかじゃない。

事に革新をもたらす時、ダイチのような存在は不可欠。

でも、もたらされたモノを安定させる為には、ンボのような存在が不可欠。

ダイチは劇薬、ンボは良薬。しかも、甘めで飲みやすい」

宣伝文句みたいだ。

「魂と同じ。同じことばかり続けば疲弊し薄れ、いつかは消える。でも変化ばかりだと、今度は魂魄がついていかず、いつかは壊れる。

変化と安定。どちらも不可欠。

だから、私には二人が必要」

「ふん。ぎょうは良ぐじゃべるではないが」

レイラさんに次から次へと食べを放り込まれ、栗鼠のように頬を膨らませたマーシャが口を挾む。

「経費と同じ。必要な時は惜しまない」

「おお! ならば―――――――」

「菓子はそもそも経費では落ちない」

マーシャが黙ったのは、ラヴァーさんにバッサリと切られたからか、レイラさんに唐揚げを突っ込まれた為か……。

「あ、ありがとうございます!」

再び下を向くンボさん。でも、さっきとは違う。

膝の上できつく握りしめられた拳の上に涙が落ちる。

オレは黙って、ンボさんの肩に手を置く。

オレはンボさんとの付き合いは、異世界部の人たちに比べて短い。

でも、ンボさんが優しくて真面目なのは誰よりも知っているつもりだ。

だって、オレを待たせっぱなしにしたこと。

オレが転生できなかったこと。

これらのことをはっきりと言葉にして謝ってくれたのは、ンボさんただ一人なのだから。

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