《転生しているヒマはねぇ!》42話 再誕

本日、6件目の送魂先視察。

オレたちは、ホーレイト王國領北西の山林に足を踏みれていた。

新生命観測裝置が、ソレイユ生存時に飼っていた狼の魔獣『ウォーウルフ』に対して、新生命観測予測をあげたからだ。

それを発見したソレイユが、是非自分で現地調査に行きたいと申し出てきた為、本日の予定に組み込んだ。

「まだ、この國を離れて1ヶ月ほどしか経っていないのに、ひどく昔のような気がしています。

もっとも、ほとんど城の中の生活でしたからね。外に出る機會は、年4回の狩りの催しくらいでした。

私が參加したのは、7歳と8歳の時の、計8回ですね」

話しかけているとも、獨り言とも取れる口調でソレイユが言う。

「父は、苦い顔をしていました。

お前を連れて來ると、狩りではなくなると」

當時を思い出しているのだろう。ソレイユがクスリと笑う。

「それはそうでしょうね。本來、民の生活を脅かす災厄級の魔獣が、敵意を持って襲撃してくるどころか、私にびるようにすり寄ってくるんですから。

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脅威を伐つことで民意を得ようとしていた父にとっては、なんとも言えない気分だったと思います。

結果的に脅威は取り除けている訳ですから、私を叱る訳にもいかず、さりとて己の威を示すこともできずに、わだかまりだけは殘る」

「仲が悪かったのか?」

「……どうですかね?

そもそも、接する機會自なかったんです。

それなりの大きな國の王族でしたからね。

ウィクトル……人狼族の戦士ですが……、彼に聞いた一般的な親子のように、毎日顔を會わせることはなかったのです」

「へぇー。冥界新聞の記者の話だと、お前の兄貴の15歳の誕生日までは、お前を後継ぎにと考えてたみないたんだけどな」

「うーん。私にはわからないですね。父にそのような話をされたことはありませんし、爺……タキトゥスも王位についてはなにも……。

私自も、クルデレに日々言い聞かされていたせいもありますが、世界を救うことが自分の使命であって、王族の勤めに対しての意識は低かったように思います」

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ソレイユから、死んだからこその客観的な回答がなされる。

世界を救わせようとするクルデレ。

寄ってきた貴族以外は、王位に無関心の陣営。

手強そうなクルデレの目を掻い潛っての暗殺。

王位継承関連は、やはり理由から外して良さそうだ。

王位継承で暗殺を決行するのはヒト族しか考えられないが、ヒト族が、冥界を含む大勢の目を欺くような実力者を出し抜けるとは思えない。

そんな実力者に拮抗できそうなのは、ソレイユに世界を救わせたくない勢力。

すぐに浮かんでくるのは魔族。

ただ、昨日會った魔王の一人バリエンテ。

正直なところ、彼に暗殺のイメージはない。不利益を強調していたしな。もっとも、あくまでも魔王の一人でしかないから、他の魔王の向は今のところ不明だ。

「ところでさ。これから見に行く母だけど、こいつもその狩りの時に拾ったの?」

「いえ、ファロゥは違いますよ。クルデレが連れて來た子です」

「は? なんだそりゃ! 骨に怪しいじゃねぇか!」

オレがそう言うと、ソレイユは明らかに狼狽していた。

「ほ、本當だ。……なんで気づかなかったんだろ。

すいません! ファロゥは私に一番なついてくれていて……。

まったく警戒心を抱けなかったんです」

「ああ! 気にしなくていいから。こうして、また報が増えたんだから、なんの問題もなし!」

ソレイユの顔が真っ青になったので、オレはすぐにフォローをれた。

これもクルデレちゃんの影響ということだろう。

クルデレちゃん恐るべしだ。

そんな話をしていると、遠目に、巨木の大きな虛うろの中で丸くなっている巨大な狼の姿が見えてきた。

まだ、お腹は目立っていないが、観測裝置が予測したからには、高確率で彼の中には新しい生命が宿っている。

多くの魔獣は、卵から産むが、ウォーウルフは人類と同様にを直接産むらしい。

ここまで來たら、後は近づいて魂寫機で撮影すれば良いだけだったが、悪寒が走り、オレは咄嗟にソレイユを抱き抱え、木に隠れた。

「ど、どうした――――――」

「しっ! 靜かに!」

丸まっていた狼が顔をもたげ、鼻をクンクンさせている。

いぶかしげな顔つきでこちらの方を見ている。

現界の魂が、通常の狀態では冥界の魂を認知できない。

しかし、あのウォーウルフはこちらに反応したかのようなき。そして、額に見えるあの模様……。

オレはもしもの時にと換しておいたソレイユの魂魄信號に魂魄通話をかける。

ソレイユは驚きながらも、すぐに出た。

(ダイチさん、いったいどうしたんですか?)

(ソレイユ、お前が生きてた頃に、視察に行った時は、良く見てなかったんだが、あのワンちゃん、前から顔に魔法陣描かれてた?)

(魔方陣? あー、額の模様ですね。確かに魔方陣に見えなくもないですね。

あれなら、初めからありましたよ。私のにあった痣とそっくりだったので、とても喜んだのを覚えています)

(覚えてたらで良いんだけど、オレの手のひらに描いてもらえる?)

さすがに自分のにもあったと言うだけあって、ソレイユは指で、オレの手のひらにその魔方陣に見える模様をすらすらと描いて見せる。

……似ている。

昨日の會合部屋の扉に描かれていた魔方陣にだ。

あの狼と生きていた頃のソレイユには、冥界魂が見えていたということか!

……いや、でも待て。

視察に行った時は、こちらに気づいている様子はなかったぞ。

あの時と今の違いは……。

……マーシャか。

あのクソガキババア、絶対なにか隠してやがるな。

(ソレイユ、詳しいことは後で説明するが、あのワンちゃんはオレたちが見えてる可能がある)

(え!?)

ソレイユの顔が明るくなる。

(現界不干渉。さらに今のお前は生きてた時と姿が違う)

ソレイユの顔が一瞬で暗くなる。

(存在に気づかれたまま近づけば、ワンちゃんを興させることになる。悪いけど、ソレイユは離れててくれ)

(ダイチさんは?)

(オレには策がある。このまま近づいて、ワンちゃんを撮影してくる)

(そんな-、ズルい!)

(アホか。興させたら母に悪い影響を與えるだろうが!)

そう言うと、ソレイユは渋々、その場から離れていく。  

ソレイユの姿が豆粒くらいになってから、オレは屈んだ狀態で木から出た。

オレは魂魄の中で、『オレは空気。オレは空気』と、言い聞かせる。

昨日出會った極炎竜エルブシオンを寒がらせた技の応用を、ぶつけ本番でやってみようと思ったのだ。

しかし、どれだけ魂魄で念じてみても上手くいく気配がない。

ワンちゃんの顔は、ずっとこちらに向けられている。

駄目だ。

思い出せ! あの時はどうだった?

そうだ。オレは別にアイツを寒がらせようとしたわけじゃない。

でドラゴンの顔に張り付いている姿を妄……想像しただけだ。想像力だ。空気だと言い聞かせたってなったことがないからイメージが固まらないんだ!

想像しろ! もっとオレが想像しやすいオレの姿を!!

……オレはボッチだ。

世界中の奴らから相手にされない。

話しかけても相手にされず、れようとすればさりげなくかわされる。

究極の無視。圧倒的なシカト。

弁當はトイレの個室で食べ、アベックでないとれない店にっても注意もされない。

無人のレジじゃないのに、バイトのにいちゃんの前で自分でバーコードリーダーに商品を通す。

ワンちゃんが電柱代わりにおしっこをかけてくれることすらない。

誰からも名を呼ばれることなく、いつしか自分でも自分の名前を忘れていく。

キングオブボッチ。

あまりにも、リアルに想像してしまい、ショックのあまりオレはその場に倒れ伏した。

妄想を大暴走させたまま、気力を振り絞って顔を上げる。

ワンちゃんが、盛大なあくびをかましていた。

妄想をそのままに、ほふく前進を開始する。辛い。

ガサゴソ音がしたが、ワンちゃんはオレのことなど完全に無視し、丸くなった。悲しい。

がないはずなのに赤い涙を流し、ワンちゃんに近づいていく。苦しい。

10メートルくらいまで近づいた所で、ワンちゃんが再び顔を上げた。

「久しぶりね、ファロゥ」

いつの間にか、ワンちゃんの前に耳の長いメイド服姿のが立っていた。

さすがにこれはマズイ!

こいつが冥界魂を見れるのかどうかはわからないが、このワンちゃんの知り合いなら、見えると仮定した方が良い。

オレはさらに妄想を加速させる。

目の前の現実とエンジョイボッチライフが重なって見える。

魂魄が悲鳴を上げていたが、急事態だ!

このが立ち去るのが先か、オレの魂魄が壊れるのが先かの耐久勝負!

「あの子が亡くなってもう1ヶ月がすぎたわ。

いまだに、余計なことをしてくれた相手のしっぽすら摑めてないけど、今はあの子をこちらに呼び戻す方が先」

エルフはワンちゃんの鼻面をでる。

「あなたの子供のを使うわ」

エルフがきっぱりと言い切る。

「今はし警戒が厳しいけど、子供が生まれてくる頃には、無害なあの子への警戒は緩むはず。

あの男は異世界から來た以外に取り柄はないし、冥界の連中を出し抜くなんてわけない。

今度は利用できそうな奴はいないけど、一人でも上手くやってみせる」

ワンちゃんが心配そうに、鼻をエルフにり付ける。

「大丈夫よ。心配しないで。

次に會うのは、貴の子供が・・・あの子が再び産まれてくる時ね」

エルフは最後にワンちゃんの顔をしっかりと抱きしめ立ち去って行った。

オレはエルフが見えなくなると、手早くワンちゃんと周囲の風景を魂寫機で撮影し、息も絶え絶えにソレイユの元へと戻った。

妄想はやめたが、魂魄へのダメージは深刻だった。

あの技は、強力だが、危険すぎる。

使いどころは慎重に考えよう。

「わ、悪い。ソレイユ、肩貸してくれないか。

マジでキツいんだ」

泣きそうな聲で頼むが、ソレイユは無表のまま、なんの反応も示さない。

おかしい。もう妄想はやめたはずなのに、ボッチが継続している⁉

ソレイユがクルリとオレに背を向ける。

「あ〜あ。疲れちゃった! さっさとか〜えろ。一人で!」

「お、おい。一人でワンちゃんの寫真撮ったの怒ってんのかよ!

仕方なかったんだよ! 相手はこちらにれたりもできたんだから!」

「やっば〜い。私、相當疲れてる!

だって幻聴が聞こえるんだもん。

おまけに幻聴が聞こえる度に、なんか臭いし!

口臭? ううん、加齢臭かもね!」

「グハッ!」

とどめにカレーボッチを喰らったオレは、立ったまま意識を失った。

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