《俺の小説家人生がこんなラブコメ展開だと予想できるはずがない。》05.嚆矢に近寄るモノローグ
晝寢するには丁度いいほどの暖かな日差しと教室に男二人のみという気まずい流れが生ぬるい風を不思議とマッチさせる。暖流と寒流がわえば新たな流れを生み出すが、暖かさと暖かさでは停滯しか生まれない。
だから、俺がその寒流になれば何か化學変化やらなにやら起こるんじゃないかと安易にも予想してしまったのが失敗だ。
この世を説明することはそう簡単ではないことを痛いほど叩き込まれた瞬間ともいうべきか。まあ、つまりは俺は自分から自己紹介したことに後悔したのである。
「俺は山が丘高校一年、文蕓部の曲谷孔だ。『ぼっち』を真の道標兼モットーにしているが、決して世にいう他人とのコミュニケーションが苦手な隔離された人間ではない。人間関係には面倒事が付きだという周知の事実があるにも関わらずそんなところに飛び込みたくはないという予防策だ」
寒流どころか氷河期が訪れた。
「あなたが屑あなたでいることはよく分かったわ。『もしかしたら俺にもこいつ落とせるんじゃね』なんて想像していることが。下心丸出しで手を差し出してきていることがその証明よ」
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刺々しい言葉を投げつけてばかりのこいつは、植に喩えるなら優雅でもれれば痛み伴う『バラ』だな。あ、そもそも優雅が足りてないから違うか。
「いや、絶対分かってない。口より顔がを言うなんてのはこういうことなんだな」
俺を人間界の端で寒々と生きるような蔑視で見てくる。
「他人の気持ちを詮索するなんて気持ち悪い人ね。で、あなたが自分について語ったのだからあんたもやれって顔ね」
それはけないが事実なので口から出る言葉が何もない。
「『人付き合いが苦手で友達と呼べる人がいないです。ですからどうか私とお知り合いになってくれませんかーー』なんて期待しているのね、変態」
「ねえ、さっきから俺に威厳を保てる立場がないんですけど」
何を言っているの。と、ありふれた言葉の群れから選ぶことは難しいがこれだけは必ず當たっていると斷定できる。いやそうでなければおかしい。
「何を言っているの?」
的をすぎてむしろ的が原形を保っていないんじゃないか。
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「人間誰しも立場があるのは當然のことでしょう。あなた日本國憲法はご存知?」
これはあれだ、キャッチボールしているのに俺がボールを投げると槍が飛んでくるやつだ。
つまり特殊な人間だ。これは俺の數ない人生経験から得てきた教訓から導き出されることで信憑は高い、と思われる。
「あーーはいはい、オーケーオーケー。で話の路線が逸れすぎて何を話していたか忘れてないよな」
「忘れてたわ、というかそもそも話していたかしら?」
「數分前に俺言ったんだけど……」
「そう?私には『あなたとお友達になりたい』って顔を紅させながら迫ってきたような気がするのだけど」
「俺を変態キャラ設定するの止めてくれないか!…………ってもういいよ、普通に名前だけお願いします」
呆れたというか辛辣にも言葉を返すのが疲れた俺はなげやりだ。
「田中花子よ。と一つふと思い出したのだけれど、どうしてあなたは自己紹介で高校名から部活名まで口にしたのかしら、蛇足にもほどがあるじゃない」
簡単な自己紹介なら何を語るだろうか。自分の名前は無論のこと、高校名や所在地は言うのは當たり前だろうが、趣味まで話していたら自分をさらけ出しすぎではないだろうか。
「話す容が限定されてたからな。なんたって言いすぎてしまうのも個人主義を徹する俺にとっては反する」
「で、あんたのそれは偽名か?」
もし出會ってそうそうそんな発言したら失禮にも程があるだろうと糾弾されるのは俺だって想像できる、が現狀は違う。こいつの言葉には信用どころか、詐欺師と疑えるようになっていた。
「そうよ、當たり前じゃない。名前を隠すのは創作者に関わるものとして當然のことでしょう?」
突然言われれば何を言っているんだこいつはとじるのかもしれないが、俺はそうではない。そもそも知っているからこそ俺は話しかけたという點もある。
見たことも聞いたこともないをることなど以ての外のように。
「その口調だと全部知っているってじだな。ならあんたがそうか擔當編集者?」
仕草は優雅だと主張するように耳にかかっていた髪のを整えるという一連の作を俺に見せつけた。ふわりと舞う髪から漂うその香りは意外にもローズではなく、四月にぴったりの桜だった。
「そうよ。私が文徳社ヒカリレーベル文庫東京編集部、如月桜よ」
俺とこいつとの一分前の會話をビデオで録畫、再生を促してやりたいと考えるのは俺には純粋な心やその他もろもろが欠損しているためか。
いや、純粋な心を持った若き頃の年時代の俺でさえ多分、同じように悪態をつくのだろう。
『自分の名前リアルネーム言ってんじゃん』
犯人の名前を実行犯の目前で堂々と明かすよくいる探偵のように俺は考えついたことを吐き出すのだが、うん、現実というのは恐ろしく痛くて何よりも黒いものだな。
ほんの些細な挨拶の代わりに肩を叩いたのが現役プロレスラーで肩が外れました、なんて面白文句で語られるように、俺は顔面に何やら巖石が衝突したように視界が真っ暗になる。
その後の俺はというと數時間ほど機の上で晝寢していたことに気付き、その頃にはもうすでに人気が消えた教室と化していた。
一人取り殘された部屋の中で俺のに何が起こったのだろうかと回想しても、頭痛しか生まれないことには不思議とどこかで納得がいった。
だが、頬を赤く染めたが俺の方を見ていた風景だけが脳裏に焼き付いていたことが何よりも心殘りだった。
そうして高校生活第一日目の終わりを迎えたのだが、今改めて思う。
どうしてこんな出會いだったのかと。
ーーother sideーー
「あの件はもう進んでいるんだろうな?」
殺風景か、殺伐か、どういう言葉を用いても、ありったけの語彙を並べても、飾り付けが出來ないような部屋。長い黒デスクの上には、一冊の本と、ペン立て、パソコンと、仕事用の道以外に乗せない取り決めをまるで戒めのように自分に言い聞かせているのか、何を言おう、彼には一言、「厳格」との言葉しか似ても似つかないようだ。
彼は、黒の革製、まさに社長が座りそうなオフィスチェアに深く座り、両肘をデスクの上に乗せ、指先を組みつつ。目の前で佇む、いや立ち盡くす人に溢すように聞いた。溢しているというのに、いや一滴溢したとしても、その一滴の影響は計り知れないほどだが。
立ち盡くす人が取った行、それは、軍部の司令の命令を聞いてを固くしたわけでも、會社の上司に仕事の途中経過を聞かれ、頭を下げたわけでもなかった。
「進んでいます、と言わなくても自が一番わかってらっしゃるんじゃないですか?」
敬語口調であるのに、普段話している話し方に引っ張られてしまったのか、ライトになってしまったようだ。とりわけ、本心は真逆であるというのに。
「ふっ…………もしそうだとしたら私がお前に聞く必要など皆無ではないか?だが、またそれを把握したうえで私がカマをかけたと推論するのなら、評価に値するが」
そうではない。両手をポッケに突っ込みながら佇む人は、堂々と座り推察に耽るに対してそう思った。
「しかし、今改めて考え直すと、愚直にじてしまうな。失敬、こんな馬鹿げた質問をするために呼び出してしまい、申し訳ない」
そう言って考えを自分のみで改め、話を終末へと帰結させる。それもやはり厳格さゆえなのか、それとも彼自が掲げる信條なのか、今はまだ分からない。
一方、役に立ったのか分からず仕舞いの人は開き直ることも、反抗することもなく、ただ言われた通りに「はーい」と応え、部屋を出ていってしまった。
何のために呼び出されたのか、全くもって不愉快だなんて心から思うこともなく、ふらりふらりと、擔任の責務に戻ることに彼・・はしたのだった。
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