《俺の小説家人生がこんなラブコメ展開だと予想できるはずがない。》024. キャラメルマキアートマカダミ……言いづらいのですが……?
突然だが現狀の問題を整理しよう。俺はこの田園恵まれた田舎の高校生兼ウェブ上がりの小説家でいついかなる時も執筆に勵みたいのだが、一人一部活という高校側の方針で仕方なくこの文蕓部に部した。
訳あってどういうわけか、この部はどうやら廃部の危機にあるらしく、俺がその救世主!!というわけである。
他人任せな部長は當然使いにならないし、新聞を作することが問題というか課題なのに新聞部も使えない。そこで現れた助っ人、すなわち共同執筆者が如月桜?という生徒だった。
彼は驚くことに俺の擔當編集者であり、しかも教室の席では真橫。つまりは、予想できると思うがいつでも締め切りの確認が可能だということだ(まだ一度もないが)。
なんだか教室の最後尾、窓側で波の展開が待ち構えているとの予が的中したようだが、別に嬉しくもない。
彼の名はーーきさらぎ、さくら。二月に咲く季節外れの桜という意味。
神無月は俺が如月という名前について訊いても「そんな人知らない」との一點張りだったが、それは俺を騙すために噓をついているわけでもなかった。
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何せ口の端が微だにせずに俺の言葉を興味津々に聞いていたのだ(余談だが彼が噓をついているときには口角が吊り上がっているのだ)。
當然のことながら代わりに如月をどう呼んでいるのかと問うと「水無月桜」と呼んでいるようだった。
なんだそりゃ、四か月変わっただけじゃないかと冗談混じりに言うと神無月の方も「まさか~~曲谷がわざと間違えているのかと思った」なんて逆の立場だったようだ。
だが、その名前が本當の名前だと気づいた時には驚かざるをえなかった。部室から教室に戻り、下校の準備最中に目端にかかった教卓上の座席表。俺の右橫に位置する生徒の名前は、「如月」ではなく「水無月」だったのだ。
さて、どうしたものか。
まず、何故俺に対して偽名を使ったのか?
名前を知られたくないのか?
知られたくない何かがそこにあるのだろうか?だとしてもどうして俺にだけ?
「ねーーえーー訊いてる~~?」
だったら尚更問う必要があるのかもしれないな。高校で同じ部活同士だし、何といっても仕事仲間がそれでは連攜も組めたものじゃない。
「無視してるのかなぁーー?」
何処からか聲が聞こえるな、とは分かっているのだが、別に気にするまでもないだろうしそのまま無視しよう。
「…………おい」
重たくにのし掛かるような聲。さっきまで呼び掛けていた聲が裏聲だったのだと納得するが……なるほど、恐すぎる。世界の恐怖映像!なんて比較にならないんじゃないか?
というかそもそも俺をここへ呼びつけた一連の流れだってそう、俺は神無月と部室で別れ、ようやく自宅へと帰って執筆出來ると思ったら今度は何だ、俺の下駄箱の中の靴に簡単なメモ用紙がれられているではないか。それからはもう嫌な気でしかなかった。
何せ『放課後、なるべく速く來てネ、場所は…………』とそれはそれは詳細に集合場所への行き方から連絡先まで綿に書かれていたのだ。
あの一件如月ではないこともあって俺の頭は混かつ手一杯だというのに、さらに面倒なことになりそうだと俺は悟った。
だから「あ、すみません。無視はしてなかったつもりなんですが……しだけ考え事してて」となるべく納得出來るような噓をついた。
「なんだあ、それだったらそうだと言ってよ~~。てっきり私と話したくないからそんな態度なのかと思ったんの」
無駄に語尾を丸くしようとしないでください。裝飾しても腹黒いのは変えられないですよ、先生。なんて言ってもどうせ返ってくるのは腑抜けた聲なので余計な告げ口はしない。だから回りくどい言い方で察してもらうことにした。
「もういいですよ先生、いつもの話し方に戻してくださいよ。話す気力というかやる気が無くなるんですよ、それ」
「分かったよ~~」
一つ溜息を溢した後に殘ったのは小なんかじゃない、ハリネズミのような刺々しさだった。なるほどその點、如月……ではなく水無月と似ているな。
「曲谷孔、これでいいか?ま、これが普段のプライベートの話し方だから俺にしても楽なんだよ」
「WIN-WINだな」なんて笑いながら話し始める豪傑ぶりを見ると、男勝りではないのだがらしいとも見えにくい。
「そうですね、俺は構わないですけど知り合いとかいたらどうするんですか?ほら、ここってうちの高校の通學圏ってか通る人多いと思うんですけど」
今度はさらにひどく溜息をついたのだが、俺の観測からすれば前回よりも二倍以上の吐息だったのではないか?
「だーーからこの場所に指定したんだろうが、駅中っても駅に付隨するビル。その6階になんてどこのどいつがくるんだよ」
「そうですけど…………」
そう。ここは高校の最寄り駅(田田園たたぞの駅)から一駅の場所、盛田さかでん駅。
周囲と比べればビルが多く立ち並んでいることから都市空間と呼ばれているのだが、そもそも田田園駅にはその名前の通り田園で辺りを埋め盡くされているし、盛田駅も駅周辺だけしか栄えていないので何とも言えない……。
まあそんなことよりも俺はその駅構のビル、いわゆる駅ナカにある喫茶店にいたのだ。
「ほらそれに高校生なんてのはこんなところに來る金だってないだろ?」
この6階というのもまた現実的というか、階層社會を表現しているモチーフで面白いとも言えるが、やはり住む世界が違う俺にとっては違和しかない。
「確かにそういわれればそうですけど、確率はゼロじゃないですよね?」
手元にあるメニューを覗けばやはり別世界の食べのように見える。キャラメルマキアートマカダミアナッツソーダフロートフラペチーノってなんだよ、カタカナしかないし料理が二つ混ざってるんじゃないかと想起しつつ、値段を見る。
「まあ、男子高校生が払える額じゃないですよ、これ」
飲みだけで1000円を超えている辺り、尋常じゃない店なのだと俺は判斷する。これは斷じて間違ってはいない。それだけは言える。
「ふふ、そうだろ?だが今回は特別だ、好きなものを頼めよ」
「?冗談はやめましょうよ」
一般的な関係ならば教師が生徒に奢ることもあるのかもしれない。たとえば部活できつい練習をした後の褒とか、何か課題を達したから祝うためにだとか、なんだって考えられるが、イレギュラー掛依は別である。
「冗談?それこそ何の冗談だよっ、教師が生徒の飯代すら払わないなんて、そんなケチな奴じゃねーぜ俺は」
いや、よりによってこの人が何も企んでいないはずがない…………のだが、わざわざウェイトレスを呼びつけて一方的に「頼みなよ」なんて笑顔で言われたので嫌々俺はアイスコーヒーを注文した。
これって脅迫じゃないですかね?まあ俺自が払うわけではないので違うと思うのだが、萬が一後から請求されたらたまったものだ。
ウェイトレスが廚房に戻ると、
「なんでアイスコーヒーなんて無難なもの頼んだんだ?もっとあるじゃないか」
と俺の注文にケチをれるようなので答えた。
「何でも平均的なものが一番なんですよ、料理だってチャレンジ神はあまり必要ないけど飽きたようなメニューは頼まない、それが人生でも必要で丁度いいスパイスにり得るんです」
頬杖をつきながら掛依はどことなく興味があるような雰囲気で聞いている。
「それに、あとで徴収されることになったら面倒ですから」
眉をピクリとかしたのだが、何も反論することがなかった。俺が何か裏があるのかと思い始めた瞬間だった。
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