「ほれほれえ～～、言った通りだろう？」

曲谷孔という一人の作家が退出した後のスペース、空き時間。ファミリーレストランのボックス席に相対するように座る子高生とその仮親？にしては若すぎるようなの姿。

この時間の當初の予定では今すぐにでも勉強會ならぬ小説懇談會を行うはずなのだが。

「いくらあなたでもそこまでされると私としても反抗する立場にりかねないのだけれど」

男一人が消えた會談には見かけ上、何一つ変わらない冷徹なの姿がそこにはあった。

「え？え？それは違うでしょうようーー、それでマガト君とやらとはうまくいってるの？いってるの？」と明嵜。

「いつも思っていたことなのだけれど、二回連続で疑問を投げかけてくるのは治りませんか？」

スーツ姿のエセ淑は目の前に座る子高生を煽ろうとするが効果はあまりないよう。子高生ーー水無月桜は珍しくもからかい口調の明嵜に丁寧語を使っている、つまりは彼なりの謝の印である証なのだ。

「あ、はいはい。ごめんねえ……これって癖なんだよね、あははは…………」

しかしそんな珍しい景であるはずなのに全く気付いていない編集者はショートヘアの頭を掻いている。

「で、でも否定しないってことはまさか…………」

はっと何かを閃いたように口をポカンと開けて必死に右手で塞ごうとする明嵜。水無月はもう何度目だろうかと何かに諦めた表をして、自分が書いたこの忌々しく地下に埋沒させたい原稿用紙を取りまとめる。

「では、なんだか今日は作業をしない雰囲気なので失禮します」

すたすたと行が早く席を立とうとした水無月を止めるように、

「分かった分かった！！ごめん私が悪かったよ、だからねっ、このとおーーり、ね？ね？」

數秒前の口調と変わらない淑？はなんだかどこかで見たような両手を合わせて頭を下げる姿勢をとる。

心象を損ないながらも再び信用を取り戻した冷徹？な目をしたは再び原稿用紙をテーブルに戻し、段落によって振り分ける。

するとふと脳裏に過ったのだろうか。まるで気まぐれに、別に深い意味はないような口ぶりで明嵜は呟いた。

「でもさーー、今の子がアシスタントマネージャーなんだよ～～？」

編集者であり小説家でもある水無月桜は見・か・け・上・、平常心を裝おうと冷ややかな、クールともいうべきかそんな態度を取っている。だがそれは見かけ上でしかなくて…………

「やめてください…………これ以上余計なことをおっしゃるなら私……帰ります」

どうしてなのか自分でも分からないと何かにすがるように。必死さと純粋さに満ちていた彼は。

どこかほんのりと頬を赤面させていた。

靜寂極めた空間、焙煎機から漂う芳醇な香りで瞬時にここは珈琲を売る場所、すなわち喫茶店なのだと分かるはずである。バロック音楽が流れ始めることで、部屋全に重圧さが増し空気の流れも変調するよう。

しかしそれを味わうのは創り出した自である喫茶店のマスターと、何一つ理解していそうにもない一人の教師だけであって、勿無いほどである。

マスターは新しく珈琲豆を専用の樽から小皿に取り出し、焙煎機に注いでいる。

どうやらダッチコーヒーを作るようで実験のようなガラスの容が３つ（上から順に金魚鉢、ビーカー、三角フラスコのような容）縦に並んでいるサーバーが焙煎機の橫に置いてある。

対してもう一人の人はというとマスターがいるり口に近いカウンターから遠ざかるテーブル席に獨り、ポツンと座っている。

テーブルの上には誰かがいたであろう形跡、要は空になったグラスが取り殘されている。

彼の方は自が注文したであろうキャラメルマキアート（以下省略）を完食したようでクリームやソーダがガラスの面に付著した容が傍に置いてある。

靜かな音響がとなって過ごしやすい雰囲気を、知らず知らずのうちに破壊するかのように、二人用テーブル席に座る彼は懐に潛めてあるスマートフォンでとある番號に電話をかけるようだ。

「あーー雅さんですか？」

聲音は普段通りの調子、つまりは高校で生徒と話すような崩したような話し方。まるで裏に何かを孕んでいるような一見あくどい聲で問いかける。

『そうだ』

対して返ってきたのは全てを見かしたような鋭い聲。まさに「矛盾」という文字の矛を尖らせることに重きを置いたような返事。

しかし、自分の法則倫理にしか従わないというような聲の調子で、

「いまーー、やっとのことで曲谷君が気付いたようですよーーあなたの関係に」

わざとらしく間延びする聲は自分の上に立つ者を挑発するようであるが、やはり応答するには何も変化は得られない。まるで全てを見據えているようだ。

『ああ、分かった。その調子で次も頼む』

淡々と事を話す向こうからは同時平衡にパソコンのキーボードを打つ音が聞こえてくる。

「あと、余談なんですけど～～。まだ自分の仕事小説家のコトは気づいてないようで～～」

パチンッというエンターキーをたたく音が電話口が聞こえた後、數秒の沈黙が募る。そしてその數秒が経った後、

『そうか』

と、興味があるようでもないような今までとは一味変わった、まるで新しい調味料をれた料理のような聲音だった。

それでも一言であるのには変わりはないようで『では切る』という獨り言に似た言葉で會話はシャットアウトされた。

突如相手の都合という自分勝手な理由で切られた発信人はそれでも事を済ませ、安堵したような面持ち。それもそうで、彼から突然會話がぶちぎられることは何度もあるので、慣れているのだ。

「まあ…………そうなるよね」

回線が切れたスマートフォンの畫面を眺め、ふと懐古するわけではないが、いつものことだと思い返す。

が無ければもないと言われるように、私自もまた表裏一という言葉がお似合いだろう。

獨り取り殘された彼――掛依真珠は自しか客がいない喫茶店から何も言うことなく退出したのだった。