《俺の小説家人生がこんなラブコメ展開だと予想できるはずがない。》084.彗星は輝き、そして俺たちも輝き始める
視線を俺から外すという行為というのは、どんな由縁があってされるものなのか。とまぁ、俺もそこまで心や他人の心を読むということが苦手なわけではなく、逆に得意手でもない。
そういうわけで、いささか優不斷というか、あやふやに包まれているわけであるが、むしろその中途半端さがあることで俺はしだけでも他人の考えが読めることに繋がる、ということだ。
要するに、他人の心を理解することに苦手意識しか持たなかった場合、まさにラブコメ主人公というところで、また逆に一般人よりも數十倍に長けていた場合、人間関係など気にする必要が無いと思ってしまうだろう。
だから水無月桜が俺の謝をけて目線を逸らしたことに、恥じらいがあったのだ、と結論づけたことには勿論何の躊躇もなかった。
「謝されるようなことはしてないわ、あと……その名前は終わりにしていいわよ。私としても、その……」
「ん?なんだ、名前を呼ばれることがあんまり珍しかったもんで恥ずかしかったのか?」
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「もういいわ、鬱陶しい羽蟲がいるから殺蟲剤でも撒いてしまおうかしら」
一瞬ばかりあからさまに異変と呼べるほどの態度を示した水無月は俺の軽率ばかりの一言によってドライアイスと化した。まぁ……その方が俺としても話しやすいというか、慣れない名前を呼び合うことが気恥ずかしかった俺としても有りがたいけど。
それに、この編集者はどうせ名前を呼ぶことに恥ずかしい、なんて思っても居ないだろうしな(もし俺が恥ずかしいなんて言ったら「仕事なのに本気になるなんてとんだ変態ね」なんて言い出すのだろう)。
「そんなことしたらそこらへんにいる俺じゃない蟲も殺しかねないな、兇悪なテロ行為だ」
「ならあなたの食事だけにでも混して差し上げましょうか?」
「さらっと怖いこと言わないでくれ……」
俺の左隣には例の編集者がいるが、それ以外つまり俺の右、正面、後面は面識ゼロの他人。向こうは勘違いして俺と水無月のことをカップルだなんて思っているのだろう。あ、私達と同じ付き合っている人じゃない?、なんて言われたらたまったもんじゃないが。
「まあ、それにあなたには私のしいままに買ってもらったわけだし、一応よ」
「返してはくれないんですね」
「何のことかしら?」とまるで自分には罪が無いと証言する被疑者のように応じる。なんて卑怯な……。
「噓よ、この恩は必ず忘れないうちに返させてもらうわ。絶対にね」
「なんだが、あんたが言うと恨み文句のようにしか聞こえないんですけど」
「あら、バレた」
「本當だった!?」
冗談を言い合える仲、坂本とはまた違った信頼関係の彼水無月桜。俺にとってはそんな仲だと信じているが彼本人はどう考えているか分からない。もしかしたら……と想像してしまうのも俺の短所であるということは重々理解してはいるがどうしようもない。それでも、
「冗談、冗談。失敬あなたのリアクションを見たかっただけよ」
「肝が冷えて凍り付きそうなんで止めてしいのですが……?」
「やめてあげないわ、これまで通り続けてあげるのだから観念しなさい」
どうしようもないブラックジョークを散々使い、しまいには終わりはないと斷言している彼の事をどうしても裏・切・る・ことはないのだろうとどこか、俺は信じ切っている。し言葉を言い換えると、信用しきっているのではなく、信用出・來・る・人・間・(前の尊敬していたにつなげる)だということだろうか。
熱帯夜であるのに加え暑苦しい人混みを抜けた俺と水無月は自宅の最寄り駅が同じであるのでそのまま電車に乗り込んだ。が、多くの観客が電車を利用しているがために帰宅ラッシュばかりの人に呑まれ押しつぶされそうになって辛いも何も地獄を見せられたじだった。
それに、案の定水無月桜とこれまで以上に著し何かが破裂しかねなかったが何とか目的地、水無月の自宅前までは無事辿り著くことが出來た。
「それじゃあ、ここでお別れね」
「いや俺もそうしたいんだが……」
俺が目線を腕から下に移すと蜂でも止まったかのように慌てて知らずに握っていた俺の手を離した。なんだ、可いところあるもんじゃないか。
「羽蟲が止まっていたみたいね、汚れるところだったわ……」
意識せず知らないうちに自分から握っていたと言えばいいはずなのに強にも絶対に言わない。そんなところは編集者としてではなくなくとも気にいっている。もちろんオペレーターとしてだがな。
「そういえば編集者のアンタが何故俺なんかと行事ごとに行くことになったのか、そうしたのかを聞いたが」
「何回言えば気が済むのよ、ラブコメを書きたくなっただけ、それ以外には何もないわ。あなただてあるでしょう?突然執筆意が湧いて新しいジャンルに足を踏みれたくなる予というものが」
もちろん彼と同じ小説家である俺はその陳腐な問いに瞬間的に頷くが、問題はそこではない、そ・こ・で・は・ないのだ。
「いや……そうじゃなくてだな。ラブコメを書くことはあんな回りくどい言い方でも見當が付いたが」
「何よ」と口答えする編集者に俺は繋いでいた手が溫かいことに気付きながら、
「『コメット』って彗星って意味だよな……?」
突如彼の焦點があちらこちらに散らばり額に汗が……とまでは暗くてよく見えなかったが所謂挙不審に陥っているのは目に見えるように視認できた。
「そ……そんなこと忘れなさいよ、あの場で風があることを言おうとしただけ。今思い出しても……そ、その、気恥ずかしいだけよ」
指摘したいところが一々異なっているのだが……そもそも喩えを使うなら言葉の真意を理解したうえで言ってほしいものだ。それならば俺だって言わずに済むのだが……
「彗星と流れ星は違うぞ?彗星は太を回り続けるんだ、流れ星のように大気圏にり込んで消滅したりしない」
「な……」と口をポカンと開きっぱなしの彼、直後自ら気を取り戻したように咳ばらいをしてから喋りだした。
「そ、そんなこと気にしなくてもいいじゃないっ。ということでここで帰宅勧告としましょう、はいはい、さようなら」
二拍手して水無月という表札が掲げられている屋敷の玄関から俺を遠ざけようとする彼に俺は最後に一つだけ、ほんのしばかり俺もこの狀況に気が乗っていたのか、調子がいいことを口走ってしまった。
「まだ俺の話は終わっちゃいない」
2m越えの鉄柵が自的に橫に開かれると同時に彼は振り向く、そして俺はその振り向きざまに柵の開閉音に負けじと自然にんでいた。
「流れ星は消える。だが彗星は消えない。だからあんたのその想いもきっと……」
俺が続く言葉を制するように、
「ありがとう」
と、他の誰でもない水無月桜という編集者でもあり友人でもある彼は微笑みながらそう答えた。
俺は三度目の正直でもあるみたいだ(034)、とあの時の言葉とは全くもって違うのだと満天の星空の向こうに見出したのだった。
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