《俺の小説家人生がこんなラブコメ展開だと予想できるはずがない。》088.缶詰にが空いているのですが……?

まぁ、どうもこうもなく我が妹、曲谷時雨が驚嘆とともに悲鳴を挙げたのは分からなくもない。それどころか、分からない方がどうかしているというものだ。とどのつまり時雨が、他でもないあの生徒會長であり真面目なキャラを裝う彼が、どうして口を開き、呆けることに必死であるのかを知らないはずがない。

むしろ俺もこんなリアクションをあの時(05話)に取るべきだったのだろうが、この期に及んでだ、早すぎる展開の速度に頭が付いていかなかった、と言い訳しよう。

ゆえに、

「ああ、そういうことだから。唖然とするだけなら、ここ閉めるぞ」

水無月が自宅にって行った今、俺はそのまま玄関の扉を閉めようとしたのだが、九死に一生を得たと言わんばかりに扉にしがみついてきた。

「おかしいでしょう!!今の小説界ってみんな高校生なの?若年化なの?高齢化過ぎ去ったの?」

「んなわけないだろう。何でも社會と結びつけんな、ってるなら早くれ」

「若年層」、「高齢化」に違和を覚えたわけではあるが、特に時雨の行に見逃せないようなものがあった。

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「だって……なんだか私がったら場違いのような気がするし……貴重な二人きりだしさ……あんただって私がいない方が都合いいんじゃないの?」

何故だ。どうして両人差し指を互いにくっつけてもじもじしているのか。そんな乙心満載な風を裝われてもこちらとしては不可解極まりないのだが。

「は?場違い?都合?お前何のこと言ってんだ?」

本音である。誤魔化そうとしているわけでも、でっち上げようとしたわけでもない。

「え……そういうことじゃないの?だって同年代だし……」

「そういうことってどういうことだ?代名詞ばかり使うんじゃなくて、そのまま伝えてくれねーと分からないんだが」

ここで俺は「察する」という能力が必須であることにようやく気付いた、気付いてしまった。超能力を使って相手の考えを読み取るわけではなく、推論するだけでいいということを何故してこなかったのかと気づかされたのである。いやしかし、どうして察せなかったのか、他人の気持ちをある程度予想するだけで面倒事を避けられるというのに、そんな楽な方法だというのに、どうして今、この場でしなかったのか。

恐らく妹の時雨のせいだ……

「ぐふぉう」

腹パンをくらった。

「どこまで呑気で、鈍で、無神経なんだよ。いい加減『察しろ』よ」

遅かった。俺が察・し・た・時には遅すぎたらしい。

時雨の言う通り、俺と水無月は同じ高校に通っているし、席も隣、部活も変わらない。他の生徒、クラスメイト(神無月を除き)と比べればここぞとばかりに共通項が多すぎる。似た者同士は惹かれ合うなんてことはあるのかもしれないが、それはオカルト的現象に過ぎないはず。

だからといって全てを信じないというのも、いささかつまらない人生だとも思うが。

「ってぇ……加減というものを知らないのか、うちの妹は……」

「あったりまえの反応でしょう!!逆にここまでしれーーっと生きてきたアンタの方が有り得ないっつーの」

「だと言っても、俺とあいつ水無月とは作者、編集者の関係だ。それ以外に何もないんだよ」

部員であり、仕事仲間である。高校のみの関係ではないのだ。だからというか順接的に高校以外の関係があることを理由にそれ以上の関係を構築することなんて無い。

「高・校・だったらそりゃあ、お前の言いたいことも分かる。だが……これは歴とした仕・事・なんだよ。高校で知り合って、しだけ喋る仲になって、家に引き込んで、最後にはハッピーエンド、なんてあり得ないんだよ」

「お前の言う通り、水無月との間に仕事関係なんて無くてただの知り合いだったなら、もしかしたら……あったかもしれないな」

「だが、もう一度言うが、これは仕事だ。仕事以外には何の理由もない、現実と語ストーリーは違うんだ」

俺は知らないうちに、そう自然と聲を荒げてしまった。どこか切なそうに眺める時雨は、一息溜息を洩らし、

「じゃ……知らない」

と、玄関からそっと離れると、家にることもなく外著のまま商店街の方へと歩いて行ってしまった。

かといって異を自宅に招待するというのは些かストレスが溜まるものであるし、別に変な気を起こしたいわけではないのに、狀況がそうしろと助をしているかのように思えてならない。

革靴、薄手のコートのような上著(後に分かったが「ジレ」と呼ぶらしい)をいだ水無月はホワイトTシャツにジーンズと、夏らしく大人っぽいカジュアルな服裝をしていた。Tシャツにデニムショートパンツのコーデの時雨の私服しか子のファッションを近に見たことが無かったので新鮮と言うべきか、珍しさがあった。

だからだ。俺と同年代の子高校生を自宅にれた後、嫌でも悸が止まらないのは。

なくとも掃除をして整えたはずの自室にったわけではあるが、どうしても水無月が傍にいるとなると汚れが目立っているように見えてならない。

だが、それでも「ふん、まぁまぁね」とそこまで冷水を浴びせられずに済んだことに驚愕した。「さすが翅蟲が過ごしやすそうな環境」だとか率直に「汚い」と言われると思ったからだ。逆に言ってくれれば安心しただろうというのは本心でも口にしなかったが。

まぁ、こんな心臓が飛び出るまでドギマギしているのはやはりともいうべきか、自分の部屋に子と二人きりというのは男子高校生であるのならば終始普通であるというわけで。ドギマギという言葉通りにが騒ぎ、言うならば落ち著かなかったのである。

それに、

「妹さんは平気?」

と作業が始まる直前に掘り下げてきたことで、俺の水無月に対する姿勢というか、態度が一変してしまったわけだ。二人で一気に仕上げようと、いわゆる「缶詰」をしようとしたのだが、どうしたって底にが開いていたらいつまでたっても終わりが見えないように、今まさにその狀態というわけである。

初めのうちは無心に、あくまで仕事なのだということを念頭にれておいて執筆や編集を始めたが、それでも意識せざるを得ないことには変わらなかった。集中力が切れたのは熱さのせいにしていたが(第四章冒頭)、なるほどそれだけではないようだ。

だからだろうか、「では始めるわよ」という掛け聲から10分足らずで自宅を出ることになったのは。

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