《俺の小説家人生がこんなラブコメ展開だと予想できるはずがない。》098.察しようと思っていないはずなのに

建築館と名前では呼ばれているようだが、まず館して、展示を見た際に抱いた印象はただの西洋館だった。二階建築、地下一階に展示ごと振り分けられ、それぞれ一階、二階は常設展示ブース、地下一階はイベントブースとなっていた。

息抜きで來ているとはいえ、背景畫を描くための何らかの足しにすることを念頭にれているのだろう。その実、俺にはよくわからないが。

何度も出版に攜わっている水無月桜であるのならば一つ一つ展示されている絵畫から技を盜み取ることが出來るのかもしれないが、申し訳ない、俺は一度も出版をしたことがないのだ。

そんなところでエントランスから真っすぐ進み、館のちょうど中心部に差し掛かった。その先の「常設展口」という立て看板がある口へとることにした。

常設展ーーなるほどウェブ上で何度も確認したためか、年中変わらない風景を見ている心地である。國會議事堂に鎮座されている歴代閣総理大臣の銅像と同じように、四方それぞれ一像ずつ展示されている(実際は四目は存在しないが)。

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俺には古代ローマ、ギリシャ等の違いなど分かるはずもなくーーかといって小説のネタになりそうなので勉強すべきだとは思っているが、平凡な高校一年の男には像の造形やら趣向やらは理解しがたい。

じ取れることと言えばこの大理石で造られた像を飾っておけば一種の屋敷のように見えるのではないかぐらいである。そう、かの編集者さんの自宅に置けばピッタリだ。

ところで俺には本質を知ることが出來なかったわけだが、俺が書いた作品の影響でタッチが強制的に西洋風になってしまう茜はいかがなほどだろうか。

「なぁ、この像を見て何か分かることでもあるのか?ほら、自分の絵に參考になる部分とかさ」

茜は何やらフリスビーやら円盤やらを抱えてを大いに捻る像を眺めている。まじまじと掌から足先まで見つめていて、俺は手取り足取り眺めていた茜に興味を抱いたのである。何を考えているのだろうか、と。

「そうだね…………」

おっと、邪魔してしまっただろうか。どの部分がどんな造りになっているのか、設計図を描くように、ブロックで積み重ねるように試行錯誤しているのだろう。俺も小説の一部分を現実の場所から參考するときには毎度の如く用いている技法である。

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そもそもクリエイターは誰しも使っているはずだ。取材して自分の作品にどう取り込むのかという一連の流れを。

だから俺はクリエイターとしてだけでなく、一人の観客として神無月茜というイラストレーターが描いた想像が一どんなものか、気になった。

もしかしたらこのフリスビーは投げるではなく食するもので今まさに大袈裟にそれを食そうとしている途中ではないのか、といったように別の視點を知れるのではないか、と。

すっと、考えがまとまったかのような口ぶりで「分かった!!」と聲を挙げた茜に俺は再度訊くと、

「この人は円盤投げしている人なんだよ!!」

と明らかに気だとけ取れるような聲音とトーンで返事をしてくれた。返事をしやがった。

「それだけかい!!」

「もっとこうさ、『お、こんな見え方もするんだ』って発見はないのか?クリエイターならではの矜持とか、オリジナルとかよ」

不満げに語る俺をさらに不満げに、今度は目くじらを立てるように「だったらマガトはどう思うのさ、同じクリエイターでしょ?」なんてブーメランを突き付けてきた。

俺は仕方なく自分でも無理があると自覚している考えを見することにした。

「そうだな……例えば、この人は食べをオーバーアクションで食べようとしているんじゃないか?」

じとーっとした目で俺をみやると一言ぼそりと、「それは流石に無理があるでしょ……」と呟く。

「……そんな人のことを軽蔑するような眼差しを向けないでくれ、俺だって無理も承知だ」

小聲で「どこぞの冷徹至上主義さんを想起させるから」と口にすると、神無月は、

「ん?なんか言ったかなーーマガト?」

と追い打ちをかけるように問い質してきたので俺は即時會話を中斷、話題を別方向に傾けることで対応策とすることにした。

「なぁ、この上ってここからいけるんじゃないか?」

俺は必死に、まるでリストラされないようにしがみ付く部下のように、二階に繋がる階段ではなくスロープを指差す。

バリアフリーの為に作られた階段代わりであることはいくら俺でも分かるが、今まさに視界の中にあってくれたことが救いになった。

茜はそこにあったことをさも今初めて知ったかのように「ほんとだーーじゃ行こっか」と何も疑いなく先にスロープへと歩いて行った。

もしこれが神無月ではなく例の編集者だったとしたらこんな解決方法では歯が立たないどころか「何を隠そうとしているのかしらこの翅蟲は」なんて罵倒じみた詰問をされていたに違いない。

だからこそ、この幾らか抜けたイラストレーターに謝しつつも。

明らかに俺に何か隠しごとをしているのではないかと、疑の目を持たざるを得なかった。

西洋館の二階はほとんど絵畫のみで埋め盡くされていた。埋め盡くされていたと表現するのは、言い表すにはいささか語弊があるが、簡単に言うと展示の多くを絵畫で占めていただけである。

パルテノン神殿等の古代建築から現代の西歐に見られる比較的近いモダニズム建築までと過去から現在まで渡って多くの絵が展示されている。フロアはまるで回廊のようにぐるっと部屋を一周できるような造りになっており、一階からスロープを登ると回廊の右下隅に辿り著いたらしい。

フロアマップを手短に確認するとそのまま目的もなしに歩き回ることになった。

「パルテノン神殿って別名アテナ神殿ってのは知ってるよな」

目先にちょうどあったので俺は話題を唐突に振ると、案の定茜自々戸ったふうに答えた。

「う、うん。知ってるけどそれがどうかした?」

「知恵と戦略の神アテーネーの神殿、アテネは都市部を守る、まぁ守り神みたいなもんだったらしいんだ」 

「だからそれがどうかしたの?」と分からないふりではなく本當に分からんとばかりに聞き返してきた茜。

「ま、皮な話なんだがな」

「俺たち日本人ってさ、八百萬の神とか言われるように何にでも神様至上主義で事を考えてきたよな?」

てっきり癖で「至上」なんて言葉が出てしまったが、無論誰にも話したこともないし獨り言にも口にしたことはないので茜は「そうだね」と疑問を抱かずにさらりと流した。

「山には山の神、川には川の神。だから昔の人々はこれに頼って崇拝したり拝んだり、何か自然災害が起こったら真っ先に神様に収まるよう祈願していたんだ」

「だから今でも神社にお參りしに行く文化があるんだよね」

俺は順接的に頷くと頬を緩ませながら話し始めた。まるで人の世を自的に言い表すかのように。

「そうだ。それでこの神殿だ。名前の通りアテーネーの神殿だろ?」

「だが、この神殿が後に倉庫として利用されることになったんだ」

茜は知らなかったと言いたげに、気だった顔を真剣そうに、辛辣そうなものに変えた。

「……でもはじめのうちは崇拝とかに使ってたんじゃないの?」

「最初は、な、哀しいことに戦爭ってのは何にでも変化をもたらすもんだ。良いこともワルいことにも」

戦爭があったからこそ今の科學技があり、そして戦爭があったからこそ多くの人々だけでなく建も失った。戦爭がなければ、あれば、とifを張り巡らし、どんな結果を生むはずだったのか自問自答する。

「嫌なことにそれが利用できてしまうんだな、これが」

「どゆこと?」と頭を傾かせて聞いてくる茜により分かりやすく意図を伝えることにする。分かりやすく、というよりは最早答えを簡潔に、短く教える、といったじに。

「要約するとだな、見え方は1つじゃないってことだな。厚かましいかもしれないが、あまり限定的に価値観を絞らないこと。例えば今回のパルテノン神殿なんてそうだ」

クリエイターに限らないことだ。1つだけ、一點集中した考えや見方は必ず終・わ・り・が訪れる。

「葦の髄から天井をのぞくってな」

相変わらずハテナマークを頭上に掲げている茜に、俺は繰り返すように言った。

「何かまた思い悩んでいるときには、他人と繋がれ。他人なんていくらでもいるんだからよ」

ハテナマークではなくしばかりの笑みを浮かべていた茜の容姿を見る限り、やはりそうだと確信した。

「…………なんだよーー、マガトらしくないじゃんーー」

どうして噓偽りを口にする時には口角を吊り上げるのか分からないが。

それよりもなぜ俺に悩みを打ち明けようとしないのか、それだけがやはり心殘りだった。

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