《俺の小説家人生がこんなラブコメ展開だと予想できるはずがない。》101.彼は利他的主義である~イラストレーターとしての決意~

他人を犠牲にしてり上がろうとする。いわゆる利他的主義者とは俺にとって縁が無いわけではない。もっというならば俺以外の人間だって誰しも抱く方法論で、彼らが願いを、思いを祈願しているのならばなおさらだ。

自分を犠牲にして他人の幸せを願うことは、自己中心的で、自分勝手で、何よりも自己欺瞞だ。自分なんていなくてもいい、ただ他人が、誰かがその代わりとして幸せをしてくれるなら、それこそが自分の幸せだと主張すること。幸せをではなく外に求めることで自分の生きている理由を弾き出すのは、あっぱれなことなのかもしれない。

しかし、それで何を被ったのか?どれほど傷ついたのか?俺はただ知りたい。そこまでの痛みや絶を請け負うほどの幸せとイコールだったのか、と。

さて、冒頭に戻ることとするが俺が二元論を展開したのにはそれなりに理由がある。まさか、初めに語ったことが途中で全く真逆のことにすり替わっていたことは認めざるを得ないが、それこそ二元論だ。一方を語るならば、他方から、と別方向から覗いたのである。

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さらに、言いたいのは文章の中で主張したい部分は、要點は大抵最後の方にあるということである。小説だって過程を捻って曲げてきたからこそ得られる結末の喜びがあるし、努力は報われる、との言葉もあるし、要するに甘いアメは最後に訪れることだ。

--神無月茜はどうしようもないお人好しであるーー

これこそが格が捻り曲がった俺が言いたかった最大かつ最終的な結論であった。

マスターがテーブルの上に二つのコーヒーカップを置き去っていくのを見屆けた後、俺はそのうちの一つ、ブレンドコーヒーを皿ごと手に取り、量だけ口に含んだ。ほろ苦い中、かつ予めれらていた砂糖とミルクが口腔から胃へと流れ込み、しだけ満腹をもたらす。

乾ききったから水分を取り込ませる。後から苦みが伝わり、味だけではない苦・み・は俺をれながら決して味わうことなく、とりあえず一言。

「神無月はこれをけれれたのか?」

と、訊いた。対して彼は何も口に含まず、絞り出すかのように聲を挙げた。

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「いや……まだ最後の決斷はしていなくて。だからマガトに聞こうって思って……」

下を俯き指先をりながら言う姿には何か決斷をすることに躊躇っているように見えた。

ただけるか否かで悩んでいるのではなく、けた、けなかった後に迎える結末を見據えているようだった。

だからといって何故俺に聞く必要があるのか、よりによって水無月ではなく俺に。まさか罪悪でもじているのか。

「俺には関係のないことだ。自分の將來くらい自分で決めたらどうだ?」

ゆえに俺は何も提言しなかった、むしろ突き放した、助言よりも辛辣な言葉を差し向けた。

すると神無月は俺の言葉に一度に驚かされたように、目を一杯に見開くと、再び憂鬱で気分が落ち込んだかのように視線を下す。自分で被った罪を背負い、押しつぶされそうになるように。

神無月が悩みこむのも無論承知のうえだ。そこまで人の思いを理解出來ないような薄者ではない。神無月に突如當てられたメールの容、つまるところヒカリレーベル文庫からの提案によると、

神無月茜は「出雲流」というペンネームで事実上のデビューが出來ることになる。だが、その條件は俺の小説のイラストだけが掲載されること。

一見するとどこにも斷る必要などない。気にっている作家のイラストを描けることになるという二重の喜びがあるし、けたところでデメリットが無い。何よりイラストレーターとして世間に自分の存在を知ってもらう何よりの絶好の機會である。ウェブ上に投稿していただけでは得られなかった想や、ファンが増えるかもしれない。

だから俺は出版の依頼があった瞬間、飛ぶように返事をしたのだ。

だが、この場合、神無月茜が巡ったチャンスには犠・牲・が伴うことにある。彼はそれを危懼しているのだろう。俺は溜息を溢すと、再び問うことにした。

「……俺を……気にしているのか?」

はっと目線をこちらに移し替える神無月、リアクションから察するに答えはYESだ。俺なんか、他人なんかのために、決斷を下しかねているのだ。

「そりゃ、そうだよ……だって私が、もしこれをけてマガトの作品の表紙を描くことになっても、私は……自信ないよ」

「そんなの同じじゃないか。俺だって新人だし、売れるか売れないかなんてはっきり言ってギャンブルみたいなもんだろ?」

自信か、そんなもの俺だって持ってもいないし、抱こうとすら思わない。新人だから、といっても水無月のような超有名作家になっても俺は自信なんて持ちえないはずだ。どんな人間になろうと必ず売れる理由なんてあるわけがない、いつ売れなくなる日が來るのか、分かったもんじゃない。

「神無月はどう思っているんだ?イラストを描くのが夢で、だから水無月に叩き込まれていたんじゃなかったのか……?」

だといって抱いていた夢をあっさりとかなぐり捨ててしまうのだろうか。神無月があの日、信號の前で決意した輝きはそんなものだったのか。答えはNOだ、決意があるが、決意したときの代償が彼には荷が重すぎるのだ。

「そりゃ、私だってやりたいよ。自分の描いた作品を誰かに認めてもらいたい、だからみなにも手伝ってもらってる」

「けど、もし私がマガトの作品のイラストを描いたとしたら……私の不甲斐なさでマガトの作品に迷をかけてしまうかもしれない」

悲しいことにそれは事実だ。一般文蕓ならともかくラノベなら納得してしまうのも仕方がない、表紙のイラストを見て手に取り、ヒロイン達が可いかビジュアルで判斷する読者も多く存在するのは確かだ。

ラノベに求められているのはいかに登場人が魅力的で、特徴的で、何より印象的でなければならないということ。そんな中にいきなり放り出され、本番の舞臺が俺の作品であるならば、猶更、躊躇してしまうのも分かる。俺だって敬する作家の二次小説を書くことだって躊躇うのだ。まさか作家の命まで関わるとなると、逆に辭退したくなるのも否めない。

「俺は……」

だから自分自、相手の立場となって、というのもおかしな話ではあるが、作者としては奨勵すべきなのだろう。

「神無月に描いてほしいと思う」

ただぽつりと獨り言をらした。

「俺の小説のイラスト、挿絵がどんな作品になるのか。正直期待の他に、心配の面もある。簡単に言っちゃえば想像と違ったってやつにならないか、不安なんだよ」

中を打ち明けるように、神無月の悩みの種のお返しというのはいささか変であるが、それでも俺は俺自が思う、思い抱いているものを主張することにした。多分、同じクリエイターとして悩みを共有したかったという念が強かったのかもしれない、人生とは孤獨であると言われるが、それでも俺は他人が思考していることと相違ないか確認しておきたかったのだ。

「だが、そんなこと言ってたら俺なんか張りだ、とか意地汚いなんて非難されるかもしれない。そう思っている俺もいる。だったら自分でイラストを描けばいい話じゃないか、って自問自答して尋問自答だな。毎日バカみたいに考えて悩みまくってる」

「……それは普通のことじゃないの?もし小説を書いているのなら、そっちに集中するべきだし、確かにイラストも兼業している人はいるけどごく稀だよ」

「それに、小説家が考えている造形がイラストレーターと差異が生まれるのは當たり前で、それをなんとか修正するのが仕事なんじゃないの?」

正論だ。まごうことなく正しい。だからこそ、クリエイター間で乖離が生まれ、そして新しい関係がまた芽生える。それがラノベ創作者クリエイター。

「ああ、だから良いと言っている」

神無月は落ち著かない様子で再び俺に聞き返す。

「それが一どうして私がマガトの作品のイラストを描く理由に繋がるの?何を考えても、頭を捻ってもマガトには、いえ早苗先生には迷をかけることしか思い浮かばないよ」

まるで訳が分からないとばかりに頭上にハテナマークを掲げているので俺はヒントを出さずにそのままアンサーを出すことにした。

「どうして俺だけが後悔することになるんだ?」

「いや、こう言った方がいいか。なぜ新人である俺が迷を掛けないのか、だ」

「え……だってどうしたって」と抵抗しつつそれがかなわないかのように口をかし悶える神無月に対してやはり俺は思ってしまう。彼はどこまで利他的主義なのか、と。

「俺も神無月も同じスタートラインに立っているのに、俺のことばかり考えるのは神無月、お前の悪いところだ。まず自分自について考えろ」

「それは……いや……でも。そ、そうだ。もしマガトの作品が無かったら私にはデビューの機會が回ってこなかったってことでしょ?だから」

「だから俺のことを上にあげるってのか?そいつはまさに有難迷というだな」

俺は神無月が続く前に口火を切った。

「何でも自分の思い通りになるとは思わないことだな。それでも考えこんじまうのは無理もない話だが……」

冷めたコーヒーカップを再び手に取り、コーヒーを口に含む前に今度は言った。

「自分だけで、他人一人にも相談しないで考え込むのはやめておけ。それは違った見方をすれば裏切り行為なんだから」

いつの間にか下に俯いている彼の瞳には麗しく、かつ潤いを帯びていた。手元には力が込められていたようで握りこぶしが白く変していた。

「要するに神無月。俺はお前に、出雲流にイラストをこちらからとしても頼みたいってことなんだ」

「神無月は……どうなんだ?」

と訊くと、一度瞼を閉じてから、答えを出したかのように。

「はい、お願いします。早苗月先生」

閉じていた瞼が開いた瞬間、あの日048話よりも期待が7割、不安が3割増したかのように、俺には見えたが、決して錯覚ではないだろう。

俺の両手を包むように握った彼の手の熱さがそれを語っていた。

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