《俺の小説家人生がこんなラブコメ展開だと予想できるはずがない。》104.可思議な夢遊と確かな現実
現実世界?(曲谷孔)
俺は夢を見ている。
海に沈む夢でも、自分のが蟲になったり、巨大化する夢でも、高所から落下する夢でもない。ただ一つだけ言えるのはが見・た・こ・と・が・あ・る・夢・だ。
解釈の間違いと思うかもしれない。夢に見た記憶はあやふやで、曖昧で、形として殘らないことが普通だろうし、俺もこの夢を見ていなかったのならば否定するはずだ。まさに無知の知、知らないことは知らないとしか言えないだけで、選択肢が増えようとしない。知ることで、そのことを信じるか信じないかが生まれるというのに。
だからあえて俺は見たことがある夢だと思った。
夢であるからか辺りがどんな環境であったかはあまり思い出せないがーー恐らく何の変哲もない、ただの小部屋で、屋の天井あたりから日差しがっていたことは覚えている。俺から見て右側の壁にドアがあって、家は機とその上に一冊の本が置いてあるのみ、それ以外には何一つ視界にったものは無かった。
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しかし、俺は俺以外の人間がいることをすぐに悟った。
そこにいるわけでもないのに、あの、いつも俺を兄として呼んでいた義妹ではない本當の妹らしい妹がいるという記憶だけが頭の中に殘留しているようで(013話)。どうしてか半明でいる妹が、機を見つめながら突っ立っていたのだ。
「何を……しているんだ」
妹に聞くが返答はない。ずっと機を見つめるだけで、それだけ。手をかすことも、足をかすこともなく、機の上の本だけを眺めている。
普段ならばマシュマロシュシュで縛ったポニーテールに、エメラルドグリーンのフリルを肩から腰まで著ているはずのは、今は白のフリルだった。違いはそれだけではない。本を見つめるの眼差しは気さも冷たさもない、無でいるはずなのに、俺にはなぜか、悩・ん・で・い・る・ように見えてならなかったのだ。
他人を察するにしてもこのにしては、気持ちすら読み取ることが難しい。悩んでいて、悲しいのか、怖いのか、それとも嬉しいのか、そんな単純なすら俺には理解しがたかった。
何をするでもなく、ただ見つめるだけでいた俺はいてもたってもいられなくなったためか、の目線にろうとをかしたとき。
は獨り言のように、はらりとか細い聲で呟いた。
ーーこれでーーよかったのかなーーー
俺はの視界にることなく、れることもなく、意識が遠ざかり。
うつつに戻ってしまった。
現実世界(曲谷孔)
現在、俺の眼前に広がる景はヨーロッパの故郷の斷片のようなものが広がっている。鉄柵の門の外から、つまりは大通りからその建造を見る限り、実際のレンガブロックが基調となった壁に、深緑の屋から突出するように小窓が4つほどある。庭先に植えられている二本の大木は葉を無數につけており、前回訪れた時より、一層青々しくじられる。
俺の自宅から徒歩圏で訪れることが可能な場所、さらに言うならば俺の登校ルートの途中にある建造。大通りに面してこの周辺では異端ともとれる屋敷。
水無月邸である。
『前と同じようにそこで徘徊している様子だけれど、そんなに警察の用にかかりたいのかしら?』
インターフォンがどこにあるのか探し回っているとどこからともなく聲が聞こえてきた。
「そんな冤罪がかけられるようならこの國はストーカー常習者が蔓延することになる」
そう言い返すと數秒間だけ沈黙があったのちに、突如開くことのなかった門が左右に開いた。俺が草木生い茂る庭に足を踏みれると、門はオートロックのようで再び閉ざされてしまった。
庭の手れはしっかりと手れされているので、相変わらず季節の花々が花壇に植わっていた。的には季節の花というのは向日葵ぐらいしかその時にはすぐには分からなかったが。しかし一、二程度ならまだしも、何故大量に植える必要があるのだろうか。ざっと數えてみても30程度はあるんじゃないか……?
と、不想なことを心抱きつつ、真っすぐ歩き進んでいると、何からかいものに衝突した。どうやら俺の長よりし高いらしく、ぶつかった衝撃で必然的にも俺が仰け反ってしまった。屋敷の口、玄関に視線を戻すと、俺が衝撃をけた原因が姿を現した。
しかし、俺は一なぜ予想をしていなかったのだろうか。ここは水無月桜の自宅。そして彼には両親がいるわけで、一人暮らしをしているわけでもない。
「っと、すまない。しばかり考え事をしていた」
そう、俺が衝突、出會ってしまったのは水無月桜の実母、水無月雅だった。
「……いや私だけが悪気があるわけではないらしいな。歩くときに余所見をするのはいささか善いとは考えられないぞ」
水無月雅だった。靜寂の中、厳格を包んだ威圧を押し付けてきた、きっとそれこそがこの人の強みであるのだろう。俺は一瞥をしてから「すみませんでした」と一言告げた。
「それはこちらこそだ。だが、君は重要なことを忘れてはいないか?ここがどこだが忘れていないわけではあるまい」
この場所というのは、無論水無月桜の自宅であるが……なるほどそういうことか、確かに不躾のほかない。
「今日は桜さんに執筆の手助けをしてもらうことになっています。失禮ながら、お邪魔します……」
「ふふ」と珍しくも笑みを溢すと、
「ならいい。仕事上の付き合いならば奇しくも惜しくもあるまい」
そう言葉に抑揚をしばかり持たせつつも、頑なな堅実さは変わらなかった。さらに門へと向かう途中、捨て臺詞のように放った言葉がそれを証明しているようだったのだ。
ーーこれからどうなるのか、楽しみだからなーー
ふっと小聲で呟いたその意味深な言葉は、わざとらしく俺に聞こえるように囁いたようだった。
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