《俺の小説家人生がこんなラブコメ展開だと予想できるはずがない。》109.Q.E.D.(水無月桜)

ーー水無月桜ーー

獨りになった空間というのは別段、特段、これといって寂しくも侘しいとも思わない。風がないとかどうとか、言ったが、自分としてはそこまでそんなものは意識していないし、するつもりもない。そんなのは語の上で関わる重要な項目だし、だったらアンソロジーを読めば、と提案してやりたいぐらいだ。

アンソロジーというのは々な人々が歌った詩をまとめたもの。詩集とかそんなところ。一人の作家として風とか、景をいかに描寫するのか技巧を學ぶべきなのだろうが、今の私は…………まだ必要ないと思う。

冷めたティーカップを口元に持っていき、冷たい、舌、という順番でじる。に取り込まれる紅茶の心地よさは言葉で語り難いものあるけれど、それよりも彼の言葉が気分を高揚させているようで、落ち著きがないのは自が一番理解している。

カップを小皿と共にテーブルに置くと同時に、肩の力を抜く。そして時を同じくして、呼吸も洩らす。微笑という僅かばかりの景品が付いて。

「ずいぶん、曲がっていることね。自分の気持ちぐらい素直に言ったらいいのに」

私の健康を気にしている、そう言った彼は、何故か言いづらそうな表をしていた。嫌というわけではないけれど、どこか微笑ましいと思ってしまうのは私が可笑しいからなのだろうか。

「でもまあ、いいわ。いつものことだし。けれど……やっぱり考え方がねじ曲がっているのは教えた方がいいかしら……」

自分のデビューのことを把握しているから、神無月さんはイラストレーターにならないようにしようとしたわけではない。それは彼もそう言っていた。

夏休みにる前、知らない電話番號から著信がったと思ったら「話したいことがあるんです」との一件があってから、もう二週間ほど。

あの時、作者としてではない彼から言われた言葉。

『私……読者じゃいられなくなってしまうかもしれないんです』

もし、自分が手を出したらもう、見る側、観客側にいられなくなってしまう、そんな危懼から彼の悩みは発したのだ。

「それなのに、あなたはこれだと思ったら突っ走って他の考え方をしない。そんなところは曲がらないのね」

アウトドアリビングは二階なのでそこまで見通しはよくない。だが、屋敷の庭ぐらいは見通せる。

視線を下におろすと、足早に帰路へ向かう彼ーー曲谷孔。

雑念に苛まれた頃よりも、一層楽しい人生を送っているのだと、改めて実するのだった。

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