《俺の小説家人生がこんなラブコメ展開だと予想できるはずがない。》113.神無月茜はあざとく、誰もいないはずの教室にいたのは……
文化祭にてウチの部活、文蕓部は名前通りのような出しをすることになった。文蕓部というのだがら、文の蕓、つまりは文章を載せた作品。要するにオリジナルの短編集を自ら執筆して販売することにしたのだ。
だが、肝心なことを俺は忘れていた。短編集とは言っても、一どのような容の短編集なのか。型が決まったはいいものの、重要な中が未だに埋まっていなかったのである。
さて、どうしたものかと思い悩む俺の隣に座るのはイラストレーター、神無月茜。
「結局、どんな容にするのか決めたの?」
「マガト」と後押しするように聞いてきた神無月に対し、俺は後ずさるように視線を窓側に逸らす。近い。近すぎる。
おっと、俺が陥っている現在狀況について語っていなかった。昨日は、文化祭での活について相談するために顧問兼擔任である掛依真珠のもとへ向かったのだった。しかし、なぜだろうか、ただの世間話に明け暮れて肝心の文化祭についての話をしなかった。そして何もせず、俺はのこのこと部室へ戻ると、これまたお怒りのが二名いたのだった。
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そして昨日に引き続き、今日も夏休みなのに登校して、この部室に來たというわけだ。ここに來て分かったことだが、水無月はどうやら用事とやらで部活に來ないらしい。そうして俺と神無月の二人で小説の容を決めるというのはちょっと無理があるんじゃないかと思っている俺が、ここにいた現在狀況、というわけである。
「い、いや……まだ決めてない。その……神無月は何かいい案でもあるか?」
だが、そこまではいいよ。普通に長期休暇中に部活をするために高校に來るのはよしとする。
「んーー。そうだねーー。例えばさ、同じ設定、世界観の語を二人の作者が執筆するってのはどう?」
同じ長機を目の前に、二人並んで座る俺と神無月。ただ座っているだけでも、肘が當たりそうなくらいの距離。
「おーーい。どうしたの、そんな呆けた顔してさ」
さらに、ずいっと顔をこちらに近づけてくるのはさすがに反則なんじゃないですかね。しかも、長差があるせいで下から覗くような見方でなんだか余計あざといというか。いつもなら水無月が仲介者として真ん中に座っていたけど、二人になるとこうも距離が近くなってしまうんですかね。
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俺は視線を校庭が見える窓へと逸らした。
「あの…………近いんだけど」
そう言うと「あっ……」と自分が今何をしているのか、改めて知った神無月はゆっくりとを遠ざける。
暑い、暑すぎる。これは絶対に夏のせいだ。
夏休みといっても高校生活では変わらず制服で來なくてはならないルールがある。つまり校則が罪なのだと主張しつつ、ワイシャツの襟元に手を突っ込み空気を送り込む。熱くなったパソコンを冷やすように、俺は自分のに風を送り込む。が、暑さは変わらなかった。
冷卻することを諦めた俺は自然に、暑さがバレないように訊いた。
「で、同じ語を別々の作者で書き進めるって話だっけか」
「そうそう。それぞれ違う作品だったら、ちょっとオリジナルに欠けるというかさーーつまんないと思うんだよね」
まあ、悪くない。臺詞多めのライト系小説を書く俺と、ミステリ、景描寫重要視の水無月との二人で書けば、同じストーリーだとしても全く違った味が生まれるかもしれない。
「それもそれで面白いと思うな。だが……題材はどうするんだ?」
そもそも何を書くのか、その「何」が決まっていない。SFなのか、なのか、はたまたファンタジーなのか、中が全く決まっていない狀況。
「それなんだけどさ。私はいいんじゃないかなーー」
「いいって、何がいいんだ?」
さっぱり分からない。
「いやだからさ、題材なんて無くても良いんじゃないかなってさ」
「……どういうことだよ。語が無いところから書き進めるとか、もはやビッグバンを起こす前の宇宙がどんなんだったか、なんて問題と同じぐらい分からんぞ」
「大袈裟だよーー。いやねえ、ないっていっても基本的な設定は決めるよ?登場人がどんな格だとか、どこに住んでいるのか、とかはさ」
「つまり……設定だけ決めて、その後は俺たちに投げるってことか?」
神無月は満面の笑みで「うん!!」と頷く。
うん。面白くない話ではない。登場人は決めるが、彼らが何をするのか、つまりはをするのか、冒険をするのか、は俺たち作者が決める、つまらなくはない。
ゆえに俺は拒むことなく、そのまま神無月の提案通りに事を進めることにした。
「OK。分かった。それで行こう」
「いえっいい!!やったぁ。どうマガト?しは私も役に立つでしょーー?」
またもや、ずいっと上半を寄せてくる神無月に対し「どうだかな」と俺はを引こうとする、が……
「どういう意味だよーー!!ちゃんと認めろーー」
と、神無月はさらにを近づけてくる。
本當に無自覚というものは罪だ。俺は心の中でそう呟いたのだった。
短編集、短いストーリー、結末を速く迎える語。一見すると、長編小説よりも執筆するのは楽なのかもしれない。単に分量がないし、展開も短くてすむ。それだから編集も容易になるだろうと予想するかもしれない。
だが、言語道斷、そんなことは一切ない。むしろ短編の方が難易度は上がるといっても過言ではない。
まず、一つ、登場キャラクターの設定。これは今回ばかりは前々から決めるということで、そこまで苦労はない。だが、何にもない、ゼロから短編を書くとなるとやはり複雑化する。ない分量の中で、どのようにキャラクター本來の個を引き出すのか、これが結構ムズイ。
二つ、構。校正ではなく構。語がどのようにしてり立っていくのか、何を伝えたいのか。これも中々、難易度が高い問題だ。舞臺を詳細に設定してしまうとそれなりに周辺環境について説明する必要もあるし、長すぎるとただ舞臺の説明をしただけの語で終わってしまう。
これは長編小説でも言えることだが、どのくらい語のバックグラウンド、世界観を語るのかが重要なのだ。長すぎれば、読者はすぐに読むのを止めてしまうし、短すぎれば親近がわかないといってやはり読むのを止める。
ーー結局、小説を書くと言うのは、その分量ーー短編か長編か、に関わらず苦労度はさして変わらないのだーー
「ったくよーー。まさか文化祭で部活なんてするもんじゃないだろーー」
愚癡を溢しながら廊下を歩く、男子高校生兼小説家、曲谷孔。
前日に部室にて子と二人きりで過ごして進んだのか進んでいないのか、よく分からぬまま終えた部活。たった四人ほどしかいない部活に部している男。
って、自分を客観視しても小説のネタはそう簡単には浮かんでこない。夏休みが殘りあと一週間で終わりを迎えるというのに、俺は校舎、もっといえば一年の教室群を橫目に歩いている。
今頃、溜めにため込んだ夏休みの課題をせっせと終わらそうとしている生徒が脳裏に浮かんだからか、教室の中が空っぽだということにはさして驚きはしなかった。
1組、0人。2組、0人。ちなみに俺は9組、玄関からって校舎を直進して最も端のクラス。だから登下校する際にはいつも廊下の端から端まで歩かなくてはならないのだが、これまた運よく文蕓部の部室は9組の真上、2フロア越して、4階にあるのだ。つまりクラスがたとえ1組に振り分けられたとしても結局、同じ距離を歩かなくてはならないということだ。いや運悪いな。
そんなこんなで、5組に差し掛かろうとしている。これまた0人だ。
「おっ、いいアイデアが思いついたぞ。『夏休みに一人の青年が放課後の校舎に訪れる。無いはずの放課後、誰もいないはずの校舎にいたのは一人のだった』」
そう獨り言をつぶやいていると、教室が俺のクラス、9組を橫にして通りかかろうとする。
「誰もいないはずの教室、そこにいたのは……」
忍び歩きをしながら9組を橫目に見ると、一人のがそこには……いなかった。
しかし代わりに居た。
「うおおおぅっ!!だ、だれだ!?」
でもないし、見知らぬ人でもない、昔からの付き合いで、中學からの同期である坂本卓也がいたのだ。
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