《俺の小説家人生がこんなラブコメ展開だと予想できるはずがない。》114.変わる男と変わらない男

坂本卓也。中學、高校とクラスが分かれたことのない唯一無二の人。それゆえに親友と呼べる人間は彼ぐらいしか思い浮かばない。あんな人水無月やこんな人神無月がいなければの話であるが。

「おっどろいたぜーー、まさかマガトがこんなところにいるなんてよ。てっきり家でゴロゴロネトゲしてるかと思ってたぜ」

「俺はそこまで自墮落な生活を送っちゃいないぞ。被害妄想だ」

「被害妄想……といえば、そういやあの話はどうなったんだ?たしか……うちの擔任掛依と何だか付き合ってるって話じゃなかったか?」

まさか、そんな単語で思い出すとは。

「まだ覚えていたのか……?」

「あったりまえだろ?あんな話、フツー出てくるもんじゃない。しかも校中、誰もが噂を流しまくってた、知らないヤツがいないほどさ。それに俺にしちゃあ、あの暗なマガトが、って驚きもあったしな」

「忘れたいもんだが……というか本當にありもしない迷走話だし、迷だ」

なさげに坂本は言った。

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「そうかーー?別に悪い話じゃなさそうだけどな、俺としては逆に校で有名な人って取り上げられそうで面白そうだ」

意気揚々と語る坂本に「はあ……」と俺は溜息をつく。萬が一、校長に知れ渡ったら自分の擔任が解雇されかねないというのに、どこまで呑気な奴なのだろうか。そう言うと流石に考えを改めたのか「そういや、そうだったな」と改めたようだった。

「んで、なんで卓也がこんなところにいるんだ?ちなみに俺は部活があるからここにいるんだが」

「そういえば言ってなかったな。ん、ちょっと待て」

ごそごそと機の中に手を突っ込み、探っていると、目當てのを摑んだようで一気に引き出しから引っ張り出した。

「長年眠っていた……コイツだ……」

「いや、『課題』って言えよ」

「そんな率直に言うか!?」

取り出したモノ、それは角が丸まってしまうほど古臭くなった英語のワークノート。

「マガトは全部終わったって言わないよなあ……って、まさかそんなこと……ないよな」

「ある」

即座に答えると「なんでだよ」と俺に縋るすがるように坂本は悲鳴を上げた。

俺としては面倒なことを後々に引っ張るのは好きじゃない。やらなくてはならない面倒事なら手短に終わらせる。それが俺のモットーなのだ。

ゆえに、課題なんて面倒事は夏休みにって早めに終わらせたのである。

ならばプロットとかの〆切は……っと、それは別問題。創作と勉強はカテゴリが別々、同じものとして考えてはならない。そんなことを言うとどこかの編集者さんが「言い訳は止めなさい、ゴミ」なんて酷い文句を言われそうだが。

「あっ、そういえばさ」

と、坂本はさっきまでの泣き上戸がまるでなかったかのようにコロッと形相を変えて言った。

「俺、彼出來た」

「俺の一つ上の二年の先輩だけどさ、なんかとりとめもない會話してたら付き合うことになった」

まるで自分にリアクションを求めているようなじだーーそれもそう坂本が「んで?んで?」と催促してきたのだ。そこで嫌々せめてものの反応をすることにしたのである。

「そうかーーそれはよかったなーー。おめでとさん」

まるでコンピューター。人工知能、AIとか、そういった機能を搭載したペ〇〇ー君、みたいな言い方で返した。それだから案の定、

「なんっだよ。それだけか?そんな籠ってない言葉しか言えないのかーー?」

面倒なことになった。いやだって、付き合うとか、彼しいとかはあんまり考えてこなかったし。

「わかったわかった。ホントにおめでとさん。んで相手はどんな人なんだ?」

「ほっほぉーー。聞きたいのか、ん?聞きたいのか?」

 

今度はまるで自分が王にでもなったかのように誇らしげになる。どんだけ鼻の下ばしてんだ。

「でもなぁ、ヒ・ミ・ツだ。こればかりは舊友のお前でもダ・メだな」

じゃあ、なんで聞いたんだよ。聲に出さずに突っ込む。最早、返答さえも面倒になった。

付き合う……か。際する意味とかきっかけとか、理由ってのは誰しもあるんだろうが、今の俺には思いつかない。ずっと一緒にいたいって思った人がいわゆる運命の人なんだろうが、今はいない。今・は・な。

だからか、興味本位で訊いた。

「なんで付き合ったんだ?話しているだけで際まで発展しないだろ」

「またぁ、つまらないこというなぁ、マガトは。絶対、モノの話とか疎いだろ」

うるさい。あまり経験がないだけだ。

「特別これといった理由なんてねーよ。ただ話している最中にそんな流れになっただけだ。ノリでな」

片目を閉じてこっちを眺めるのはなんだ、また誇張したいのか。いや、絶対そうだ。

「そうか」

だから流す。案の定、「それだけかよ!?」と慌て始めた。

しかし、付き合う意味なんてないのはそれこそが理由として挙げられるだろう。絶対、なくてはならないモノではない。だが、あった方が付き合った後、何・故・付・き・合・っ・て・い・る・の・か・、という疑問を考えずに済む話になるだけなのだから。

「んで、部活って何してるんだ?あのマガトが課外活を出すなんて珍しいったらありゃしない」

「ああ、たしかに中學の頃はそうだったし、何なら今も帰宅部にりたいもんだ……が、ちょっとしたいざこざで別の部にらざるを得ない狀況になってだな」

自分の小説を出版させるため、なんてことは絶対に言えない。

「いやな、今年の文化祭で小説を書くことになったんだが、その容がまったくもってアイデアが浮かばないんだ」

呆けた目で俺を見つめる坂本。そういえば、長い付き合いだというのに、小説を書いているという話を彼に一度も言ったことが無かった。

だが、坂本は的確な助言を俺に與えてくれたようだった。

「そこら辺の事はそれ以上聞かないが、そうだな……フツーにモノとかでいいんじゃないか?どうせ、書いたら販売するんだろ?だったら顧客層がもっとも多い學生にとって近な話を書くのが一番だろ」

的をたような答え、予想だにしなかった回答により、今度は俺が呆けてしまった。まさか、客層を意識するとはこれまた意外がある。

「それはいい。使わせてもらうよ、その案」

あまり時間をかけていないため、彼の言う通り「そんなんでいいのか?」と再度考え直そうとしたが、やはりこれがベストだ。そもそも良作を書いたところで作品を手に取ってもらわなければ、意味が無い。

「それか、SFを主題にして、ちょこっとれるとかさ、そうそう、あの『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』みたいな」

「グッドアイデアだ。カテゴリを一種類に絞らないのも、語に捻りがあっていいかもな」

すると、坂本はまるで俺を不思議そうな目で見つめてきた。普段のような「友人」としてではない眼差しで。

「マガト変わったか?」

変わったと言えば、変わったのかもしれない。

が。

「何言ってんだよ。今の今まで俺は俺だぜ?」

と、あたかも彼、坂本卓也のような口調で教室を後にした。

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