《俺の小説家人生がこんなラブコメ展開だと予想できるはずがない。》124.シミュレーションゲームR15版

初めて彼を自分の家に連れ込んでしまった。それでももう罪悪という愚考は僕の頭からすっかり抜けていた。僕はあの砂浜で誓った頃から思いは何一つ変わっちゃいないのだから。

『お邪魔……しま、す』

しどろもどろになりながら彼は僕を追ってくる。當たり前だ、初めて僕の家に足を踏みれたのだから。

『何か飲みたい?』と訊くと彼は『お茶が良いな』と返した。先に部屋に行っててと部屋の場所を教えてから僕は臺所に向かった。今日は両親兄弟誰も居ない。そして帰宅してくるまで十分時間はある。

『汚くてごめんね。大丈夫?』

『全然汚くなんかないよ。むしろ○○くんって結構綺麗好きだったりして?』と彼は答える。よかった、昨日張り切って掃除した甲斐があった。いつもなら無造作に勉強機に置かれている雑誌。それら全て本棚に仕舞い込んだし、散らばったペンだって全てペン立てに戻した。

『なんだか疲れたね……ちょっとベッド借りていい?』

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頷くと彼はゆっくりと僕のベッドに腰を下ろしそのまま仰向けになった。午前中には遊園地を巡り、午後にはフラワーガーデンへと足を運び、今僕の家にいる。僕も疲れてはいるけれど、そこまでの疲労はなく、張がほとんどだった。

テレビもラジオもなく、部屋の中にただ靜寂だけが生まれる。窓の外からは細やかな雀の鳴き聲だけ。

『ねえ……こっち……來て』

靜寂を破る聲。僕よりも先に彼が切り出してきた。

右腕で顔を隠しつつ彼はぽつりぽつりと洩らした言葉。僕は出來ていた決心をまた決心する。二度手間ではあるけれど、もう失敗しないためだ。そして自分の想いに真摯になるためだ。

一歩、また一歩、彼のもとに歩み寄る。

が目と鼻の先になった時、一つだけ問われた。

『○○君って、コーヒーを頼むとき、Sサイズを選ぶ?それともMサイズを選ぶ?』

どういうことだろうか。こんな時にコーヒーだなんて。僕はブラックでは飲めないけれど、砂糖がっているなら飲める人間。だからあまり好んで飲みたいとは思わない。

『①Sかな、頼むとしたら』

『②Mかな、頼むとしたら』

『②Mかな、頼むとしたら』

瞬時、目の前が真っ暗になる。初めは部屋が暗闇にでも包まれたのかと思ったけれど違った。

は近寄ってきた僕を一気に抱き寄せ潤な部を僕の顔面に押し付けたのだ。

が真っ白に、白紙に戻されるように、記憶中樞、學習能力が低下するようならかさ………………ではない!!

抱き寄せる力が加速度的に強くなっている。後頭部が彼の腕の骨に、僕の顔面は骨に到達している。めり込むような力のり方、これでは呼吸もままらない。何せ口もによって封じられているのだから。

『ふふふふっ。可い可い私のお人形ドール……』

『待って』という言葉は彼の耳には屆かない。そこで強引にも束縛された腕を振り払い、彼から離れることにした。

『はあはあ……んっはぁ』

呼吸がれてしまう。當たり前だろう。それだけ力強く抱きしめられたのだ。彼はさっきまでのお淑やかな様子はなく、ただ虛ろ気に僕だけを見つめている憑りつかれたような姿しかなかった。

『どうしたの?』

の顔には薄ら笑いだけがあってそれはもう楽・し・そ・う・だ・っ・た・。

『それはこっちの臺詞だよ。いきなり力強く抱きしめられても……』

『そんなのあなたが選んだことじゃない』

『自分が言ったことに責任を持たないなんて』

座っていたベッドから立ち上がり彼は僕のへ詰め寄る。そして鼻先がれ合うところまで近づくが、彼は逸らし耳元で囁いた。

『本當に噓付きね、○○』

『そんな人間なんて視界に映す価値ないわ。どうしてこんな人が生きているのかしら。あ、そうね、あなたは人ではなく目の前に與えられた餌を貪ろうとする家畜、豚よブ・タ。ほら家畜らしく振舞いなさい』

なんで、どうして僕は罵倒されているのだろうか。

『何しているの、早く四足歩行しなさいよ。私が奴隷のように扱ってあげるのだから栄に思いなさい』

でも……なんだか。

『あら、従順な奴隷こと。あ、そうね奴隷だと人間扱いだからあまり適さないわね、なら率直にブタ野郎でいいかしら』

なんか……なんか。

『ほら、ブタらしく鳴きなさいよッほらッ』

気分が高揚してくるッッ‼‼‼‼‼‼‼

―――――――――――――――――――――――――――――――

「やめえええいいいい‼‼‼‼」

再び部室を怒號で反芻させる。二度目のストップ。ドクターならぬストーリーストップだ。

「一何がしたいんだこの主人公は、『気分が高揚してくるッ』じゃないだろ!!そこは冷靜になって彼のことを考えるべきだろう!!」

「ねえ、ちょっとうるさいマガト!!」

「騒音被害で訴えようかしら」

タブレットを覗いていた二人はそこまで平靜を脅かされてはいないらしく、それどころか不自然だと思ってしまうほど冷靜だった。

あんなに顔を真っ赤にして眺めていたくせに切り替わりは早いんだな、こいつら。

「俺にしてはここで突っ込まないあんたらに違和しかじないのだが、それはどうなんだ?」

先に答えたのは水無月だった。

「そうね、いきなりコーヒーのサイズが選択肢に上がってくるなんて思いもしなかったわ」

「そうだよねそうだよね。おかしいよね。神無月はどうだった?これが普通のシミュレーションゲームだとじたか?」

「うーーん」と頬を右手で支え悩む神無月。いや、そこ考えるまでもなくね。

「私はこの彼さんの行に違和じたかな」

「ですよねーー。呼吸できなくなるほど力込められて抱きしめられても痛いだけだし、最後の豚発言はダメだよねーー」

「いやそうじゃなくて、なんで自分から頼んだお茶を飲まなかったのかなぁって」

違うだろ!!指摘するところ間違えてるだろこの人。いやもしかしたら俺の方が可笑しいのか、ハプニング多すぎて頭が追いついていないのか。これは第三者に聞くしかないな。

「そこんところ水無月さんはどう思いますかね?」

「私は……」

「コーヒーを頼んでしかったわ」

そこかよ!!ってかコーヒーの選択肢の件引っ張りすぎかよ!!いや俺もこっち來てって呼ばれて唐突にコーヒーのサイズ云々を聞かれたら脳思考停止するというか、この人何言ってるんだって思うけどさ。それでも一度忘れようよ、もうコーヒーから離れようよ。

深呼吸をして気を落ち著かせる。新鮮な空気を肺に送り再度頭を回転させよう。

「それで……このゲームは一どんなタイトルだったんだ、神無月」

神無月はタブレットではなく自のスマホを取り出す。數秒ほど畫面をスライドさせるとようやく見つけたらしい。

「えっと読み上げるよ。ん……っと……『彼がSorMである件について』ってタイトルだね」

「それ全年齢対象!?」

「R15って書いてあるから平気かなってさ。へへへ……」

年齢制限掛けられているじゃないかよ。まあ半分納得だが、もう半分は未だ不可解だ。

「何でそんなゲームプレイしようって判斷したんだよ……俺は普通のが楽しめるゲームをれておいてくれって言ったじゃないか」

「いやだってさ、やっぱりプレイするなら人気度が高いものがいいなーーって思ったから。この『ノベルゲーム売り上げランキング』ってところのランキング1位のやつを選んだだけだよ?」

それは一部のユーザーが舞い上がってるんだと思うんだ。

「こんなものが売り上げトップを占めるなんてやはりゲーム業界というのは陳腐なものね」

ほらーー。元から悪かった印象がさらに悪化しちゃったよ。

「今の俺たちに必要なのは普通のなんだよ。そんな特殊なもんじゃなくてだな……」

プレイするゲームタイトルの選抜を神無月に一任させてしまったのは俺や水無月のミスだ。だから神無月のことを責めることは出來ない。

「そもそも普通のが分からないからこうなっているのだけれど」

「はい申し分ないです。水無月さん」

というものをゲームから學ぼうとする三人の低迷は未だ続く。

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