の黒鉄》第5話 敵艦隊を発見せよ

日米開戦してから既に3日が過ぎようとしていた。

日本海軍は米海軍の向を摑もうと偵察部隊を數多く送り込んでいる。

その偵察部隊の片翼を擔う潛水艦の呂一〇は靜かに海底に鎮座していた。

日本海軍は第一次世界大戦におけるドイツ軍のuボートを徹底的に研究し、潛水艦に必要な機能とそれを活かせる運用方法を考えた。

その一つが偵察任務だ。

潛水艦は靜寂が高くなくてはならない。つまりは敵に発見されずらいのが潛水艦の特徴の一つと言えよう。

そこで潛水艦に高能な探知兵を搭載すれば有効な偵察兵になるのではないかと日本海軍は考えた。

その考えの基に建造されたのがこの呂號型潛水艦である。これは全長50mと小さく、乗員はわずか20人ほどしかいない。その分、この艦は建造期間が短く、大量生産向きである。見た目は水中航行に適した流線型となっており、水中速力は15ノットほどが発揮可能である。他にも潛水艦の型は存在するが、基本的な船設計はこの呂號型を中心としており、見た目はあまり見分けが付かない。

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しかし、その能はまるで違う。

この呂號型は哨戒能力が特化しており、武裝は機銃のみ。船には艦首部と艦尾にソナーが一つずつあり、この他に船の外側に二つのソナーが著いている。このソナーは船からケーブルをばして使うもので最大7000mほど放すことが可能である。

日本海軍はこうした呂號型潛水艦と二式大艇といった航続距離の長い航空機を組み合わせて広大な太平洋の海に綿な哨戒線を敷いていた。

呂一〇は僚艦と共にオアフ島にいる米艦隊のきを探っている。

現在の地點はオアフ島から南西へ10マイルほど進んだ地點の海底にいる。

「……」

呂一〇の聴音室に一人のがいた。聴音兵も近くにいるが、彼には気づきもしない。

當然だ。彼はこの呂一〇の艦魂であるからだ。

は目を閉じ、ソナーが拾ってくる周りの音に集中している。

「!」

艦の左舷前方にスクリュー音を捉えた。

その瞬間、聴音兵も手を上げ艦長に音を拾ったことを伝える。

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「本艦左舷前方、複數のスクリュー音を探知!」

聴音兵が聞こえてきたスクリューの方向を報告する。

「艦數は分かるか?」

「いえ、そこまでは……。ただ相當數の艦がいるのだけは確認できます」

「今の段階で浮上は危険だな。ならば敵艦隊が通過後直ちに浮上し、司令部に打電。敵艦隊が出撃の兆候有と認むと報告しろ」

「了解」

その間にも米艦隊は不気味なスクリュー音を轟かせながら、呂一〇の右舷前方を通過していった。

呂一〇から急電をけ取り、連合艦隊司令部は直ちに各艦隊への出撃と哨戒の強化を命じた。

命令をけ、各基地の二式大艇や九七式大艇といった足の長い航空機が次々に発進し、來る米艦隊の発見に努めた。

さらに連合艦隊は、攻撃型潛水艦「伊號」二〇隻、偵察型潛水艦「呂號」三〇隻に出撃を命じた。

呂號は先ほど述べたとおりである。この伊號型潛水艦は呂號型潛水艦の船をもとに開発設計された小型の潛水艦である。

ゆえに基本的なスペックは呂號と変わらないが、大きく違うのは呂號の特徴である索敵能力をほぼなくし、代わりに魚雷を積んだことである。

魚雷発管を全部に二門積んでいる。後部にはソナーが積んでおり、敵艦の位置を把握できるようにはなっている。

こうした監視の目を四方に張り巡らせ、米艦隊発見の報を待った。

呂一〇からの報告をけ、3日ほど経った頃。

機長の佐藤実兵曹長いつものように哨戒任務に就いていた連合艦隊所屬第一航空哨戒隊の二式大艇に搭乗していた。

「間もなく変針點です」

縦員の辻隆信一等兵が報告をした。

「了解」

それだけ返して、監視を続ける。レーダーはあるのまだ、最新式のものは配備されておらず、あまり信用できるものではない。

監視をしながら周囲に目を向けると見渡す限りの青い海。もし戦爭がなければ、こんなきれいな海を思いっきり堪能したいものだと佐藤は思った。

彼は海から離れた農村の出で、海を見たいがために帝國海軍に隊した。そこで航空機の存在を知り、どうせなら海と空のどちらも堪能したいと志願したのである。

志願してみると皆似たような理由で志願してきていることに驚いた。現に今乗り込んでいる二式大艇の乗員のほとんどがそういった理由で來ている。

懐かしい記憶を振り返っていると視界にふと気になるものが飛び込んできた。

「あれは?」

雙眼鏡を用いてよく見てみるとそれは海面にいくつもの白い線ができただ。

そのようなを起こすのは一つしかない。

「米艦隊だ!」

すぐに橫井晴彥通信士を呼び、電文を打たせる。

この時、手空き要員は必至に周囲を見渡した。艦隊がいるということは周囲に護衛の戦闘機がいてもおかしくはない。

二式大艇は時速四〇〇kmをこえる高速の飛行艇ではあるが、戦闘機と比べたら低速である。

故に一刻でも早い発見がまれた。

「電文、打ち終わりました!」

「よし、帰投する!」

橫井通信士の報告に間髪れずにんだ。

戦闘機は今のところいない。米艦隊はその偉容を見せつけるかのように航行し続けていた。

連合艦隊司令部に敵艦隊発見の報が二式大艇から飛び込んだ。

{敵艦隊発見。敵の方位 トラック諸島より北東一五〇海里 戦艦八 重巡六 軽巡一〇 駆逐艦四〇 空母は見ず 繰り返す……}

この発見電が來ると同時に古賀は麾下の連合艦隊に出撃を命じた。

こうして日米最初の艦隊決戦がトラック沖で幕を開けようとしていたのである。

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