の黒鉄》第7話 潛水艦の脅威

異変は唐突に起きた。

  米艦隊の右舷に位置していた駆逐艦シムスは何かが眼下を疾走していくのが見えた。

 「あ、あれは?」

  かなり速いスピードであり、一瞬何かが認識できなかった。そこでふとある一つの可能が頭をよぎる。

  速力はおよそ四〇ノット超える高速。

  そして水面下を通り抜けた

  ここは敵地。

  これらの報が結びつくまでに時間は掛からなかった。

 「魚雷だ!」

  そう言って大急ぎで周囲の艦に念話で伝える。この時、シムスの乗組員も気づき、無線を通じて他艦に警告を送っていた。

 「本艦、直下を魚雷が通過! 真っ直ぐ艦隊中央付近に向かって四〇ノットを超える高速で進んでいます! 各艦注意されたし!」

  この連絡をけ取った艦隊中央に位置していた米戦艦群は直ちに面舵を切って、魚雷に対する艦の相対面積を極力小さくしようとする。

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  しかし、戦艦というのは舵を切ってから回頭するまでにかなりの時間を要する。

  その間にもぐんぐんと魚雷はその土手っ腹を食い破るべく突き進んでいく。

 「お願い、間に合って!」

  ペンシルバニアは半狂に陥りながら、そうんだ。

  距離としては後、100mもない。

  そして

「魚雷2、本艦左舷通過!」

 「魚雷2、本艦右舷通過!」

  すんでの所で舵がきいてギリギリわしたのだ。

 「他艦も回避に功した模様!」

  見張り員からも報告がり全艦回避に功したとの報告がり、ひとまず安堵する。

  線上にいた後方の艦は全艦とも退避が終了しており、戦艦部隊が回避に功した時點で全艦の安全が確保された。

 「良かった~」

  気の抜けた聲を出すペンシルバニアはヘタリと甲板に座り込んだ。

  気付けば、シャツが汗でぐっしょりと濡れている。相當な張だったのであろう。

 (本當に戦爭をしているんだ……)

  覚悟はしていたものの戦爭が本當の殺し合いと事を再認識させられた瞬間であった。ただ、本の艦隊決戦はこんなものでは済まないであろう。出る被害のことを考えると改めてぞっとする。

 (こんな狂気の場に耐えられるだろうか……)

  駆逐艦部隊が敵潛水艦を探し回るのを見つめながら考えた。しかし、その答えは嫌なばかりであった。

  そんなことを考えると目の前に瞬間移してきたアリゾナが現れた。

 「姉貴、大丈夫か!」

  安全とは分かっているものの心配して様子を見に來てくれたらしい。

 「ええ。大丈夫よ」

 「そうか。良かった」

  そう言って安堵した表を浮かべる。

  敵地だと言うことで警戒はかなりしていたのだが、高速で航行していたために潛水艦を探知することができなかったのだ。

  しかし、敵地で速力を落とすのはかなり危険な行為だ。何せトラックから200マイルもない。トラックには撃機が多數配備されているとの報がっている。これでは航空機の程範囲にっているのだ。そのような狀況で速力を落とすのはじ手である。

  それゆえ、速力を落とすわけにはいかなかったのだ。

 「長はどうなさるのかしらね?」

  艦橋を見つめながらペンシルバニアは呟いた。

  この時、米太平洋艦隊司令部はペンシルバニアに將旗を掲げていた。

 「長、ここは慎重に進撃すべきです!」

  力強く言い放つのは參謀長のチェスター・ニミッツだ。

  彼は若い頃、海軍大學で「潛水艦の攻撃と防衛作戦」という講義を行っており、昔から潛水艦に対する警鐘を鳴らし続けていた人だ。

 「航空機により撃沈される可能は低いですが、潛水艦による攻撃は撃沈される可能があります。これでは日本海軍と戦う前に戦力を損失する恐れがあり、決して軽視してはなりません!」

 「いえ、ここは速力を落とさずに一刻も早く敵艦隊と戦すべきです」

  そういうのは航空參謀のマーク・ミッチャーだ。

  彼は基地航空隊の指揮などを歴任し、航空機のスペシャリストだ。基地航空隊の指揮を執っているときに撃機の可能に気付き、米海軍では珍しい航空兵裝主義である。

 「ここで速力を落としては敵の航空機の良いカモになります。確かに航空機による戦艦の撃沈の可能は低いかもしれませんが、被害は與えられます。もし撃指揮所に命中すれば、それだけで砲戦能力が大分削られます。航空隊を軽視してはなりません」

  彼は警告を行うが、他に賛同するものはない。米海軍においては航空機はかなり軽視される傾向にある。それゆえ、賛同者はなかったのだ。

 「ふ~む。確かに航空參謀の意見は分かる。しかし、被害をけるだけならば連れて帰れば良いが、撃沈されては元も子もない。ここはやはり潛水艦への対策を優先すべきだと思うのだが反対はあるか?」

  米太平洋艦隊司令長のハズバンド・キンメルが幕僚に尋ねる。

  誰からも反対はない。

 「よし。ならば駆逐戦隊に伝えよ。対潛警戒を厳となし、艦隊速力を一〇ノットまで落とすとな」

  こうして賽は投げられた。米艦隊に訪れるのは、天國か地獄か。そのことは誰も分からない。

  この米艦隊のきを捉えていたものがいた。それは上空にいたまだ配備されたばかりの二式大艇である。

 {敵艦隊視認 トラック諸島より北東一〇〇海里 編変わらず 速力一〇ノットまで落とし航行中 繰り返す……}

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