の黒鉄》第8話 アリゾナの嫉妬

真っ青な海が広がる南洋。その海に何條もの白い線が描かれている。それを描くのは大量の人間の魂を依代に勝利を作り出す軍艦達。

そのうちの數隻は忙しそうに前方を駆け回り、時折周囲から真っ白な水柱を立たせている。日本海軍の潛水艦に対する雷攻撃を行っているのだ。

「姉貴、潛水艦ないな」

ぽつりと呟くのはアリゾナだ。敵は今回の戦いに負ければ、後はない。にもかかわらず、敵は全力を出そうとしていないのだ。

先ほどから駆逐艦が周囲を駆け回り、敵潛水艦を発見しているが敵から攻撃することはなく。すぐに逃げるだけであった。故にこちらの被害がない反面、敵にも被害を出せていなかった。

「そうね。もしかしたら、日本海軍は艦隊の溫存を図っているのかもしれないわ」

「ふ~ん。でも、トラックを取られたら、敵はやばいんじゃないのか?」

「そんなことはないよ」

突如二人の後ろから聲がした。

後ろを振り返ると、そこには米海軍の制服をきちっと著こなした金髪のしいが立っていた。

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「メリーランドじゃねえか! 何で人の船に乗り込んできてんだよ! 誰も許可してねえぞ!」

そう言ってアリゾナは彼に食ってかかった。

こそがビッグセブンといわれた40cm砲搭載艦の一隻。米太平洋艦隊の持つ最強の戦力のの一隻メリーランドであった。

「君の許可なんか誰も求めていない」

そう言ってメリーランドはアリゾナを鼻であしらう。

「ここは姉貴の艦だ!」

「ならば、ペンシルバニア、乗艦許可願います」

そう言って敬禮を行う。

「乗艦を許可します」

ペンシルバニアも敬禮を返す。本來、艦魂同士ではこのようなことは必要ないのではあるが、アリゾナのからかいも含めてわざと行ったのだ。

「姉貴~、なんで許可すんだよ!」

抗議の聲を上げるアリゾナをペンシルバニアは優しく諭す。

「今は作戦中よ。私は艦隊旗艦なの。だから何かあったりしたら皆、私に報告に來るわけ。だから仕方が無いのよ」

「でも~」

食い下がるアリゾナにしびれを切らしたペンシルバニアの口調が一気にキツくなった。

「いい加減にしなさい! 普段から仲良くしろとは言わないけれども作戦途中なんだから我慢しなさい! あなた、それでも誇りある合衆國海軍の戦艦なの? 戦艦なら戦艦らしく嫌いな艦魂もれなさい!」

その怒鳴り聲にみ上がったアリゾナは恨めしそうにメリーランドを睨みながらも小さく返事をした。

そしてすぐに艦上から姿を消した。恐らく自分の艦にでも戻ったのであろう。

「ごめんなさいね」

ペンシルバニアがメリーランドに謝る。

「いや、気にしてないさ」

がここまでメリーランドを恨むのには理由がある、と言ってもしょうも無い理由なのであるが、彼は一般的に16インチ砲搭載艦とは仲が悪い。彼は14インチ砲搭載艦である。生まれた頃は合衆國最強の戦艦と謳われた彼であったが、その名を奪ったのが16インチ砲搭載艦であった。しかも誕生するなり、軍條約の影響で世界に7隻しかいない戦艦となり、その名はさらに有名となった。

それゆえ、彼は16インチ搭載艦が妬ましいのだ。

「いずれ彼も気付くだろう。彼には彼なりの良さがある。それは私たちにはできないことだ。それ気づければ彼も反省するだろう」

そう言ってメリーランドは微笑んだ。

「ところでメリーランド、ご用は?」

「そうだ。実は日本軍の無線通信が活発化しているのを先ほど防諜班が捉えた」

そういった瞬間、一気にペンシルバニアの表が険しくなった。

「日本軍の攻撃が來るわね」

「ああ。警戒を強めておいた方が良い」

「分かった。報告ありがとう。全艦には私から連絡を送るわ」

「了解」

そう言って、メリーランドは消えた。

「いよいよね……」

ぽつりとペンシルバニアは呟いた。

この頃、日本海軍のトラック諸島においては航空基地から攻撃隊が暖機運転を行っていた。

攻撃を行うのは、護衛の零戦50機に守られた陸軍の九七式重30機である。

トラックを取られては、今後の日本の戦略に支障を來すとのことで急遽陸軍の重の出撃が決まった。

「今回は初の艦隊への撃任務である!」

飛行隊長の米永友鶴中佐訓辭を述べる。

「かなり危険な任務であり困難であることは重々承知である。しかし、これは我が帝國にとって重要な作戦である。各全力を出し、任務を全うすることを願う。以上解散!」

「「「おう!」」」

そう言うやいなや陸軍の航空兵は一斉に機へと走り出し、搭乗していった。

「チョーク外せ!」

そして一番機の準備が整い、順に離陸を始める。

こうして日本陸軍の航空機と米海軍の初の戦闘が始まろうとしていた。

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