「レーダーに反応あり！　敵味方不明で方角はトラック諸島方面から向かってきています！　機數、およそ70ほど！」

突如、アリゾナのレーダーに反応があった。

目の前に広がる電子的な表示から數値を呼んでいくアイオワは念話で姉のペンシルバニアにも報を送る。

これはもちろんレーダー員が気付いており、太平洋艦隊司令部もその報告をけていた。

「すぐに対空戦闘の準備をさせるべきです！」

ミッチャー航空參謀がすぐに意見を申する。

米軍は既に日本の航空隊が持つ撃機は陸軍の持つ重しか存在しないことを摑んでいる。日本海軍において航空機に求められ能力は偵察と防空、弾著観測だ。そのために艦船攻撃用の航空機は存在しない。

よって今向かってきているのが攻撃隊だと考えると陸軍の撃機以外は考えられないのだ。

陸軍の撃機による艦船攻撃はほとんど當たらないとは言われてはいる。そもそも陸上用の撃機は艦艇のように広大な地點のき回る一點を狙うのではなく、かない要塞のような目標や周囲にばらまきその発力を持って破壊するなど本來撃向きではない。しかし、特に今は対潛攻撃のために艦隊速力を著しく落としており、敵の撃の命中率は高くなる。

しかも陸軍の撃機が搭載している弾とあらば、八〇〇キロ弾であろう。これは命中すれば戦艦でも大きな被害が出る可能がある。

そのようなリスクの回避のためにもミッチャーは、対空戦闘に移るべきだと進言した。

「しかし、対潛攻撃はいかにする？」

司令長のキンメルは問いかけた。

「潛水艦からの攻撃は高速で急回頭をする艦には命中しづらいはずです。これならば潛水案に狙われる確率は一段と低くなります」

「る程。參謀長どう思うかね？」

「はい。全くの同意見です。今回は敵の航空機に集中させた方が良いでしょう。低速でき回る艦に弾が命中する確率と高速でき回る艦に魚雷が命中する確率で考えると前者の方が可能は高いですし、當たり所が悪ければ魚雷と同じくらいの被害が出ます。今回は航空參謀の意見に従うべきです」

「他の者でこの意見に反対する者はいるか？」

參謀長から目を移し幕僚全を見渡すが特に反対する者はいない。

「よし。各艦に伝えよ。艦隊速力二〇ノットまで上げ、形陣を組め。対空戦闘用意！」

米艦隊はついに日本陸軍撃隊との対決の姿勢を見せたのだ。

攻撃隊を率いていた米永はレーダー畫面を見ながら米艦隊の陣形が変化して言っていることに気付いた。

「おお、奴さんはこちらと決闘をしたいようだ。形陣を組んで來とる」

米永の乗る機は九七式重をし改造したもので九七式重撃機二型丙と言うのが正式名稱だ。

九七式重撃機二型丙のスペック

航続距離　四〇〇〇㎞

最高速度　五〇〇㎞/h

乗員　七名

これがスペックであり、參考までに九七式重のスペックも挙げておく。

九七式重撃機のスペック

航続距離　三七〇〇㎞

最高速度　四七八㎞/h

弾搭載量　一〇〇〇㎏

乗員　七名

これらの違いは弾を搭載できない代わりにレーダーを搭載し、航続距離や最大速力を速くしたことであろう。またこれ以外にも若干、九七式重の方が二型丙よりも防弾能が高いなど細か差はあるものの他の能はあまり変わらない。

二型丙に搭載されたレーダーは、日本とイギリスの共同開発したタキ一號レーダーである。

これは探知距離が八〇kmとかなり優秀なもので安定した能を発揮する。

量産は既に開始されており、既に各戦線には配備がほとんど済んでいる狀態であった。

さて本題からずれたが艦隊のきを確認した米永はすぐに考え始める。

実は海軍の方でもこの時、ある作戦を準備中でそれの協力のためにも陸軍攻撃隊は出撃していた。

「各機に伝えよ。本隊の目標は……！　繰り返す目標は……！」

この指示を聞いた各攻撃隊は攻撃を行うべく一斉に散開を始めた。

ついに米艦隊が視界に陸軍撃隊を捉えた。

「ふん！　艦隊には指一本れさせないわ！」

アリゾナは撃機を睨みながら、ゆっくりと自分のホルスターに収められた拳銃を構える。

「敵編隊、散開します！」

その瞬間、各艦の艦長と艦魂は同時にんだ。

「撃ち方始め！」

「ファイヤー！」

各艦の主砲が一斉に火を噴く。當たることはないが威嚇程度にはなる。真っ青な南海の空にいくつもの弾幕の黒煙が朦々と立ち上がる。

しかし、これに當たる機はいない。

撃隊は隊列を保ったまま、どんどん近づいてくる。

「対空戦闘用意！」

この合図と共に各員が持ち場へと著く。そして高角砲や機銃といった対空火が次々と空へ睨みをきかした。

「喰らいなさい！」

アリゾナが軽く手を振ると、対空砲火が一気に火を吹き始めた。

ドンッ！　ドンッ！　ドンッ！

甲板の上が硝煙の臭いと煙で一杯になる。それでも攻撃の手を緩めずに打ち続ける。空には対空機銃の砲煙の花が咲くがまるで當たらない。

そんな米軍をあざ笑うかのように日本陸軍の撃機はとうとう撃圏に到達。その弾倉から八〇〇キロ弾を次から次へと投下し、艦隊の上空を通過していく。

「くっ！　わしなさい！」

アリゾナがそうんだ。

「取り舵一杯！」

艦長が同時にび、舵長がすぐに舵を一杯に切る。しかし、大型艦というのは舵を切ってから効くまでに數十秒から一分ほどのタイムラグがある。

そのために舵はなかなか効かない。

「急いで！」

さすがのアリゾナにも焦燥のが見え始める。

この瞬間にも一刻また一刻と弾は近づき、不気味な音と共に急激にその距離をめてくる。

「わせ～！」

艦長がんだ。もう距離はない。舵は効き始めたがまだ回避には至らない。

いかん！　當たる！

誰もがそう思った次の瞬間、舵が一気に効き始め艦が左へと曲がっていく。

弾はその直後、艦の右舷ギリギリをかすめるようにして海面に到達。

一拍の後、膨大な水を噴き上げて発した。

「わした……」

しばし、アリゾナが呆然としていると突然後方から発音が聞こえてきた。

「メリーランド、右舷に被弾！」

彼の憎しみの相手であるメリーランドが被弾したのだ。