の黒鉄》第10話 メリーランド、被弾

この時、メリーランドは他艦と同じように対空火を打っていた。

「艦隊に航空機を近づけるな!」

激しく打ち上げる対空砲火をものともせず、敵の撃機は真っ直ぐこちらに向かってくる。

「落ちろ!」

念じるも敵は一向に落ちる気配はない。

このままでは敵に撃される。

そんな恐怖心にとらわれそうになったとき、不意に撃機が編隊を分け、別の方向に向かい始める。そのきについ、目をとられてしまい一瞬の隙ができる。

その瞬間を狙ってか、はたまたは偶然か。

敵機は弾を投下した。その高度およそ二〇〇〇。

落下まで回避するには可能な高度ではあるが、メリーランドは気をとられており、その存在に気付くまで時間が掛かる。

「姉様! 上!」

突然、念話がる。それは同じ戦隊に所屬する妹のウェストバージニアからのものであった。

「くっ! 面舵一杯!」

とっさに指示を出すも舵はそう簡単には効かない上、船の面積も大きいためにわせないことは明白であった。

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(だめだ、當たる!)

そう直して、ぎゅっと目をつぶった。

次の瞬間、右脇腹に激しい痛みが走る。

「ぐぅっ!」

思わず脇腹を押さえて倒れ込んだ。同時に大きな発音が聞こえ、激しい火炎が艦上を踴る。

命中箇所は艦中部の煙突脇にある12,7cm副砲がある地點で弾は副砲の防楯を貫通。本來であれば、敵に向けられるべき弾薬に引火し、発を起こしたのだ。

戦艦は分厚い裝甲で船が守られており、そう簡単に多の命中弾が出ても沈むことはない。

故に、副砲の砲弾がした程度で船に與える影響はないが、艦魂に伝わる痛みはかなりのものだ。

メリーランドが手を放してみると、しの出では済んでいる。

をするほどでもないなと思い、先ほどの撃隊の行く先を確認しようとするとアリゾナが突如現れた。

手には包帯やガーゼなどの応急手當用の道を大量に抱え、あたふたとメリーランドのことを探す。

そしてメリーランドを見つけると一目散に駆け寄ってきた。

「おい! 大丈夫なのか! 怪我はないか? どこか痛い場所は?」

アリゾナが機関銃のように矢継ぎ早に質問をしてくる。相當焦っているのか包帯が甲板を転がっていくのにも気を止めない。

「ええ。大丈夫です。しは痛みますが、それほどたいした傷ではありません」

メリーランドはアリゾナの普段からは考えられない慌てっぷりに若干びっくりしながらも、答えた。

「そうか。良かっ……、いや、心配なんかしていないぞ! その……ただ、私はお前に何かあると合衆國海軍にとって多大な犠牲が……」

アリゾナは安堵したような顔を浮かべたが、すぐにメリーランドを睨み付けながら説得力の無い言い訳を言い続けた。

大急ぎで持ってきた応急手當用の道を隠すのも忘れない。

その様子に思わず、アリゾナは吹き出す。

「ぷ、くっくっく!」

「何がおかしい!」

「いえ。別に何でもありません」

そう言っていると今度は別の艦魂が転移してきた。

手には先ほどのアリゾナと同じく、大量の包帯を持ち、制服ではなく黒のメイド服のようなものをまとったメリーランドそっくりのであった。服裝以外の違いは目のでメリーランドは海のような濃い青に対して、そのは炎のような赤である。

「姉様、大丈夫ですの!」

そのはすっ飛んできて、メリーランドをなで回し始める。

「姉様のに何かあっては一大事ですわ! ここはやはり全てをがして……」

そう言うなり、服をがそうとし始める。

「何をやっているんだ!」

アリゾナがすぐに止めにるとそのはアリゾナを睨み付けた。

「あ、そこにいたのですか。あまりの雰囲気の薄さに気付きませんでいたわ」

いきなりけんか腰にアリゾナにぴしゃりと言い放つ。

「何だと! てめ~!」

つかみかかろうとするアリゾナをメリーランドが制した。

「申し訳ありません、私の妹が。これでも優しい子なんです。後でキツく言っときますので、どうかお許しください!」

そうこのがメリーランドの妹のコロラド級戦艦、四番艦のウェストバージニアだ。

「ふん、別にこの娘の言うことなど気にしていない!」

「ほ~う、良くそんなことが言えますね。あなた、先ほどは事実を言われただけで毆り掛かろうとしたくせに」

「止めないか、ウェストバージニア!」

見るに見かねて、メリーランドが厳しい聲でウェストバージニアをしかりつける。

その瞬間、ウェストバージニアはみ上がって泣きそうな表をし始める。

その様子に怒る気を削がれたアリゾナはふんっ、と言って帰って行った。

ウェストバージニアはしょんぼりとしたまま下を向いている。先ほどのようにメリーランドが叱るのは滅多にない。それ故、彼にとってかなりショックなことであった。

「ウェストバージニア、來てくれてありがとう」

そう言って、抱きしめながら頭をでてやると気持ちよさそうに顔をらかい笑みを浮かべた。

「ウェストバージニア、あなたも戻りなさい。私は大丈夫。特に大きな怪我はないわ。今は戦闘中だから戻って警戒を続けなさい」

ウェストバージニアから離れ、優しく言った。

「分かりましたわ、お姉様!」

ウェストバージニアは元気に言って、その場から瞬間移した。

「さて、旗艦に連絡をしないと……」

先ほどの撃隊の妙なきを報告しようと念話を繋げると回線がやたらと混み合っていた。所々、怒鳴り聲や悲鳴、そして発音が聞こえてくる。

何か異常事態が起こっている。

そう確信したメリーランドはとっさにレーダー畫面を見つめた。

そこには駆逐艦に群がる撃機と戦闘機の群れが映し出されていた。

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