《の黒鉄》第15話 日米戦艦の初の砲撃戦
「撃て!」
長門が鋭い聲を放つと前部と後部に背負い式に配置された四十五口徑四十一センチ主砲が一門ずつ計四発の砲弾を音速の二倍ほどの初速でたたき出す。
後方に続く陸奧も同じように互撃ち方で砲撃を行っている。
「弾著、今!」
計測員の言葉と同時に巨大な水柱を敵艦の後方に跳ね上げる。その水柱は炎を表すかのように真っ赤に染まっている。これは砲弾の風帽に染料が仕込んであり、どの艦の弾著なのかを分かりやすくしているのだ。陸奧は突き抜ける青空を示すような青の染料を仕込んである。
この戦闘で用いているのは対艦用の九一式徹甲弾だ。これは従來の徹甲弾より水中弾発生率を高くした砲弾である。
「観測機より電。『第一の散布界、概ね4』!」
「第一、遠4!」
相次ぐ報告を頭にれ。揺手、旋回手、手が一となって長門の主砲をかしていく。
「撃準備よし!」
ブーーー!
主砲発の警告音が艦に響き、砲口に巨大な火炎が踴る。それはまるで地獄の釜が砲口に現化しているような景だ。
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その直後、敵艦からの砲弾が落下。周囲に巨大な水柱を上げた。それらは艦の前方にまとまって著弾した。
「まだまだだな、米軍!」
長門は敵艦に向け嘲笑を浴びせるように怒鳴る。
「弾著、今!」
敵に砲弾が到達。敵艦の周囲に水柱を上げ、その姿を隠す。
しかし、有効弾も挾叉弾も一発もない。またも空振りに終わる。
「今度こそ!」
そう言って長門は手元の拳銃に新たに弾を裝填し、撃鉄を上げる。それと同時に砲に砲弾と裝薬が裝填され、尾栓が閉じられる。
靜かに長門は敵艦に狙いを定め、そのきを追う。また砲も靜かに上がり始め、敵艦を捉えたのかぴたりと止まった。
「撃て!」
そのび聲と合わせて長門が拳銃の撃鉄を下ろすと主砲が火を噴いた。
互撃ち方を始めて既に五回空振りをしている。敵艦の砲撃度も徐々に上がってきており、そろそろ當てたい頃であった。
その焦りを嘲笑するかのように、敵艦の主砲が火を噴いた。
弾著はこちらの方が若干早い。その時をじっくりと待つ。
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「弾著、今!」
その瞬間、長門は目を見張った。
敵艦を包むように水柱が上がると同時に敵艦に火柱が上がったのが見えたのだ。それは明らかに発砲炎とは違う炎であった。
「やった!」
長門の艦は一時騒然となる。
しかし、艦長の矢野英雄大佐と第一戦隊指揮の清水將だけは渋面を作っていた。既に互撃ちを始めてから通算六回。普段の訓練であれば、三回目ほどで命中させられるにも関わらず、その命中率の低さに素直に喜べなかったのだ。ましてや長門に乗り込む彼らは大和までとは言わずとも帝國海軍の中でも鋭中の鋭ばかりだ。そのような者達がこれほど命中までに時間が掛かることに対する危機をじられずにはいなかった。
「砲より艦長。これより斉に移ります」
砲長の聲もどことなく固かった。彼は諸に訓練と実戦の違いをじている人間だ。彼も艦長達と同じ考えなのだろう。
斉のためにしばし主砲が沈黙する。その時、敵艦の砲弾が禍々しい飛翔音と共に長門に襲いかかる。
その瞬間、長門は背に何かが這いずり回るような嫌な悪寒をじた。直後、艦の両舷に巨大な水柱が上がった。
長門が命中弾を得ると同時に敵艦は挾叉弾を得たのだ。
「くっ、挾叉されたか!」
苦悶の表を浮かべ、矢野艦長がいた。
次の砲撃では確実に直撃弾が來る。敵は長門より以前に作られた舊式艦だ。そのような艦に直撃弾を得るのに手間取り、あまつさえ挾叉をされることに嘆かざるを得なかった。
陸奧の砲撃は未だ空振りを続けており、おそらくは艦長が砲長を叱咤している頃合いであろうと清水は考える。彼は矢野と違い、それほど挾叉にじてはいなかった。もちろん直撃に手間取ったのはかなりの痛手であると考えている。しかし、彼が挾叉ごときに表を変えていては部下を安心させられんと平靜を保とうとしていた。
「何、敵もいずれは挾叉弾を出す。それが早いか遅いかの違いだよ」
清水は矢野に軽く言った。
「弾著、今!」
その聲に矢野達は敵艦に雙眼鏡を向ける。
一瞬敵艦が水柱の影に隠れて見えなくなる。しかし、その中で命中らしき火柱がいくつか確認できる。
「観測機より電! ただいまの砲撃の命中弾3!」
その報告に艦橋は一気に盛り上がる。相手は舊式の戦艦。その戦艦に四十一センチ砲弾が三発も命中したのだ。的にも大きな被害を與えたのに違いない。そう誰もが考えていた。
直後、敵艦の砲弾が長門に落下。艦橋に直撃弾の炸裂音と衝撃が響き渡る。
「どこをやられた!」
矢野はぶ。
このようなときのために副長が後部艦橋に詰め、そこでダメージコントロールの指揮を執ることになっている。
「副長より艦長。ただいまの被害。クレーンに命中。観測機の離発著艦は困難です」
「了解」
副長からの報告を聞き、矢野は一安心した。現在、観測機を上げてはいるがその収容は味方の基地であるトラックとは目と鼻の先にあるため、収容は出來るためそれほど心配することはない。何よりも安心したのは戦闘航行に必要な缶室や機械室、主砲などといったものに被害が出なかったことだ。
「してこちらの砲撃はどうだ?」
先ほどの被弾で確認できなかった砲撃の果を目にとめておきたかった。矢野は雙眼鏡で敵を見ると敵は艦上から火を噴いており、艦首付近に著弾したことが見て取れた。艦首は主砲などがある場所で運が良ければ、主砲を一基ほど奪っているかもしれない。
そんな期待をにしながら、敵艦を見た矢野は思わずあっとびそうになった。
敵艦が砲撃したのだ。しかも、前部と後部で。
つまり敵艦に被害は全く與えていなかったと言うことになる。普通であれば、あれだけの砲弾を一度に喰らえば、多なりとも被害は出ていてもおかしくない。それを全くじさせないほど力強い砲撃だった。
しかし、長門も負けじと打ち返す。
戦場に互いの巨大な砲弾が飛翔する音が木霊する。
先に敵艦の砲弾が著弾する。
周囲に水柱を吹き上げ、艦橋に至近弾と直撃弾の衝撃が走る。しかし、その衝撃の中に何となく矢野は嫌なものをじた。
「副長、被害は?」
思わず、伝聲管で副長の報告を待たずに聞く。
しかし、返答がない。
「見張りより艦長! ただいまの被害、後部艦橋に被弾!」
その瞬間、矢野は凍り付いた。ダメージコントロールを擔當する副長が死んだのだ。これによる被害の回復への効率低下は免れない。
敵艦は、全く戦力を低下させることがなく、著々とこちらの戦力を削っていく。
「電探あり! 反応極めて大! 新たな敵戦艦と思われます!」
矢野は思わず舌打ちをした。
人類最後の発明品は超知能AGIでした
「世界最初の超知能マシンが、人類最後の発明品になるだろう。ただしそのマシンは従順で、自らの制御方法を我々に教えてくれるものでなければならない」アーヴィング・J・グッド(1965年) 日本有數のとある大企業に、人工知能(AI)システムを開発する研究所があった。 ここの研究員たちには、ある重要な任務が課せられていた。 それは「人類を凌駕する汎用人工知能(AGI)を作る」こと。 進化したAIは人類にとって救世主となるのか、破壊神となるのか。 その答えは、まだ誰にもわからない。 ※本作品はアイザック・アシモフによる「ロボット工學ハンドブック」第56版『われはロボット(I, Robot )』內の、「人間への安全性、命令への服従、自己防衛」を目的とする3つの原則「ロボット工學三原則」を引用しています。 ※『暗殺一家のギフテッド』スピンオフ作品です。単體でも読めますが、ラストが物足りないと感じる方もいらっしゃるかもしれません。 本作品のあとの世界を描いたものが本編です。ローファンタジージャンルで、SFに加え、魔法世界が出てきます。 ※この作品は、ノベプラにもほとんど同じ內容で投稿しています。
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