《の黒鉄》第17話 日米戦艦の激戦②
「間に合わなかったか……」
メリーランドは思わずいた。
彼の眼前には一隻の戦艦があった。とは言っても、その戦艦は度重なる41センチ砲弾を浴びた影響でマストは完全に崩れ落ち、甲板上も朦々と上がる煙で見ることは出來ない。辛うじて見えるのは、かつてその艦上で大きな存在を示していた主砲だが、今やつぶれた箱の形をしており、見る影もない。
艦上のあちこちから煙が上がり、気息奄々の狀態だ。この戦艦に戦闘力が無いことは誰の目にも明らかであった。
かつてアリゾナと名を冠した戦艦の面影はうかがい知ることは出來ない。
本來であれば、自分たちはそのアリゾナを救うべく、この場にいるのだが、如何せん到著が遅すぎた。
「よくも……」
そう言って睨み付けたのは、こちらと反航戦を行おうと左舷を曬している二隻の戦艦だ。日本海軍の41センチ砲搭載艦の長門と陸奧である。
自分たちが生まれた時代、世界に七隻しかいないといわれた41センチ砲搭載艦の二隻だ。
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彼たちの正真正銘のライバルがこの二隻である。
「撃て!」
彼はその怒りを砲弾に乗せ、砲撃を行った。砲撃の瞬間、艦がぐっと右に傾く。
発された八発の砲弾は敵艦目掛けて、飛翔していく。距離はおよそ一萬五千メートルほど。命中してもおかしく距離ではある。
その著弾を待っていると今度は敵の砲弾が落下する。
「くっ!」
後方で轟音が聞こえる。それと同時に足に激しい痛みが襲った。
だが、メリーランドは膝を地面には付けたりなどせず、仁王立ちでその痛みに耐えた。
「この程度に被害で、我が艦にダメージを與えたと思ったら大間違いね!」
遠方にいる二隻の敵戦艦に向かって嘲笑を放つ。
しかし、その態度とは裏腹に心の中では激しい揺が起きていた。
(初段命中とはどういうこと! 敵艦はこちらを狙って一発目で當ててくるとは信じられない!)
通常、戦艦同時の砲戦は遠距離から行われるためにそうそう命中段が出ることはない。それ故、互撃ち方で徐々に的を絞っていき、ある程度のところまでいってから斉で敵艦を仕留めに行くのだ。
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しかし、今回の長門の砲撃は違う。
いきなり初弾から當てられるというのは砲科の人間の腕と運がよほど良くは無い限り出來ない。
それを長門はやって見せたのだ。
こちらの砲撃は、と固唾を呑んで見守るメリーランドであったが、水柱が崩れると表が曇る。
殘念ながら、敵一番艦には命中弾による火災が認められない。おそらくは敵艦の手前に著弾したのだろう。
「今度こそ!」
そう願いを込めた斉を放つ。
弾著位置は著実に敵一番艦に近づいており、直撃弾か挾叉弾が出るのも近いと考えている。
しかし、それも時間との闘いだ。敵一番艦の前部と後部が一瞬るのが見えた。敵は斉でこちらを仕留めに掛かってきている。
しかも、メリーランドを含めたコロラド級の裝甲は、35,6センチ砲弾に対応した裝甲しか裝備していないために不安は大きい。
「どうだ!」
敵一番艦の周囲に水柱が吹き上がった。
その瞬間、メリーランドは歓聲を上げそうになる。その水柱の隙間から確かに主砲発時とは違うのが見えたのだ。
ついにメリーランドは直撃弾を得た。
しかし、迂闊に喜んではいられない。周囲には敵艦の発した41センチ砲弾の禍々しい飛翔音が聞こえていた。
「ぎゃぁぁぁ!!!」
メリーランドは今度の衝撃には耐えきれず甲板の上でのたうち回る。
二度目の直撃弾は合計二発を數えた。一発は艦首に直撃し、錨鎖を食いちぎっただけに終わった。問題は二発目の方であった。
こちらは艦の中央に命中。バイタルパートを貫通し、煙路を砕。煙と衝撃を機関室に逆流させ、多くの機関科員を焼き殺したのだ。
この衝撃で、八つの機関室の半數の四つを破壊し、戦闘航行に大きなダメージを與えた。
「ぐっ! だが、あきらめはせん!」
大きな以外をけながらも、敵一番艦へ向け第一斉を放つ。
発の瞬間、に負荷が掛かりメリーランドはごぼっと大きなの塊を吐く。しかし、闘志だけは全く衰えていなかった。
「何としても……、奴だけは……、仕留める!」
敵一番艦が発砲するのが見えた。すぐ後に、その周囲が白い壁で覆われる。敵艦の周囲に先ほどの砲撃が著弾したのだ。
「どう……だ?」
メリーランドは期待しながら敵艦を見つめる。
水柱が崩れ落ちた後、敵艦の様子が確認できる。先ほどの砲撃で何発も命中しているせいか、艦上から幾つもの黒煙が立ち上っており、ちらほらと炎が見える。しかし、主立った艦上構造に目立った被害はない。
「だめ……か」
そう、うなだれた直後、敵艦の砲撃が著弾する。
あちらこちらから発音が響き、異常事態を示すサイレンが鳴り響く。
最早、メリーランドは悲鳴を上げることもできないほど限界に近づいていた。今まで、仁王立ちしていたメリーランドがついに、倒れ込みそうになるが近くの手すりにつかまり、どうにか持ちこたえる。
しかし、力は限界に近づいており、度重なる41センチ砲弾の命中は彼に著実にダメージを與えていた。
今度の砲撃での命中段は二発。一発は艦の後部に命中。兵員居住區を燃えかすの山に変えただけで済んだ。しかし、もう一発は第三砲塔の下部で炸裂。火薬庫にこそ起こさなかったものの主砲自に凄まじい振を與え、砲塔要員の多くを殺傷した。そして何よりも致命的なのが、主砲のバーベットを損傷させ、主砲自の旋回を不能とさせた。
「撃たなきゃ……」
メリーランドは敵艦の測距を開始するも、流れたが目にって測距が出來ない。
この時、艦で発生した火災による煙によって測距儀が使えない事態となっていたのだ。
艦で必死の消火活を行ってはいるが、いくら米軍の優秀なダメージコントロールでも限界が迫りつつあった。
その間に、敵一番艦(長門)が発砲。
メリーランドの耳に砲弾の飛翔音が聞こえ始めた。
「もう、終わりか……」
メリーランドは、その砲弾が自分の最後を迎えさせるものになるとほぼ直でそう思った。
「ウェストバージニアは大丈夫かしら……」
ふと妹のことが心配になったが、彼の目はその姿を捕らえることは出來ない。
「殘念だ……」
様々な無念さがこみ上げてくる。
任務が果たせなかったこと。ライバルを倒せなかったこと。合衆國に貢獻できなかったこと。
々な無念があるが、これで終わりだ。
「いざ、逝かん」
砲弾の飛翔音が耐えがたいほど大きくなり不意に消えた。
直後、今までに無いほど大きな衝撃がメリーランドを襲い、メリーランドの意識は永久の闇に包まれた。
第二砲塔の上部防楯を41センチ砲弾が貫通、その火薬庫をさせメリーランドを真っ二つに割った瞬間であった。
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