の黒鉄》第27話 トラック諸島沖海戦の反省會

トラック諸島の夜が明けた。

海上には沈んだり被害をけた艦から流れ出た重油が漂い、海面を虹にしている。艦上構造であったものの部品や甲板の木の破片などが辺り一面を漂っているのが確認できる。

そんな海面に疾走する艦艇が何隻か確認できる。

それは日本海軍所屬の駆逐艦や軽巡と言った小型艦艇だ。沈み掛けている船や沈んだ船の乗員の救助や火災の鎮火を行っているのだ。

昨夜行われた日米の大海戦において最終的に海上を制したのは日本海軍であった。

扶桑と伊勢が被雷した後、敵水雷戦隊は煙幕を展開。米戦艦はそれに紛れ戦闘海域から遁走した。

連合艦隊司令部は後を追うか考えたが、予想以上に被害が大きく、後を追うことを斷念。代わりに周辺海域に待機させていた潛水艦部隊に追撃を命じた。

元々索敵のために広く展開していた潛水艦の網に米艦隊は何度か掛かり、戦艦一隻を撃沈。重巡、軽巡各一隻を撃沈ないしは大破にすることに功する。

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この追撃戦により伊號型潛水艦を一隻撃沈されたものの十分な戦果とされた。

これら一連の戦闘による日本海軍の被害は戦艦大和、長門、扶桑、伊勢の四隻が中破。陸奧が小破と判定される被害をけた。この他に軽巡阿武隈と駆逐艦の五隻、伊號潛水艦一隻が沈沒。軽巡川、駆逐艦の雷、暁、響が大破。重巡の青葉、古鷹、軽巡の神通、駆逐艦の浦波、綾波が中破という被害をける。

これに対し、米軍は戦艦三、重巡二、軽巡二、駆逐艦八隻撃沈。戦艦五、重巡一、駆逐艦三が中破に値する被害は與えたと考えられている。

もちろんこれらに重複している戦果はあるとされるので、更なる報収集が必要だが、こちらは戦艦を一隻も沈められていないのに対し、米軍は三隻沈められた上、被害の出た數も米軍の方が多いことを考えれば、今回の戦闘は勝利と考えて良いだろう。

これら一連の戦闘は「トラック諸島沖海戦」と命名されることとなった。

戦場の事後処理が一通り終わり報を纏め終わった三日後。連合艦隊司令部では反省會が行われていた。

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「まず、今回の戦闘で出てきた問題點について議論をしていきたい」

宇垣參謀長が議題を挙げ、各閣僚に問題點はどこであったかと投げかけた。

「それは各艦の命中率にあると考えます」

そうズバッと草鹿龍之介が言った。

「本戦闘においてかなり優位であったにもかかわらずかなりの米戦艦を逃がすに到ったのは予想以上に砲撃や魚雷が當たらなかったことにあると私は考えます」

「確かに、それは間違いなく大きな要因に當たるでしょうな」

森下もその點は同意した。

草鹿は航空畑を歩んできているが故にあまり専門的な事は分からない。しかし、優れた観察眼を持っておりそれは問題點を把握する上で大きな役割を擔っていた。

それに対し、森下は砲の専門家であり生粋の鉄砲屋だ。彼は的な問題點を専門家から見た點で話す(無論、宇垣や古賀も生粋の鉄砲屋であり、彼らもある意味専門家ではあるのだが)。

「今回の戦闘では予想以上に夜間の弾著観測が難しかったと言うことが挙げられるでしょう。晝戦であば、水柱ので弾著の見極めが出來ていましたが夜戦においてでは判斷できません。敵艦から外れた場合、どれがどの艦の弾著なのか分からないというのが今回の砲戦でじました」

「それは各艦長からの報告でも來ている」

古賀がいくつかの小冊子を取り出し機の上に置いた。それらは戦艦の艦長から寄せられた戦闘詳報である。

「ここにも同様のことが記載されており、何かしらの工夫が必要だと書かれておった。それに関しては艦政本部の方とも話し合いながら決めていきたいと思う」

「問題は魚雷ですな」

そう言ったのは水雷參謀の岡田貞外茂佐だ。

「魚雷というのは薄をしないと當たらないことはご存知の通りでありますが、薄する距離が問題です。當然、これを抑えるために戦艦の周囲には重巡などの護衛艦や戦艦自の火が水雷戦隊を襲います。これらは撃たれ弱いですから點に付くまでが危険で、この點の見極めが極めて難しいのです」

「無論、その事は重々承知ではある」

古賀はそんなに熱心に語らんでも分かっているとでも言いたげに言う。

「やはりある程度、敵戦艦の防網を突破できるよう工夫をしなければ、水雷戦隊の活躍は期待できないでしょう」

岡田はそう言って締めくくる。

「なるほど。では他に問題點はあるか?」

宇垣が一通り意見を確認し、もう出ないことを確認して次の議案を考えさせる。

「敵駆逐艦への対応ですね」

航空參謀の源田実が発言する。

彼は海軍兵學校卒業後、海軍砲學校、海軍水雷學校と卒業した後、海上勤務をしてから航空畑にった人だ。そのため、駆逐艦のきに注目できるのは水雷學校の頃の記憶であるのかもしれない。

彼が連合艦隊幕僚として迎えられたのは駐英武として英國に滯在した経験があり、同盟國の英國との関係を考えると幕僚としていた方が良いと古賀が、海軍省の人事局に要請をしたのだ。

「扶桑、伊勢に大きな被害を出したのは敵戦艦ではなく、駆逐艦の魚雷でした。元々、魚雷はかなり危険であるという判斷は下しておりましたが、今回の戦闘で改めてその危険が確認されたと考えます」

「ふむ魚雷か。米軍の魚雷はいかなるものなのか?」

「こちらとは違い、二酸化炭素を排出し航行するもので三〇ノットほどで一萬メートルほどを走る能力があるとみられております」

「それほど能は高くは無いのだな」

古賀が呟く。

「ですがこれは我が方の戦艦二隻に被害を與えました。侮ることは危険です」

源田が警鐘を鳴らした。

「二酸化炭素が出ると言うことは航跡が白くなるのか? ならば何故戦艦の艦長はこれを早期発見、回避することができなかったのだ?」

古賀は素直な疑問を呈する。これは當然であろう。戦艦に乗っている乗員は誰もが海軍でも優秀な者ばかりであるし、夜間の見張り員は専用に育された特別な人員だ。とても見逃したとは思えない。

「報告によれば、周囲を駆逐艦の水柱などがあり把握が難しかったのと扶桑型戦艦と伊勢型戦艦は元々に難ありとの報告が挙ってきておりました。戦闘詳報を見ますに魚雷発見の報の後に舵を切るものの舵が思うように効かなかったとあります」

「ふむ、やはり扶桑型戦艦と伊勢型戦艦は近代海戦には適さないか」

古賀のつぶやきに皆が、黙った。

これから先、米軍は更に強力な戦艦數多く送り込んでくるだろう。そうなったとき扶桑型戦艦と伊勢型戦艦を使えないと言うことは貴重な戦艦の戦力が減ると言うことだ。

これは今回の海戦で分かった余りにも大きな問題であった。

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