の黒鉄》第40話 米英激突

大西洋上に浮かぶ島、アゾレス諸島。

ここはポルトガル領の島でイギリスの首都ロンドンとアメリカの首都ワシントンを直線で結んだ線分の中點から東南に進んだ位置にある。

アメリカにとってみれば、イギリスを追い詰める上での橋頭堡、そして東南アジアや中東などから來る油等のシーレーンを斷ち切る上で絶好の地點だ。

逆にイギリス側としてみればここを取れれば、アメリカからイギリス方面に攻撃しようと出てくるアメリカ艦隊を撃破するには絶好の基地となり得るのだ。つまり、イギリスにとっては重要な防衛拠點、アメリカにとってはイギリス侵攻への絶好の拠點となり得る島である。

雙方が狙おうとするのは當然と言えた。

アゾレス諸島はポルトガル領であるため、イギリス、アメリカ両政府はポルトガルに政治的圧力をかけ続け、ついにポルトガルはこの諸島の破棄を決意。住民を避難させ、當地を破棄したのだ。

これが起きたのが1943年1月20日。ちょうど日本軍がハワイを整備しているタイミングの出來事である。

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米英両軍はついにこの島の奪取のために蓄えていた大軍を始させたのだ。

まずいたのはアメリカ軍だ。

あらかじめ待機させておいた大西洋艦隊をアゾレス諸島沖に展開させるべく、上陸部隊に先行して出撃を命じた。

これに呼応するようにイギリス海軍も本國艦隊を派遣。ついにアゾレス諸島北東10海里付近で戦闘が起きた。

本國艦隊はネルソンを旗艦として戦艦八隻を保有する強力な艦隊である。

「ファイヤー!」

しい金髪を風におあられながら、イギリス戦艦を睨むはノースカロライナの艦魂だ。

が立つのは第二砲塔の上だ。

ノースカロライナが裝備する主砲は16インチ砲だ。速力は28ノットが出るアメリカ戦艦でも屈指の快速を誇る高速戦艦である。

は姉妹艦のワンシントンと共にその快速能を用いてイギリス戦艦四隻の頭を押さえつつ、砲撃を行っていた。

「距離はおよそ二萬メートル。仕留めるにはまだ時間がかかるかしら」

ノースカロライナは訓練を終えた間もない新鋭艦だ。いくら強力な兵裝を積んでいるからと言って、完全に使いこなせるわけではない。むしろ新鋭艦であるが故に命中弾を得るまでに時間がかかるのだ。

「まあ、仕方がないわね。とりあえず私は言われたことに専念しましょう」

そう言って命中弾を得ることに集中する。

が狙っているのはイギリス艦隊の先頭を走っている一番艦だ。彼の目にはその艦までの距離、速力、風速、溫度といった細かい諸元が示されそれらを頭の中で計算し、主砲が砲弾を撃ち出す最適な旋回角、仰角を割り出す。

それらに基づき、主砲が微妙にく。

「裝填が未だに思ったように進まない。やはり裝填時間はかなり掛かるな」

は新型の16インチ砲を採用しているのだが、その砲弾重量が嵩んだ影響で裝填時間がおそらくなる現象が起きていたのだ。

「むっ!」

遠方の一番艦が一瞬った。

命中弾にしては周囲に水柱が確認できない上、早すぎる。敵艦が主砲を放ったのだ。

その直後、ノースカロライナの砲撃が一番艦を襲う。

全弾が敵艦の手前に落ちる。

「まだまだだな」

そう言いながら再度弾著観測をして、微調整を行う。

その調整の最中、上空から木枯らしにも似た音が聞こえ始め、耐えがたいほど大きくなった瞬間、周囲にいくつもの水柱が生じた。

「ヒュ~、こいつはすごい砲撃だ」

水柱は一つあたりがとても太く直撃すればただでは済まないことがよく分かる。

おそらくは同じ16インチ砲搭載艦なのであろう。その水柱が収まると続いて別の艦の弾著が來る。

今度の弾著はノースカロライナを大きく飛び越えて左舷側に著水する。

「砲弾の數、発速度、艦影。これらから考えて敵はネルソン級だな」

本國からの連絡ではイギリスの15インチ砲搭載艦は主にH部隊と地中海艦隊に配屬されており、シ-レーンの防衛の任に就いていると聞く。

それに対し、アメリカ海軍が送り出した戦艦部隊は九隻であり、このうち四隻は16インチ砲搭載艦だ。

太平洋艦隊のウェストバージニアも配備をしたかったのだが、被害が缶室にまで及んでおり修理が長引いた上、修理後の試験航海で機関が不調であったために出撃を見送ることとなった。

なお、この戦艦はあくまでも先行してきている艦隊であり、太平洋艦隊配屬の14インチ砲搭載艦は後方で上陸部隊の護衛の任に就いている。

「だが、イギリス海軍はこちらの兵力が分かっているはず。にも関わらずこちらよりない兵力で出してきたとは解せぬな」

ノースカロライナは砲撃を続けながら考え込む。

イギリス海軍は戦艦を多數所有しており、たとえ、16インチ砲搭載艦がないにしても米海軍より寡兵の戦艦を送り込んでいたずらに戦力を消費するとは考えずらい。

何か裏があるのではないか。そうでなければこの戦艦の數のなさは納得がいかない。

考えられるのはこちらの意表を突いて後方の増援部隊を攻撃することであるが、これに関しては太平洋艦隊の戦艦群を護衛においてある上、まだ本國の近海を航行中である。

萬が一の場合は本國の航空部隊や軍艦などによる防衛制はしっかりとしている。故に、それほど心配することはないと考えていた。

「今は目の前の敵に集中すべきだ」

変なことは考えるのは終わりにしようと斷ち切るように主砲を発した。

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