の黒鉄》第42話 イギリス艦隊

「これで勝ったな」

イギリス海軍の旗艦であるネルソンは微笑みながら言った。彼は數発の命中弾はけているが、戦闘航行に支障が出るレベルではない。

アメリカ海軍の最新鋭の戦艦二隻を相手取りながらも終始、戦闘を有利に進め、ついに一隻をまもなく仕留め切れるところだ。

「これほどの艦隊を相手に最後まで粘ったのは評価してあげる、だからゆっくりと眠りなさい」

そう言ってとどめとなる最後の砲撃を開始した。

前部と後部に巨大な火柱が出現し、砲弾を音速の二倍以上の早さでたたき出す。

自艦の後方からも似たような砲撃音が連続して聞こえる。同じように斉へと移行しているのだ。敵の新鋭戦艦からの攻撃は有るが、火災がの多くを包み込んでおり気息奄々の狀態だ。もう長くは持つまい。

「さて、どうなるかしら?」

そう誰ともつかない相手に問うた直後、無線に一報が飛び込んでくる。

「何、水雷戦隊が向っている?」

見ると右舷側から二十隻ほどの駆逐艦や軽巡洋艦が白波を立てながら突っ込んでくる。速力は三十ノットほどであろうか。

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護衛に付いていた重巡洋艦は8インチ砲を後方から撃っている。完全に突破されたために、まだ重巡洋艦は舵を切り終えていない。

「ちっ! 全艦、右舷側に展開している敵水雷戦隊に向け各個にて砲撃開始!」

ネルソンは護衛部隊は何をやっていると文句を言いながらも、副砲を打ち始める。

距離も近づいているためにかなり正確な砲撃を行える。優先順位としては艦腹を食い破られる可能を持つ魚雷を多數裝備している駆逐艦の方が優先順位としては高い。

そう判斷し、真っ先に駆逐艦を狙い始めるが、砲撃の度が高くなるのは何もこちらばかりではない。相手のにとってもそれは同じだ。

すぐに命中弾をお互いに出し始めたのであるが、ここでネルソンは異常に気付き始める。

敵巡洋艦が命中弾を最初に得てから程なく、艦の前部と後部に発砲炎がきらめいたのだ。斉は何も不思議なことではないが、問題はその早さだ。四秒に一回の早さで斉していく。

最初こそ主要防區畫や機銃などに命中していたが、徐々に副砲やその周囲の測距儀などに命中をし始める。その速能は驚異的なもので、おそらく護衛部隊はこの速になすすべもなく崩壊させられたのであろう。その早さで撃たれるためにダメージコントロールも間に合わない早さで被害が拡大していくのだ。

「マズい!」

この異常事態に気づいたときには既に遅かった。

右舷側に指向可能であった兵裝は完全に沈黙しきっている。駆逐艦を先に狙うという目論見が裏目に出た形だ。

「取り舵一杯!」

敵が投雷した際に一番投影面積を狹くすることで命中率を下げようとしたのだ。

敵新鋭戦艦をあと一歩で仕留められるが、この場面で沈んでしまっては元も子もない。命中率は下がるがやむを得ないと判斷したのだ。

しかし、舵を切ったからとはいってもすぐに効くわけではない。しばらく艦は直進を続ける。

その間にも敵艦は著々と距離を詰めてきており、著々とこちらに命中弾を出して戦闘力を削いでいく。

無論、敵水雷戦隊も無傷とはいかない。戦艦や重巡洋艦の副砲や主砲に絡め取られ、だらけになりながら停止する艦。魚雷発管や弾薬庫に命中し、イギリス艦隊に向けられる予定であった火薬を自らのに使う艦。洋上をく艦は一隻、また一隻となくなっていく。

しかし、アメリカ軍の水雷戦隊は止まろうとしない。それはアメリカに住み著いている猛獣グリーズリーが宿っているようである。

ここへ來てようやく舵が利き始め、徐々に回頭を初めて行く。ネルソンはこれで大丈夫だと一安心したかに思われたが、ここではたと気づく。

敵水雷戦隊は未だに魚雷を放っていない。つまりはその魚雷は艦上にある。

そして今、戦艦部隊と敵水雷戦隊は超近距離で反航戦にった。

「マズい! 敵の狙いはこれだ!」

そう。敵は反航戦に持ち込んで、すれ違いざまにこちらに魚雷を浴びせることが目的であったのだ。

(舵はもう間に合わない……)

そう思った直後、敵艦から魚雷が海面にり込んでいくのが見えた。

しかし、ここまで來ればほとんど砲撃は水平に近い狀況で行える。敵艦は次から次へと仕留められたが、海面下ではこちらの腹を食い破らんと魚雷が向っている。

「全速後進!」

機関室に向けて命令が出る。

急激に推進への力が切られ、後進の向きに推進は働き始める。主機からは今にも壊れそうなほどの金屬音が響き、相當な負荷が掛かっているのが分かる。

橫で働いている機関員にしてみればたまったものではない。発しようものなら數百度というすさまじい高溫の蒸気が機関員を殺傷していくのだ。そのような事態など想像もしたくはない。

だが、主機は耐えきった。徐々に艦首にできていた白波が消え、艦の周囲には渦ができはじめる。艦を前に進めようとする惰と後方に進めようとする力がせめぎ合っているのだ。

しかしやがて後方に進めようとする力が強くなり、艦は後方にき始めるが、もう魚雷は目の前だ。

「だめね」

ネルソンは砲弾の水中発を遙かに上回る衝撃と腹部への激痛をじながら、著弾によってできた海水の壁を見つめていた。

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