の黒鉄》第46話 敵機來襲

「各員戦闘配置につけ」

大和艦長の松田千秋艦長の聲が艦に響く。

米本土程圏に捕らえるまであと半日ほどになったところでついに予想されていた敵の攻撃が始まったのだ。

最初に捕らえたのは大和が裝備していた対空電探であった。

電探の端から小さな點が一つ二つと急速に増やしていき、艦に急速に接近してくるのが確認されたのだ。

「本艦一一時方向より敵編隊が接近してくると思われます」

當時の技力ではまだ的な數まで絞り込める段階ではなく、機數に関しては電探員の勘に頼るしかなかった。

「電探室より艦橋。対空電探にあり。およそ百機ほどの編隊が接近中と思われます。方位三三〇。距離2800」

「艦橋了解」

すぐに報告が艦長にあげられ、古賀などの連合艦隊幕僚に伝えられる。

ちょうどその直後、先鋒にいた駆逐艦から敵機確認の知らせが舞い込む。

「無線封鎖解除。打電、各艦対空戦闘用意!」

古賀は連合艦隊司令長としてすぐに各艦に伝えるよう言った。ここまで來てしまえば、無線封鎖をしている意味も無い。

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各艦船の上では対空戦闘用意のラッパの音が鳴り響き、機銃員が大急ぎで弾薬や冷卻用の水を準備し、機銃の銃口が天をにらむ。

対空要員の誰もが張で生つばを飲み込みながら、そのときを待っている。各艦のありとあらゆる対空火が天をにらみ敵からの空襲に備えた。

やがて上空の厚い雲の中からぽつぽつと黒い點が現れる。敵機だ。

その姿は次第に大きくなっていく。

「ついに來たか……」

古賀がうめくように言った。いずれ來るとは分かってはいたが、やはり來ない方がましい。

直後、甲板上に出ている乗員の退去を指示する警報ブザーが鳴り響く。大型艦の主砲発ともあるとその風だけで人員を殺傷できる威力となってくる。そのため主砲発時には必ずブザーを鳴らしてから発するのだ。

やがて、甲板上に人気が消えてからブザーも鳴り終わった。直後、主砲から大音響と共に巨大な火炎が蛇のように吹き出す。

対空用の三式弾が発されたのだ。この瞬間、砲塔部では砲鞍が大きく後退し、主砲発時の衝撃を吸収する。

駆逐艦を含めた各艦から発された何発もの砲弾が上空を飛ぶ敵機に向け飛翔していき、大空にいくつもの大を咲かせた。

敵機のうち數機ほどがこの大に魅了され落ちていく。

しかし、この程度では敵機を押しとどめるにいたらない。まだ九十機以上の敵機が殘っているのだ。

「主砲撃ち方止め! 総員、戦闘配置につけ!」

もう主砲を発している時間はない。

甲板の出り口に待機していた対空要員がわらわらと甲板上に出てきて、各々銃座の配置に再度付いた。

「各銃座、各個にて撃を開始せよ!」

その命令が伝わった瞬間、各艦のもつありとあらゆる対空兵裝が火を噴いた。甲板上にはその銃撃音で何も聞こえなくなる。

「航空機で私と退治しようとはなめられたですね!」

大和の姿は主砲撃指揮所の上に確認できた。

敵機はまず艦載機で襲いかかってきた。というのも陸上用の撃機は余りく目標を狙うのには適していないため、第一次攻撃では使われなかったのだ。

まず敵機はその砲火の中に果敢にも突っ込んでくる。大きく分けて攻撃隊は二つに分かれていくのがよく見えた。上空に上がっていくものと低空に舞い降りていくものだ。前者は急降下撃、後者は雷撃を見舞うためであろう。

甲板上の機銃はそれぞれ自分が狙った機に砲火を向けていく。そのためにかなりの機銃がばらばらに攻撃を始めた。

まず攻撃を始めたのは上空にいた急降下撃を行うドーントレスがダイブブレーキの甲高い音を響かせながら急降下を始める。

「敵機直上、急降下! 投弾勢!」

見張り員の絶にも似たそのび聲に艦橋の人員は天井を見つめた。

いくつかの機銃は狙おうとするが敵はよほど堅いのかいくら當ててもまるで効果があるようには見えない。それでも一機のエンジンからは白煙が上がり、急降下を止める。しかし、殘った二機ほどの機の急降下を止めるにあたわず、機首を大和にぴたりと付けて突っ込んでくる。

「取り舵いっぱい!」

松田は落ち著いてタイミングを見て指示を下す。

最初はなかなか舵が利かず、その間に敵はぐんぐん近づいてきている。

「急いで!」

思わず大和は口に出してしまう。

しかし、敵はその大和をあざ笑うように投弾し、一気に機首を引き上げ上昇していく。

そこに味方の戦闘機の銃弾が突き刺さり、敵機は四散した。今まで味方戦闘機はどこへいたと怒りのよりも近づいてくる弾への恐怖が打ち勝つ。

「もう……」

そういって目をつむった直後、舵が急に利き始めその巨に似合わない素早さで艦首が左に回頭していく。

弾はその未來位置に向かって投弾されたため、艦の前方に著弾し、空しく水柱を上げるに終わった。

「助かった……」

その場にへたり込みながら大和は呟く。しかし、空襲はまだ始まったばかりであり、大和を狙う攻撃機は著々と接近していた。

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