これはこれは読者の皆様こんにちは、もしくはこんばんは。今回も異世界戦線のちびっ子隊長を読んでいただき、誠に謝いたします。それでは自己紹介を致しましょう。私は語り手、これまで3話読んでいただき、その地の文の部分にあたります。

 もしかしたら、皆様はこうしてただでさえ人気の無い小説が更に人気がなくなるのでは？面白くなくなるのでは？とお思いかもしれませんがご安心を、私は飽くまでも語り手。ただ話しを読むだけ、私が話しに関わる事はございません。

 さあ、私のことはこの辺にして本編へと參りましょう。それではアビス・カーティーのその後の話を…と行きたいところですが、その前に彼がアビス・カーティーになるずっと前の語から、始めることにいたしましょう。

時は20XX年、場所は皆様がお住まいの場所に似ているが、全く違う場所。そんな場所に住むとある夫婦の下に、1人の男の子の赤ちゃんが産まれました。夫婦は心の底から喜びました。ですが出産後そんな夫婦に、とんでもない不幸が言い渡されたのです。

 「せ、先生今何と？…」

 「先程も申しましたが、殘念ながら貴方がたの赤ちゃんは、20歳以降まで生きる事は非常に困難です」

 それは夫婦にとって最悪の報告だった。「何か治療方法はないんですか？」と妻が聞くと、醫者は「無いことはありませんが、現実的に不可能です」と言った。夫婦は頼むから教えてくれ！と懇願し、醫者もその勢いに負け渋々教えた。

 「確かに息子さんの助かる可能だけはあります。ですが、期待はしない方がいいでしょう。それが貴方がたの為なのですから…

 息子さんの病気はこれまで世界で數百人程度、発見されています。そして、その治療をけることが出來るのは、世界屈指の富豪と呼ばれる人たちだけです」

 夫婦は思ってもいなかった言葉に絶句するが、それでも意を決して「いくらほど掛かるのですか？」と聞くと、醫者はポツリと呟くように「五億」と言った。その予想外すぎる答えに、夫婦は開いた口が塞がらないと言った表を浮かべるが、醫者は敢えて更に続けた。

 「更にこの病気の特徴で、一定の期間に治療をけなければ、今後絶対に治ることはありません。…その期間は……生後約一年以です」

 その言葉に夫婦は、目の前が真っ暗になったかの様な覚に襲われた。醫者の説明後まず母親はまだ院中の為病室へ戻った。父親は妻を病室まで送ると、意気消沈した表で自宅へ帰っていった。

 父親は自宅へ戻ると、パソコンで息子の病気について調べ始めた。もちろん醫者が説明しなかったわけではない、ただその時専門家の口から現実を突き付けられるのが怖かった、聞きたくなかった、希という名の願を崩されるのが嫌だった。そんな稚な現実逃避だった。そんな父親が何かないかと、何処かに突破口はないかと調べ始めた。だが、待っていたのは今の自分では自分の子供すら助ける事も出來ない、というそんな現実だった…

 助けられない理由、それは何もお金だけの話ではない。まずは治療をけた數人の富豪の子供たち、その全員が助かった訳じゃあない。助かった人數、それはたったの二人だけだ。二人だけ、確率にすれば何十%かはあるかもしれない。だがその二人が助かったのは、単純に運が良かったからにすぎない。実際アメリカの某研究所が公表している治療の功確率は、何と小數點以下だった。

 ここまで言えば勘の良い者は分かるかもしれない。つまりこの五億という金額は、子供の命を五億で購すればいい、ただし助かる可能は低く絶対という保証はない。といったじだ。もちろん公表している理由は、後から文句を言われないようにするためだ。

 こうして、この夫婦は息子の命を苦渋の決斷で諦めることにしたのだった。

 月日は流れ、子供が長するのは早い。このご時世に、無事に保育園に園、そして卒園し小學校も無事に學することが出來た。夫婦はきっとあの時の醫者の診斷は誤診または自然治癒したんだ、きっとこれからも何もなく普通に過ごす事が出來るのだろう。そんな楽観的な考えていた。だが、現実はそう甘くはなかった。

   年が小學三年生に上がったとある日、年が休み時間に友人と遊んでいると、いきなり高熱を発し倒れた。溫は四十度を超え、急いで救急車で病院へと運ばれた。

 その日は解熱剤等を打ち院すると、翌日には熱はすっかり下がり、念の為に検査を行なったがに異常は見られなかったが、學校は休むことになった。

 そして、検査後に夫婦と主治醫が話し、年に生まれた時からかかっている病気の事について打ち明けることになった。打ち明けるが、年の反応は「はぁ…」というじで驚くわけでも悲しむわけでもなく、何を言ってるのかいまいち理解出來ていないっといったじだ。無理もない、彼はまだ小學三年生だ。まだ良いことと悪いことすら、完全に把握出來ていないような年頃なのだがら。

  「……と、兎に角！君は産まれながら私たちにも治す事が出來ない、命に関わる病気をもっているんだ、友達と遊びたい気持ちは痛いほど分かるけど、あまり無茶な運は控えるように！分かったかい？」

 「は、はい…」

 主治醫からの話しが終わると、その日で退院し病院の駐車場へと三人は向かった。

 「お母さん、お父さん、僕は死んじゃうの？」

 病院から出ると年はいきなり夫婦の目をジッと見つめて聞いてきた。その年の瞳はとても澄んでおり、本當に自分が死んでしまうなんて思ってもいない目だった。

 「ごめんね、貴方を健康に産んであげられなくて、ごめんね！」

 「本當にすまない…」

  夫婦は我が子を強く抱きしめた。年はその時、何となくじたのだった。自分はもう助からないのだと、この病気は治る事がないのだと…

  本當は謝罪なんか聞きたくなかった。噓でも良い、希なんて無くても良い、ただ一言大丈夫だよと絶対治るからと、その言葉がしかっただけなのに…

  年は何も言わず、只々両親の手をそっと握り返すことしか出來なかった。

  それから年は格でも変わったかの様に、勉強にのめり込んだ。別に勉強が好きになったとか、自分で自分の病気を治そうとか、そう言った事を思ったわけではない。自分は後數十年で死ぬ、それが分かった時に年の中でとあるが芽生えた。それは何かをのこしたい、というだ。自分が何をせるのか、全く分からない。いや何もせないかもしれない、それでも數ない時間をしでも意味のあるにするべく、とにかく勉強に勵んだ。だが、運命はそれを良しとはしなかった。

  一年を過ぎていくごとに年のは悪くなる一方だった。小學校を卒業する頃には、ほとんど學校には通えなくなり、中學校は登校もままならず自宅療養と病院で退院を繰り返し、登校日數の不足により通信系の高校へ學するも、基本的に病院のベッドで寢たきりの生活。看護婦さんや主治醫の先生と、リハビリを行うが一向に良くなることは無かった。それでも勉強だけは続けており、學力だけならばアメリカの大學院にも今すぐ學できるのではと、言われるほどだった。でも、それでもどんなに勉強しても、専門的な知識を學んでも今の年齢での治療法は見つからず、どんなにリハビリに勵んでもは徐々に衰えていった。

  そして、ついに年が二十歳の誕生日まで殘り數日、年は急な発作を起こし昏睡狀態に陥った。両親は連日年の見舞いに訪れた。父は仕事がある為その後に、母は家事を早々に終わらせて年の世話を焼いていた。そして、年の二十歳の誕生日になり年が産まれた時間まで殘り數時間を切った時だった。

  「息子さんが産まれた夜中の十時、それが山場になるでしょう」

  両親は息子の干からびた様な手を握りしめる事しか出來なかった。もちろん両親以外にも親類は居るが彼等は、その景を黙って見ているだけしか出來なかった…

  だがこの時、小さな奇跡が起きた。年のはまるでミイラの様に水分がほとんど抜け、骨の中はスッカスカで歩くどころか目を開けて喋る事すら出來ないほどだ。だが、年は眼を開け両親へ片腕をばした。

  「死にたくない…こんな、こんな無意味な人生、嫌だよ……」

  息子の手を握っていた夫婦は、そのまましゃがみ込みながら泣き崩れた。病室には無にも響き渡る強弱も無い「ピー」という電子音と、主治醫の「臨終です」という聲だけが殘った。

  年がこの時に何が言いたかったのか、どうして態々わざわざそんな事を言い殘したのか、例え両親であってもその答えは分からない。もしかしたら意味なんて無いのかもしれない。

  ただ一つだけ言える事は、こうして何もせなかった名も無き年の人生語は幕を閉じた。