《Umbrella》誤解

客足がひと息ついた晝下がり。

さくらんぼさんが出掛けるのを見送って

私は1人になった。

さっきまでそこにあったコーヒーの香りに

浸って、私は目を瞑る。

かすかな音が良く聞こえた。

突然、靜かな店にベルの音が鳴り響いた。

「いらっしゃいませ」

振りかえるとそこにいたのは祇園さんだった。

「あっ...」

あの日のことを思い出して思わず目を伏せる。

祇園さんは面倒そうに大きくため息をついた。

それを見て気づく。

あ、ダメだ。

私、この人に嫌われちゃったよ。

私は本當に生きていくのが下手くそで、

誰かに好かれることさえできなくて。

昔のダメな私から何にも変わってない。

エプロンの裾を摑んでうつむいた時、

祇園さんの低い聲が聞こえた。

「西野さんさ」

祇園さんは気だるそうだった。

だけど、いつもの無想な彼ではなかった。

「何かあったんだろ」

その聲はいつも通りどこか他人行儀で、

そしてなぜか優しく聞こえた。

「さくらんぼさんって変な人なんだよ」

祇園さんの予想外の言葉に、私は目を開いた。

「あの人さ、問題ばっかり持ってくる。

 厄介な事件とか、面倒な仕事とか」

それから付け足す。

「西野さんみたいな人とか」

「俺、たまにさくらんぼさんって、人の心

 読めるんじゃないかって思う時がある」

「あの人が連れてくるのって、何か

 難しい問題抱えてる人ばっかだからさ」

そして真っ直ぐに私の目を見つめた。

「だから、何かあったんだろ?」

祇園さんは優しくなったと思いきや、               またそっけない口調になった。

「...っていうかさくらんぼさんに言われた。

 西野さんに謝れって」

「さくらんぼさんが...?」

「俺、西野さんに何かしたっけ?」

「あ...それは...」

思わず口ごもる。

「いいよ、はっきり言ってくれれば。

 俺、口悪いし」

私は意を決する。

「祇園さんっ、『やめてくんない』って

 言いましたよね」

言いだしたら、止まらなくなった。

「私、笑ってるのダメでしたか!?

 祇園さんの気に障ることしましたか?」

祇園さんはし考える風にして、思ったよりも軽くつぶやいた。

「ああ、あれのこと」

「無理してんなって思ったから。笑いたくも

 ないのに笑わなくていいだろ」

「私、別に無理なんか…」

「無理して笑わなくていいよ。ここの人たち

 そんなことしなくても分かってくれるから」

祇園さんの言葉にはっとした。

「西野さん、変われるよ」

彼にしてはめずらしい、はっきりとした口調で

祇園さんはそう言った。

「さくらんぼさん、あの人マジですげえから」

あいかわらず何をするにも気だるそうで、

ぶっきらぼうで

そっけない人だ。

だけど、やっぱり私この店の人たちが好きだ。

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