第三話

三十年余りの人生を過ごしてきた。

しかしあまり恵まれた人生を歩んでは來ていなかった。

子供の頃に親が離婚。

母親と二人だけの生活。夜の仕事をしていた母親は派手で、いい加減な親だった。男関係やお金に関しても計畫が無く、借金も抱え住む所も転々とした。

あの染橋のある街には昔、まだ父親がいた時に住んで居た場所。短い間だけしか住んでなかったが、にとって印象に殘っていた場所だった。

が自立するようになってからは、母親とも距離を置いた。たまに連絡をして來る時は、お金の事。相変わらずな母親に呆れながらも、お金の援助をしていただった。

は、常に自分の人生を悲観し半ば諦めていた。そんな時、自分を助けてくれた年。そして青年になって偶然の出會い。歳の差が、あったのでまではいかないが寂しくつまらない人生を送っていたにとっては、しだけ明るく楽しい瞬間を味わった。

ただ……

そんな時、は調が悪くなる。彼自今迄には無いじで、不安になり病院へ。

子宮ガンだった。

まだ三十歳前半なのに……  進行もしていた。今後の事も考え、子宮摘出が無難と言われ……

何も考えられない狀態。

現在、人がいる訳でも無く結婚の予定すら無い。

ただ、子宮摘出はにとって……

やはり自分は、こういう人生。

結局、良い事なんて何も無い人生。

でも何故か涙は、出なかった。

そんな辛い事を相談する相手すら居ない。

ところが……

何故か、あの青年の顔が浮かんだ。

無意識に近いじで、男の會社に足が向いた。別に男に相談したい訳じゃ無い…… ただ、顔を見たくなっただけ。

し離れた所から會社のり口を見つめていた。

どれくらい此処にいるのだろう。もう辺りも既に暗い。そんな時、男が會社に帰って來た。し汚れた作業著を著て。

その姿を見れただけでは満足し、その場を後にした。

と、後ろから走って來る足音。

男が、暗く離れていた為 だとは確信出來なかったが、それでも何と無くというじだけでの元に走って行った。

「あ〜〜 、はぁ〜〜  良かった。やっぱりそんなじしたんで…… 」

息をきらしながら男が言った。

「えっ、あーー  ごめんなさい仕事中に。なんとなく…… 一目だけ見たくなって…… 」

恐しながらが応える。

「あ、あの…… なんか…… ありました？ 」

「えっ   ……いや……別に」

「でも…… なんか、あの時と…… 同じじだから…… 」

「あの時と同じじ…… に見える？

 そっか …… 」

そう普通のじで言っただったが……

涙が…… 流れていた。

慌てて涙を拭う。

何かあった事を察知した男が、黙ってを見つめる。その男の表を見てが

「ごめんね、何でもないから……じゃあね」

と帰ろうとした。

すかさず男が前に回り込みポケットから紙を取り出し、電話番號を書いてそっと渡した。

は、紙をけ取ろうとしなかったが男がの手に紙を摑ませた。

「遠慮なく連絡して下さい」

は、無言で小さく頷き そのまま帰った。

貰った紙を見つめ……

次の日の夜も、貰った紙を見つめ……

思い切って掛けた。

初めは二人とも、ぎこちない會話だったが次第に打ち解けていった。やはりの様子が気になっていた男が訊いてみた。もやはり辛かったのか、しずつ事の経緯を話した。

多くを語る訳では無く、の話をしっかりと聞いていた男だった。

その事がきっかけで、は手をする決心をした。子宮を摘出し、様々な治療をする事に……

しばらくして男が病院に。

と會って言った言葉は……

「自分と、付き合ってくれませんか？ 」

耳を疑った。

「冗談でしょ。こんな年上と…… 病人だからって勵まそうとしなくても…… 」

「ずっと…… ずっと想ってました。まさか逢えるとは…… 歳下は、駄目ですか？ 」

「駄目じゃないけど…… よりによって私って。子供も産めない何も取り柄の無い私じゃ…… 」

「自分も何も無いです。學も無いしお金も無いし。でも…… ずっと…… 忘れられなかったんです。多分、これからもずっと」

悲観して諦めてた人生に追い打ちを掛ける様な病気。

なのに……

は、後先何も考えずに男の申し出をけれた。

十一歳、離れている二人。

ただ、そんな事じさせない何かで二人は繋がっていた。

それからは、二人で治療に勵んだ。

今迄、味わった事がない位 楽しく幸せな時。病気の治療をしている事を忘れてしまう程。

それから程なく二人は、結婚した。

は、その後も々調を崩す事があったが男と共に楽しく乗り越えて行った。治療にお金がかかる為、決して楽な生活とはいかなかったが男も一生懸命働き何より、明るく楽しく幸せな家庭を築けた。

お互い子供の頃、苦労した思いがあったので子供の頃出來なかった楽しい思い出を沢山作った。

一回り近い年上なのに優しくを注いでくれる夫となった男。

初めて會った時は、まだ中學生のい自分。なのに一人の男として扱ってくれて、長年の淡い心をけれてくれ妻となった。

お互いが幸せに…… を分かち合っていた。

雨降る染橋で、出會った二人が……

第三話   終