《コンビニの重課金者になってコンビニ無雙する》16話 明らかになった素

空き巣やそれに類するような人達ではないらしいと知った正巳は、雰囲気の違う三人を前に一息付いていた。當の三人は、其々紺のスーツを著た油斷ならない雰囲気の男、黒のスーツの真面目そうな男、ポロシャツに濃い青のジーパンを著た眼鏡の男だった。

「それで、我々はこの件の覧に來ていた処ですが、もしかしてご近所の方ですか? ……まさか、この家の持ち主と親類の方では無いですよね?」

黒いスーツを著た――確か"峰崎みねさき"と呼ばれていた男が聞いて來る。

「いえ、違います」

男に対して答えながら、ヒトミとの関係を何と説明したら良いのか悩んでいると、橫で鋭い目でこちらを見ていた紺スーツが口を開いた。

「當然です。家主からは私が全て任されていますし、他に権利者はいません。それに、きちんと法律に則り、正規の手続きで進めていますからね」

……不味くないか?

「あの、聞いても良いですか?」

「ええ、私に答えられる事であれば」

嫌な予がしながら、先程チラリと耳にした事を聞いた。

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「その、先ほど言っていた『競売』と言うのは、どの様な意味でしょうか。一定期間支払いを滯った場合、いずれ差押えがされるのは知っていますが……」

正巳の言葉を聞いた紺スーツの男は『お前には関係ないだろう』と言ったが、黒スーツの峰崎がそれを抑えるようにして言った。

「どうやら、この家の家主となからず関わりがある方の様なので……」

峰崎はそう言うと、『そうですね、これは公示されているので良いでしょう』と前置きしてから説明してくれた。

「この家の家主は、ローン支払いの滯納をしました。その滯納に困った債権者――ここでは不産屋です――が、決まりに則って手続きを踏みます。その後、『支払い請求書』、『催告書』、『期限の利益喪失通知書』、『代位弁済通知書』、そして『競売開始決定通知書』と順番に通知され、地方裁判所の執行――私がそうです――が不産鑑定士と共に『現狀調査』を行います」

ヒトミからは、男が言うような話は一言も無かった。

恐らく、ヒトミは言わなかったのではなく、知らなかったのだろう。

何せ、ヒトミは連絡手段と言えるモノを持っていなかったのだ。

催促書などが屆いた事すら、その存在すら知らなかったのではないだろうか。

「――えっ、と言う事は既にそこまで済んで、今日は調査に來たんですか?」

慌てた正巳がそう聞くと、峰崎は『いいえ、違います』と頭を振った。

「いいえ、『調査』は既に二カ月前に終えています。ここに居る黒渕くろぶちさんは、確かに"不産屋"ですが、債権者なので"評価調査"は行えませんしね」

どうやら、紺スーツの男は"黒渕くろぶち"と言うらしい。それに、債権者と言う事は、ヒトミの両親が家を建てる際に依頼した人なのだろう。

「『二カ月前に終えている』ですか……それじゃあ、今日は何をしに?」

正巳が聞くと、落ち著いたらしい普段著の男が言った。

「私が『覧したい』とお願いして、連れて來てもらったんですよ」

「浩平こうへいさんはお得意様ですからね」

産屋の黒渕がそう言って『當然です』と続けている。

どうやら、この不産屋と浩平と言う男は知り合いの様だ。

「……なるほど、と言う事は競売は既に始まっているんですか?」

正巳が聞くと、峰崎が頷く。

「ええ、既に3日ほど経過しています」

「それじゃあ、その、札の期限は何時ですか?」

下手をすると、ヒトミが知らない処で全てが終わってしまう可能すら有る。

峰崎が懐から手帳を取り出すと、確認しながら言った。

「ええと、神楽坂様の開札日は……」

開札日は、札の結果を調べる"期限日"の事だろう。學生の頃、生徒會役員をしていた経験がある為、馴染みのある言葉だ。あの頃は、自分が選ばれているかその結果に一喜一憂したものだ。

神楽坂はヒトミの名字だ。どうやら、本當に札が始まっているらしい。

「その、競売は途中で止めたり出來ないんですか? 例えば、別の人に売卻してそのお金を支払いに充てるとか……」

もし、これが可能であれば、俺がヒトミから家を買い取って、ヒトミはそのお金を不産屋に支払えば良い。そう考えたのだが――

「それは出來ないんです。恐らく任意売卻の事でしょうが、既に開始してしまった競売は止める事は出來ません。それと、開札日は三日後ですね」

……なるほど、となると取れる手段は一つだろう。

するべき事を決めた正巳は、峰崎に言った。

「その競売に參加したいんですけど、どうすれば良いですか?」

正巳がそう言った瞬間、橫に居た男――不産屋の黒渕が目を見開いた。

「ああ、競売に參加されるのですね。それであれば參加者コードの発行をして、期限札する事が必要です。パソコンはお持ちですか?」

慣れた様子で説明してくれた峰崎だったが、橫の黒渕が口を開いた。

「何を言っているんだ! お前は! 急に來て急に參加するなどと……貴様は――」

「ま、まあまあ、落ち著いて下さい。誰でも參加できるのが競売です。それに、不産を高く売りたい貴方にとっては、札者が増えるのは喜ばしい事では無いんですか?」

「そ、そうですぅ。それに、私がしいのはのぱ……いえ、ただ、持ち主が誰か分からない狀況で札しても私は別に嬉しく……いや、別に洋服に興味がある訳では無くて、ただ単純に家財も一つの財産なので、その持ち主に付いても知りたいと思って――……」

大人しいと思っていた私服姿の男――浩平と言ったか――が急に饒舌になって話し始めた。何となく変だと思っていたが、どうやら碌でもない趣味を持っているみたいだ。

「黙っててくれ! ――失禮。兎も角、貴方は元の良く分からないのに併せて、勝手に侵した不審者だ。警察に通報させて貰う!」

黒渕がそう言って、スマフォを取り出そうとした。

流石に不味いと焦った正巳だったが、思いもよらぬタイミングで援軍があった。

「ちょっと待って下さい!」

『"バンッ!"』と大きな音を立てて開いたドアから、一人のって來た。恐らく、帰りが遅いのを心配して出て來たのだろう。……無茶をする。

「お、お前は……」

「私は確かに支払いを出來ていませんでした。でも、こんな――こんな事になるなんて、一言も説明してくれませんでした!」

驚いて言葉を失っている黒渕を見ながら、そう言ったヒトミは『あの時は"待っててあげます"って、"ご両親を亡くして大変でしょうから"って言ってくれたのにっ……』と言って俯く。

「そ、それは……」

視線を向けるヒトミに対して、黒渕は目を泳がせていた。

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