《コンビニの重課金者になってコンビニ無雙する》19話 極楽の湯
この埋め合わせは、何処かでしなくてはいけないな……と考えながら、著替え終えたヒトミが戻ってくるまでの間、仰向けでいた。
天井に浮いた木の年が、顔か何かに見えて來た処で、ヒトミが戻って來た。
ヒトミは、仰向けのままかない正巳を見ると、『あれ? ……死んじゃってませんよね』と言いながら、にゃん太を使って顔の上に乗せたり離したりを始めた。
にゃん太には、小さいながらも鋭い爪がある。そのにゃん太が興して爪をばしたものだから、小さな爪が正巳の鼻を引っ掻いた。
『いてっ!』とんだ正巳だったが、ヒトミのジトっとした視線をけて、大人しく謝る事にした。
「悪かった!」
座り直して頭を下げた正巳だったが、反応が無いのでヒトミを見ると、その顔はやや赤かった。正巳と目が合ったヒトミは、頬を膨らませながら言った。
「……何が、ですか?」
『何が?』と聞いて來るヒトミに対して、別に覗いてやろうと思った訳でもない正巳は、どう答えたものかと悩んだ。
しかし、考えてみても良い案が浮かばなかった正巳は、何か言わなくてはいけないと焦った結果、よく考えもせず口走ってしまった。
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「その……生まれたままの姿を見て悪かった?」
何となく途中で、『悪い・・』と言うのが変な気がして、疑問形になってしまった。
そもそも、覗こうと思ってした訳では無かったし、運の悪い不可抗力だったのだ。
それに、見た瞬間も何方かと言うと、館の彫刻や肖像畫なんかを見る覚だろうか、男がを見るように見た訳では無いと言うか……兎に角、やましい事は別になかった。
そんなモノが相まって、中途半端な"懺悔"になってしまった。
しかし、そんな事は當事者――ヒトミにとってはどうでも良い事だった。
正巳が首を傾げている様子を見ながら、もう一度にゃん太をけしかけようとしたが、途中で思わぬ邪魔がった。
「ぐきゅるる~」
「……」
ある意味"綺麗な"音だった。
それこそ、ゲームか何かの音源だと言われれば納得してしまいそうな程だった。
「ぐきゅ――あぅ……」
再び"音"が鳴りそうになった所で、咄嗟にお腹を抑えようとした瞳だったが、片手ににゃん太を抱えていたのが悪かった。
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簡単なつくりの浴に飛びついたにゃん太は、その命綱たる茜の帯に前足を掛けた。恐らく、縛り方が甘かったのだろう。
にゃん太の重さで解けた帯は、そのまま円を描くようにして、ヒトミの足元に落ちた。
……正巳の視界に飛び込んで來たのは、綺麗な形をしたへその……――
「うわっ、あぶねえっ!」
慌てて、羽織った浴の両端を差させたヒトミが、そのまま右足を軸にした左後ろ蹴りを放って來た。
何となく流れが予測できた正巳は、ギリギリ避ける事が出來たが、ぼうっとしていたら痛い目に會っていた事だろう。
「お、大人しく死んでくだたいっ!」
……最後の方で噛んだヒトミが、口に手を當てて痛そうにしている。
「お前なぁ……まぁあれだ、一応履いてるみたいで安心はしたが、上は――」
先程チラリと見えたのだが、下には俺が渡した男のパンツを著ているみたいだったが、上にはが付けている筈のモノが見當たらなかった。
全てはだけた訳では無かったが、恐らく昨日洗濯してそのまま置いて來たのだろう。
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男、それも俺の・・パンツを履いている事もどうかと思うが、上に何も付けていないのはいかがなモノだろうか――と、ここ迄瞬時に考察した正巳だったが、それを指摘したのはどうやら悪手だったらしい。
今度こそ避けられない位のスピードでもって、橫薙ぎの蹴りが迫って來た。
『"ドゴンッ!"』
鈍い音を立ててヒットしたヒトミの回し蹴りによって、再び天井を仰いでいた。
「……なんて日だよ」
そう呟いて、ヒトミが再び帯を締め終わるまでの間、橫になった正巳の上へとトテトテとよじ登って來るにゃん太をでていた。
その後、ようやく帯を締め終えたヒトミが戻って來ると、相変わらず橫になっている正巳に対して言った。
「ほら、防いだのは見過ごしてあげますから、さっさと起きて下さい!」
どうやらヒトミは、俺が腕で防いだ事に気が付いていたらしい。昔から、人より多要領の良かった俺は、軀の授業で習った道や剣道等のから、裁きをに付けていたのだ。
――とは言っても、特段飛び抜けたモノではなく、専門で習っている同年代にはルール上・・・・は葉わなかったのだが――
変に誤魔化す気も無かったので、にゃん太を抱えて起き上がると、先手を打つ事にした。
「まあ……うん。あれだ、お詫びに夕食は好きなの頼んで良いからな?」
正巳がそう言うと、し頬を赤くしたヒトミは、お腹の辺りを抑えながら言った。
「うん、ありがと……」
やはり、現在最も有効なのは"食事"に関する事だった。
普段の様子に戻ったヒトミを見ながら、そう言えば替えの下著はどうしたんだろう……と考えてみたが、それを今口にすると不味い事は目に見えていたので、取り敢えず明日やる事に"買い"を加えておいた。
その後フロントに夕食の連絡をした正巳は、將が『承知しました、々お待ちください』と答えたのに対して、若干違和をじながらも『よろしくお願いします』と答えて、戻った。
「どうでした?」
若干食い気味に聞いて來るヒトミを落ち著かせながら、言った。
「ああ、何か『部屋でお待ち下さい』だって」
「あれですかね、直接きてメニュー選ばせてくれるって事ですかね?」
手に持った白湯を飲みながら、はしゃいでいる。
ヒトミに『たぶんな……』と返した正巳は、再び白湯を口にしたヒトミを見ながら(もう三杯目だが大丈夫だろうか)と心配になった。
白湯は、お腹の音が止まらないヒトミに対して、正巳が淹れたものだ。
『淹れた』とは言っても、単に沸かしたお湯を注いだだけだが、それでも気やすめ程度にはなるだろう。最初の一杯を凄い勢いで飲んでいたので、『あまり飲み過ぎるとお腹がタポタポになるぞ』と言いながら、將が來るのを待った。
將に連絡してから五分ほど経った頃、ようやくチャイムが鳴った。
「はい! 今開けます!」
そう答えた正巳は、立ち上がろうとするヒトミに座っている様に言ってから、ドアを開けた。ドアを開けた正巳は、半ば予していた事態が的中した事を知り、冷や汗を垂らした。
「あ、……もう用意できたんですね」
正巳がそう言うと、將が顔をほころばせて言った。
「ふふっ。お腹が空いていると思って、直ぐに用意をしたんですよ」
「……そうでしたか。あ、にゃんこの分までありがとうございます」
二人目の持った更には、"貓ちゃん用"と書かれたもあった。
「いえいえ、それじゃあ早速運ばせて頂きますね~」
「あ、お願いします」
目の前を通り過ぎて行く、料理を持った従業員を見送った正巳は(まずいな、ヒトミに『夕食は好きなの頼んで良いからな』と言ったけど、"選ぶ"とか無かったな……)と心慌てていた。
し経った処で、従業員が戻って來た。
そして、一人一人『ごゆるりとお寛ぎくださいませ』と言って退室して行く。そんな人達に『どうも』と返していると、將が最後にやって來た。
そして、正巳の耳元に口を近づけると言った。
「旦那様、奧様がお腹を空かせたまま待っていますよ」
何やら勘違いしている將に訂正しようとも思ったが、ここで『それじゃあ、あの娘とはどういう関係ですか?』となっても困るので、黙って頷いておいた。
將が出て言ったのを確認した正巳は、覚悟を決めて部屋へと戻った。
部屋へ戻ると、夕食が綺麗に並べられているのを見た。そして、その片側にはヒトミが座っており、にゃん太のを挾んで正巳の分が並べられていた。
「その、悪いな……知らなかったんだ」
好きなメニューを選んで良いと言いながら、実は選ぶも何も予め決まっていた。その事に対する謝罪だった。しかし、正巳の言葉を聞いたヒトミは目の前の開いた席を指差すと言った。
「何を言ってるんですか、ここに並んで居るのは全部私の大好です。々話しているにお腹と背中がくっ付いてしまうので、さっさと座って下さい!」
口を開くと怒られそうだったので、言われるままに座った。
その後、『ほら、正巳さん挨拶して下さい』と言われ何の事か分からなかったが、直ぐに"食事の挨拶"だと気が付いた正巳は、手を合わせて『頂きます!』と言った。
「頂きます! さて、やっぱり最初は胃を溫めてからですね~」
元気よく手を合わせたヒトミは、手をばすと味噌を口に含ませていた。
……『胃を溫める』という事に関して言えば、先程から白湯を飲んでいたヒトミは既に十分な気もしたが、突っ込まない事にした。
味しそうに食べているヒトミを橫目に、普通のよりも底が淺く、それでいて淵はしっかりとある――にゃん太のご飯を開けた。
にゃん太は先程、足を正巳のに乗せそうになっていた。恐らくご飯の匂いに釣られたのだろう。そんなにゃん太をかないよう膝に乗せていた正巳は、にゃん太を一ですると、良くほぐされた"魚の団子"の前に下ろした。
「にゃぁ、にゃぁぁ、にゃにゃにゃ……」
何やら鳴きながら食べる様子を見るに、気にった様だ。その後、にゃん太が問題なさそうな事を確認した正巳は、自分も食べる事にした。
――
途中、先に食べ終わってしまったヒトミがしそうにしていたので、カニの鍋を半分あげた。
どこにあれだけの量の食事がったのか分からなかったが、大人約1.5人前を平らげた後、『さっき旅館の人が置いて行ったんです!』と言って、冷蔵庫からデザートを持って來た。
既にお腹が脹れていた正巳は、『後で食べるから』と言うと、ヒトミが味しそうにシャーベットを食べるのを見ていた。
初め、この寒い時期にシャーベットか……とも思ったが、鍋を食べ終わった後の火照ったには丁度良いみたいだった。
その後、にゃん太が食べ終わったのを確認して、旅館の人に夕食の片づけをして貰った。來た時と同じくテキパキと片付けた従業員の人達は、『用が有れば、24時間お申し付けください』と言って下がって行った。
何となく、『ブラックですか?』と聞きそうになった正巳だったが、(いや、こういう旅館は24時間代制だよな)と考えて、聞くのを止めておいた。
夕食を食べ終わった後は、しの間々な話をした。
昔の思い出や、今好きな事……
ヒトミの話には、両親との思い出や地元での思い出も出て來たが、昔の話をしている時のヒトミはし寂しそうだった。
「――と言うじで、昔はあの辺にもボーリングセンターとかも有ったんですよ……それで……ふぁ……それで、そのボーリングセンターの裏の林には……林には……スー、スー……――」
話している途中から、段々と瞼が落ち始めていたが、とうとう限界が來たみたいだった。テーブルに突っ伏す形で寢てしまったヒトミを見て、その橫で寄り添う形で寢ているにゃん太も確認した。
「……布団敷くか」
一応、隣の部屋にはベッドも有るのだが、そのベッドはキングサイズのモノが一つだけだ。その為、予め敷布団を用意して貰っていた。
本當だったら、ヒトミにベッドを使って貰うつもりだったのだが、それをヒトミに言うと『わたし、ベッドだと落ちちゃうので……』と言って斷られていた。
その後、布団を敷き終えた正巳は、起さない様に気を付けながらヒトミを寢かせた。途中でバランスを崩して、危うく三度目の不可抗力を起す所だったが、何とか回避した。
にゃん太は、正巳の持って來た小さなボックスバッグ――長方形の形をしたバッグに寢かせた。このバックは、元々使い道が無かったなので、この際にゃん太用にする事にした。
「よし、これで良いか」
満足した正巳は、自分も風呂にって寢る事にした。
……明日もやる事が沢山あるのだ。
自分のバッグから替えの下著を取り出した正巳は、何となく(ヒトミに俺の替えを渡せば良かったな)と思いながら、外の天風呂に歩いて行った。
片手にデザートだったシャーベットを持ち、外に出た正巳は、その寒さに震えながらかけ湯をして、つま先からゆっくりと湯に浸った。
寒空の下る湯は、これ以上ないほど極楽であった。
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