目が覚めると、既に晝を過ぎておやつの時間を回っていた。

部屋を見渡すが――ヒトミが見當たらない。

を起すと、服とがれて気持ちが悪かった。

「そうか……帰って直ぐ寢たからな」

汗と埃がそのままの狀態なのだ。

「風呂にるかな……」

正巳は先ず、汚れたを綺麗にしてしまう事にした。

見ると、にゃん太も居ない様だ。

何も考えずに著替えを取り出した正巳だったが、何となく似た様な事が最近あったなと思った。あれは、そう――三日前だったか、そこの扉を開けて……

「っ！」

間一髪だった。

天風呂に繋がる扉が開き始めたのを見て、咄嗟に橫になると目を閉じた。

「よかった、寢てましたね……ええと、著替えは買って貰ったのが～」

ヒトミは何やらガサゴソと袋を漁ると、目的のモノを見つけたのか戻って行った。

その呟いていた言葉から、何となくヒトミが何をしに來たのか分かったが……著替え位予め用意してからってしい。もし、しでもタイミングが悪かったらどうするつもりだったのだろうか。

「……蹴られるのだけはごめんだからな」

誰にも聞こえないほど小さな聲で呟いた正巳は、その後扉もとい襖ふすまの向こうで『いちゃだめですよ～はい、足の裏も綺麗にしますね～』という言葉を聞いて、にゃん太が一緒だった事に一先ず安心していた。

その後、著替え終えたヒトミとにゃん太が戻って來たので、タイミングを見て起き上がると、『俺も風呂にって來るな』と言った。正巳に頷いたヒトミだったが、その後で不思議そうに言った。

「私がお風呂ったの知ってたんですか？」

そんなヒトミに、平常心を保つように心がけながら返した。

「ああ、髪とかとか匂いとか……ほら、服とか見ればな」

変に意識して余計な事まで口走ったが、問題無いだろう。

正巳の言葉を聞いて、自分の匂いを嗅いでいたヒトミが言った。

「そうですよね……うん。寢てた筈だしそんな訳ないよね……」

「あ、ああ。それじゃあって來るな！」

そのまま話していると、ヒトミの変な勘の良さで気付かれそうだったので、さっさと退散する事にした。その後、ゆっくりと湯に浸かった正巳は、將に連絡をして軽食を用意して貰った。

晝食と言うには遅い食事を食べながら（因みに、將はサンドイッチを用意してくれた）、今日が重要な日だという事を思い出していた。

そう、今日は開札日だ。

開札日……ヒトミの実家がどうなるかが決まる日だ。

札期限は、今日の0時――日付が変わる頃だが、結果の報告をけるのは明日の朝になるだろう。明日、報告を聞いてからヒトミには伝えれば良い。

「なあ、今日はこの宿に泊まって、明日の晝頃にチェックアウトしようと思ってるんだが良いか？」

言ってから、勘違いしない様に『別に落札できるかどうかとか関係なく、な』と付け加えた。正巳の言葉を聞いたヒトミは、頷くと言った。

「その時は仕方ないですし……ちゃんとお父さんとお母さんに謝って、その後は正巳さんのコンビニで働かせて貰います！」

そう答えたヒトミに『そうだな、その時は頼む』と言った。

その後、筋痛のを労わってうつぶせになって休んでいたのだが、にゃん太がトコトコとやって來て目の前でゴロンと橫になった。

やはり、し足が短いため何と無くモコモコした蟲が歩いている様に見える。

にゃん太に構ってやりたかったが、をかすと痛かったので、観察していた。すると、ぽよっとしたお腹と、小さなおをフリフリしながら歩いて來て、頭によじ登り始めた。

特に爪を立てて痛い訳でもなかったので、そのまま自由にさせて置いた。

その後にゃん太は、肩甲骨の辺りに安定する場所を見つけたらしくそこに寢てしまった。

「にゃんにゃん、寢ちゃいましたよ？」

「ああ、何だかんだストレスも溜まっただろうからな」

「そうですか？　にゃん太、ずっと寢てましたけど」

「……まぁ子貓だからな、寢るのが仕事みたいなもんだろ」

そう言うと、ヒトミは『私も貓になりたいですー』と言って、隣に橫になった。

ヒトミは、正巳と違って仰向けになっている。

（仰向けになると筋痛で耐えられないんだが……）

どうやら、ヒトミは若いだけあって、筋痛でそれ程苦しんでいないらしかった。

「貓か……ヒトミは既に貓みたいなものだと思うけどな」

「それ、どういうことですか？」

思った事を只言っただけだったのだが……

「"自由"って事だよ。特に何かに縛られる必要もないし、時運が好きなようにすれば良い。それこそ、今回の事が片付いたら本當に自由なんだからな」

咄嗟に答えただけの言葉だったが、話していて正巳自も（そうか、そうだよな……自由だな）と、改めて思った。

「"自由"ですか……ここ數日で々考えてみましたけど、やっぱり私はそんなに"自由"じゃなくて良いです。それこそ、誰かに雇われているくらいが丁度良いです！」

ヒトミがそう言って微笑んでいるのを見て、思わず言った。

「……なんか、"家貓"みたいだな」

「ふふ、家貓ですか。そうですね、私は正巳さんちの家貓ですね」

そう言ったヒトミに、笑いながら『勘弁してくれ、こんなに手のかかる家貓がいたら困る』と答えると、『それを言ったら、正巳さんだってそうです。こんなに息抜きさせないといけない、手のかかる・・・・・主人はいませんよ？』と言われた。

ヒトミの頭に、貓の耳が付いた姿を思い浮かべそうになっていた正巳だったが、その妄想を振り払いながら答えた。

「そうかもなぁ」

「ええ、きっとそうですよ」

笑っているヒトミを見ながら、その後日が沈むまでゆっくりしていた。

――

一日ぶりの宿の夕食を食べた正巳達は、再び橫になっていた。

「……食ったな」

「……ええ、お腹いっぱいです」

「……みゃぁ」

お腹いっぱいに味しいを食べたのは良かったが、量が多かった。

多い分は殘せば良いとも思ったのだが、如何せん味しすぎた。

その結果、部屋に並ぶ川の字。

結局、けるようになるまで一時間近くの間ゴロゴロしていた。

その後、『今日は早く寢よう』という事になって、そのまま寢る事にした。

筋痛でく度痛みの酷かった正巳には、寢る以外の事が出來そうになかった。

寢る前、ヒトミが『將さんからの差しれです』と言って、布を持って來てくれた。どうやら、筋痛の部分に付けると痛みがましになるらしかった。

（明日、將さんにお禮しないとな）と思いながら、布を張ろうとした。

しかし、痛みで腕を回せなかったので、結局ヒトミに張って貰った。

正直気恥ずかしかったが、そんなこと言えなかったので黙っていた。しかし、ヒトミが『綺麗なですね』と言って來たので（この娘は……気を使って黙っていたのに）と思いながら、『まあ、筋が脹れているから今だけな』と答えておいた。

その夜は、張って貰った布のおかげか、ぐっすりと眠れた。