《ワールド・ワード・デスティネーション》

人の心の中には思いを寄せるための石碑的なものが存在し、そしてその石碑に頼ることで人は生きている。それは時に人々の心のよりどころとなり、また軽蔑の対象ともなる。

この記録は僕が高校時代に経験したことをかいつまんで記したものである。人間の記憶には限界がある。僕は記憶が薄れないうちにこの経験を克明に記す義務がある。

僕は事実をできるだけ匿名的に、そして不特定の誰かに知ってもらうためにこのように手紙を書くことにした。ここにはできる限り僕の験したこと、じたことを正確に記そうと思っている。

あかりはクラスのいわゆる「目立たない子」だった。小柄でおとなしく、ほっそりとしていた。無口で友達もおらず、いつも壁際で本を読んでいた。

僕が彼に話しかけたのは簡単なきっかけだった。どういったことが理由だったか忘れてしまったが、僕たちは高校1年生の夏に親しい友人となり、そして次の年には人となっていた。

ある日僕は彼に趣味について質問した。けれど彼は趣味は持っていないと答えた。僕は驚いた。というのは、僕にはたくさんの趣味があったからだ。趣味がないとなると何をして普段生活をするか理解できなかった。學校から帰ったら何をしているの、と質問をした。彼は家ではいつも寢ていると答えた。なるほど、寢ることが趣味なのかもしれないと思った。

趣味と旅行について話そう。

僕は昔から旅をするのが好きだったが、彼は旅をしたことがなかった。彼は小さい頃病気にかかり、長い間院していたのだ。そしてそれが原因で遠くへ旅に行ったことがほとんどなかった。小學校と中學校の卒業旅行にもいかなかったらしい。僕はこっそり彼と家からし遠い大久野島へ行く計畫を作り提案をした。彼ははじめ遠くへ二人だけで行くことに不安を抱いていたようだったが、僕は旅に慣れていると説明すると納得して一緒に行くことになった。

晝過ぎに駅で待ち合わせ、フェリー乗り場まで列車で行った。彼はその間ずっと下を向いていた。駅を降りると目の前はフェリー乗り場で、その向こうには海が広がっていた。彼は周りをきょろきょろと眺めていた。フェリー乗り場にはたくさん人がいたので、僕たちが島に渡ることが出來たのは予定よりも30分ほど遅れてからのことだった。

大久野島にはたくさんの戦跡があった。彼は好奇心が強かったので、一つ一つの史跡を丁寧に観察して、それに興味を持ってくれたようだった。彼に何か興味の持てることが出來たということが僕にはうれしかった。

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