《ワールド・ワード・デスティネーション》2

僕は彼が何を求めていたのか知っていた。彼は「ほかの人と同じような、普通の生活」を求めていたのだ。友達と一緒に學校へ行って、楽しい話をして笑ったり、喧嘩したり、人を作って二人で泣いたり、したり、そういったことを求めていたのだ。彼ははっきりとそれを口に出して言わなかった。でも僕はそうなのだとわかっていた。

ある時一緒に列車で學校から帰っていると彼はこんなことを言った。彼はまず言葉を話さない子だったので、僕はしっかり一つ一つの言葉を大切に聞き取った。

「いつも考えていることは、私は実は二人いて、もう一人の私はどこか全く別の場所で楽しく生活をしているんです。そう考えると私は楽になれるんです。苦しいときがあっても、もう一人の私は別の場所できっと幸せな生活をしているんだから大丈夫なんだ、って」

小學校低學年の時、彼は病気にかかった。それが理由で長い間院をしなければならなかった。結局小學校をみんなと卒業することはできず、病院を出た後もあまりにも長い間人と話していなかったせいで無口な子供になってしまっていた。昔友達だった子たちはみんな別々の中學校に行ってしまい、一人ぼっちの彼は中學校でいじめにあった。

☝︎彼の初経は遅れてやって來た。

僕たちは二人で頻繁にどこかへ行くようになっていた。その時は年末で、駅の周りは片付けるのを忘れられてしまったようなクリスマスのイルミネーションできらきらと輝いていた。僕たちは人気のない城のベンチに腰かけていた。彼はぽつぽつとそういった自分のことについての話をした。

「もし私がもう一度院することになっても、あなたは私のことを探さないでください。そっとしておいてほしいのです。」と彼は言った。その時の僕は能天気なもので、彼が僕のそばを離れてしまうことなどないと思い込んでいた。人間というのは本當に危機が迫るまで、何か楽観視しているところがあるものだ。

そして年が明けると僕たちは初詣に向かった。

は日常生活でほとんど言葉を発することがなかった。しかし彼がたまに思い出したように話すとき、言葉の一つ一つが大切に選ばれていて、気持ちがそのまま伝わってくるような気がした。だからすぐに僕は彼が話さないことが気にならなくなった。そして多くを話さないこともまた、僕の好きなところであった。

は丁寧に手帳にその日の出來事を書いていた。僕は一度だけそれを見せてもらったことがある。12月の終わりにばつ印がいくつかついていた。

「ばつ印ってどういう意味?」

「月経が來た日と終わった日。」

なるほど。僕もした日にちをきちんとメモしておくと後々役に立つかもしれない。

3週間ほどでカレンダーが印で真っ黒に埋め盡くされたのでやめた。

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