《デザイア・オーダー ―生存率1%の戦場―》「序章」(2)

空気が激震し、熱衝撃波が『デス・ボート』を派手に煽った。座席の固定がなければ放り出されていただろう強い衝撃が小隊メンバーたちを襲うが、辛くも風から逃げ切った彼らの『デス・ボート』はしせり上がった巖場から威勢よくジャンプし、安全圏へと抜け出す。

ひとまずの危機をし、小隊の面々が興、好奇、安堵、様々なを口にする中、茶髪の年が縦手に対して興気味に話しかける。

「すげえ! 今の作って、目視じゃ間に合わなかっただろ? よく避けられたな!」

『お、臆病者特有の勘って奴ですよ』

臆病な縦手のその回答に、やりとりを橫で聞いていた年指揮長は誰にも気づかれないように、ふっと笑みをらす。

本當の意味での臆病者など、この部隊にはいない。そんなことはわかりきっていた。

敵エネルギー粒子砲群による圧倒的な手數に『デス・ボート』の橫列陣形はほとんど崩壊しつつあった。侵攻部隊の九割がすでに壊滅狀態、五十機が作戦投されていて、一機につき六名ほどが搭乗しているとすると、二七〇名前後は死傷した計算になる。そして味方の數が減するほど、自分たちが敵に狙われる可能は上昇する。

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だが、年指揮兵たちの『デス・ボート』――ブラックオメガ1はそんな狀況でも、味方の先頭を駆け抜けていく。

『ブ、ブブブラックオメガ1、「緩衝地帯」Cラインを突破します! 味方の殘存戦力は五機! ……こ、ここここからは敵エネルギー機関銃、地対地近距離導ミサイル、その他大量の敵兵程圏ですっ。す、全て避けますが、かなり揺れますよっ、かかか覚悟してください!』

縦手のその宣言と連して明らかに機の挙が変化した。左右に激しく蛇行し、ブースターの強弱作の回數も急増加する。

敵攻撃塔『オール・プレス』は懐に潛り込んだ存在を排除するため、先ほどまでの長距離砲撃の代わりに近距離兵裝を起し、迎撃に移行する。無數の銃弾や小型ミサイルがばら撒まかれ、周囲は灼熱の大地と化していく。ブラックオメガ1はかつ大膽な回避行を取り、無茶は承知の軌道で進んでいく。

攻撃塔下部に設置された機関銃の銃口が、まだ生存している『デス・ボート』五機に向けられた。同時、無數の赤いエネルギー銃弾の雨が降り注ぐ。

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『防粒子壁展開は俺に任せておけ! 細かい銃弾くらいならしばらく弾けるぜ! でも、長くはもたねーから、早く突破してくれよっ!』

茶髪の年がそうぶと、ブラックオメガ1の前面に薄青の半明バリアのような障壁が展開された。機を保護する障壁は降り注ぐ真っ赤なエネルギー銃弾を全て弾いていく。

『緩衝地帯』を高速で抜けるためだけに設計された『デス・ボート』の航行速度は伊達ではない。敵との距離は確実に詰まってきていた。しかしそれと同時に、目の前に迫る『オール・プレス』でさえ比較にならないほどの威圧的な超巨大建造へと、そろそろ意識を向けざるを得ない。

――その外観はほとんどが金屬で出來ていた。見た目は歪な城、もしくは巨大な階段。

建造と呼ぶには規模があまりにも巨大、その存在は見わたす限りどこまでも続いている。建造の全周は高い金屬防壁で囲まれており、何も寄せつけることを許さない。

その建造は、地上高三〇〇メートルの『オール・プレス』を遙かに凌ぐ。年たちが対峙し、今も苛烈な攻撃を浴びせ続けてきている強大な攻撃塔『オール・プレス』は、その存在のほんの玄関口を守る門番にすぎない。

機械都市東京。

誰かが初めにそう呼んだ。

そう。目の前のそれはもはや建造ではなく一つの都市だった。

その広大な外縁部は元々存在した舊首都圏環狀線の円環線路の位置と相似していて、かつての日本の首都圏を占拠して造られたその禍々しい鋼鉄の都市は今もなお、日本國民に恐怖を與え続けている。

――『オール・プレス』の攻撃をかいくぐり、機械都市に突する。

それが年たちに課された最初の達目標だ。そしてたったそれだけのことを遂行するために、すでに幾百の人命が失われた。

『ブブ、ブラックオメガ21の、は、反応消失! あ、あれ……?』

「どうした、神楽」

指揮長の年は展開された防粒子壁によって弾かれていく無數の敵銃弾に顔をしかめながら縦手に訊ねる。

『み、味方の機反応が……も、もう……存在しない、んですが……』

「それの何が問題だ。ただ、他の部隊が全滅しただけ。それだけのことだ」

『全滅って……あ、あんなにいたのに!』

「――いいか、神楽。191回。191回だ。それが、突然現れた奴らに居場所を奪われた人類が反撃を試みた回數、そして失敗した回數だ」

『……』

「敵と人類の間には、大きな戦力差がある。とにかくキミは自分の仕事に集中しろ。もうすぐ侵予定地點に到達する」

機械都市の外周は敵の侵を拒むように十メートルほどの高さの分厚い金屬壁で守られていて、侵予定地點もその例にれない。ブラックオメガ1は砂塵を巻き上げ、立ちはだかる金屬壁へと猛スピードで突っ込んでいく。

「――後方司令部。こちらブラックオメガ1、予定ポイントを通過した。速やかに砲撃支援を頼む」

指揮長の年が連絡を送って十數秒。

遙か後方から、數十の理砲弾が放線を描いて飛來し、侵予定地點の壁に次々と直撃していく。散する金屬片、立ち煙る炎の向こうに見える金屬壁には、侵可能な風がぽっかりと開いていた。

同時に『オール・プレス』の主砲がブラックオメガ1の遙か後方、砲撃支援が飛んできた方角へと向けて発され、何かが連続して破されていく振が伝わってきた。破壊されたのは味方が派遣した大量の後方支援用自走式砲臺だ。

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