「でも一さん、さっきからモテない的な反応してますけど、『唯一の生き殘り』の英雄さんなんですし、可いの子いっぱい寄ってくる機會もあったんじゃないですか？」

「まあ、帰還した當時はそんなこともあったな……」

「もしかしてあまりにもヘタレすぎて、寄ってきた大量のの子全員から想盡かされたとか？　もしそうなら、さすがの私も同をじ得ません……」

うう、とどこからか取り出したハンカチを目に當てて涙ぐむ梨々奈。思わずめてあげたくなるほどの完璧な噓泣き姿だ。見た目は可いけれど、よく考えると馬鹿にされてるな……と一が気づいた時には、梨々奈はもうケロッと表を明るくしていて、ふふっと笑った。その笑みもあざとい。

「あ、そうだ。私、撃訓練に來たんでしたっ。すっかり忘れてましたよ」

「撃……」

一は渋い顔をする。それを見て、梨々奈は不思議そうに首を傾げる。

個人的には、一は彼に銃をあまり持たせたくないのだ。可憐なを戦場に送りたくない、とかそういうのとは全く別の理由で。

梨々奈は一が指揮することとなった第１９１機械都市攻撃派遣部隊第八小隊のメンバーである。撃訓練を自主的に行うことはむしろ推奨すべきことだし、ましてや、止することなどできない。

一に預けられた第八小隊は基本的に見知った顔で構されていた。みんなほぼ同年代だ。多數の攻撃派遣作戦による犠牲を重ねて、戦闘に參加できる大人がなくなった結果、現在は年で構される部隊が徐々に増えてきている。

まだ會っていない最強の覚醒者もということだし、小隊の平均年齢はかなり低い。

「最強の覚醒者、か……」

「あ、最強の覚醒者ってもしかして、今度うちの部隊に合流するっていう子ですか？　確か、えーっと……『バーン・バリスタ』！」

むむむ、と唸ってから、思い出したように人差し指をピンと立てて、嬉しそうに笑みを浮かべる梨々奈。どう考えても、自分で可いとわかっていて行おこなっている仕草である。

彼は興味深そうな、キラキラと輝く瞳でずいっと一に顔を寄せてくる。甘い匂いがした。

「どんな子なんでしょうね、一さんはもう會いました？」

顔が近い梨々奈を一は押し戻す。

「まだだ。実はこの後、會う約束をしている」

「え～～！　いいな、いいなっ！　私もついていっちゃダメですか？」

「ダメだ」

「え～～～」

本気で會いたがっていたのか、梨々奈は殘念そうにを尖らせた。

――覚醒者。それは人類が機械生ドレッドメタルに対抗する過程で生まれた副産……いや、もう一つの果と呼ぶべきものだった。

人間と同じ姿をし、それでいて兵の側面を持った彼らは、超常的な能力を発現させて戦闘を行う。一人で一個小隊よりも大きな戦力と見なされることもあるほどだ。

最初に覚醒者が生まれたのは偶発的な事故だった。イグジア粒子を兵に転用する実験の最中に、実験室のイグジア粒子保存容が破裂。イグジアの充満するその部屋に二人の研究者が取り殘された。不幸にも片方は命を落とし、もう片方は一命を取り留めた。

そこまではただの事故だった。だが、生き殘った研究者にはある変化が現れた。

――その研究者は事故以前とは違い、特殊な能力を使うことができるようになっていたのだ。

の一部がイグジアを半永久的に生み出す『永久機関ジェネレータ』に近い構造に変質し、イグジア粒子を行使、外界に介することで特殊な現象を発生させることが可能となった。

大量のイグジア粒子の中にを置いたことがその原因とされ、すぐさまメカニズムの解明、再現を確認する研究が開始された。その後、攻撃派遣部隊に參畫した民間企業群は合同研究によって、適を持った人間であれば、イグジア粒子を使用して特別な能力を発させることができる存在――覚醒者になることができるという研究結果に辿り著く。事故の際、生き殘った研究者には適があり、亡くなった研究者には適がなかったのだ。

そうして、自在に生み出すことが可能となった覚醒者という存在へいきは、機械都市攻略の狀況を大きくかした。

攻撃派遣作戦が開始された當時は大勢の一般兵を投した人海戦が基本だったが、突時はともかく、小型機械生ドレッドメタル相手の戦闘でも、ほとんどの人間が何の功績も挙げられず命を落としていた。しかし、一小隊に対して二、三人の覚醒者を配置することにより、攻撃・防両面において戦闘効率が飛躍的に向上。

それまでの小隊は通常三十人前後で編されていたが、覚醒者混合小隊の編は、五人から七人が基本となっている。その人數で同じ作戦実行能力を持つと判斷されたのだ。

また、機械都市突後には隠行が予想されることも、構人數がなくなった理由だろう。小隊人數の減に伴って、一回の攻撃派遣に投される人數自、初期よりも減傾向にある。

そもそも、人海戦を長年続けてきた影響で、戦力にできる戦闘兵自の數も減っていた。

「私も覚醒者になってれば、『バーン・バリスタ』みたいにもっと注目されたんですかねー？　んーでも、リスクもあるからなぁ……」

「――覚醒者になる機も必要もねーなら、やめておいた方が賢明だぞ。失敗のリスクはでけえからな」

梨々奈と一の間に新たな人影が現れる。

茶に染めた髪と耳に開けたピアス。多暴な格で軽口が多いが、男の一から見ても綺麗な顔立ちをしていて人気が高い年、多たま真しん理りである。チャラついて見える年だが、これでも一と同じ第八小隊の副指揮兵だった。

「ちょっと先輩、先に行かないでくださいよ」

し遅れて真理の後を一人のの子が追ってくる。

彼は古こ谷たにテマ。黒髪で白の彼の顔の造形はとても整っていて、それ故にしだけ冷たい印象を他者に與えるだ。言も相手と距離を置いたものが多いので誤解されがちだがは優しい。テマは基本的に落ち著いているが、真理と一緒にいる時は違う顔を見せることもあった。