《【書籍化】隻眼・隻腕・隻腳の魔師~森の小屋に籠っていたら早2000年。気づけば魔神と呼ばれていた。僕はただ魔の探求をしたいだけなのに~》05

再びベッドに腰かけるリディア。

まだ終わらないのか、と半分諦めに似たため息をついて近くの椅子に座るリーザロッテ。

痛む足を引きずってリーザロッテの後ろに控えたミレイネは忌々しそうにリディアを睨みつけるが、対するミレイネはまるで相手にしていない。

椅子に座ったリーザロッテを見たリディアはワイングラスを右手に移させ、左で瞬間移したボトルを手に取り、注ぐ。

「ほら、魔も飲みな。遠慮すんなって」

「それは妾のものだ。……はぁ、妾は頭が痛くなってきたぞミレイネ」

扇子を戻したリーザロッテは空になった右手を開く。

そこに一瞬にして新しいグラスが現れた。リディアの魔によるもの。

それはワインセラーの近くに置かれていたもののうちの一つ。リーザロッテは橫目で確認すると確かに置かれたグラスが一つそこから消えていた。

リディアの攻撃の際の素振りから、リーザロッテは徐々に彼の魔を解明しつつあった。

(……ふん、あとは制約だけか)

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だが、そこの確証が持てないリーザロッテ。

次に渡されたボトルを手に取り、自らグラスにワインを注ぐ。ボトルを後ろに差し出し、控えていたミレイネがそれをけ取った。

リーザロッテが一口、リディアが一口、ワインを口に含んで舌の上で転がす。

真紅の味さに一瞬リディアの存在を忘れかけるリーザロッテだが、彼とは向かい合っているが故にグラスから目を離すと自然と不愉快なその顔が視界にってきてしまい余韻に浸れない。

グラスから口を離したリディアはワインを飲み込んでから口を開く。

「エインズという魔師について知りたい」

眉をしかめるリーザロッテ。

「あたしの部下にルベルメルがいるんだが、二人は會っているんだったか?」

學院の騒において、キリシヤもリーザロッテもルベルメルと対面している。

リーザロッテはまったく表に出なかったが、そういった面においてまだコントロールが出來ていないキリシヤは分かりやすく顔に出てしまう。

「覚えているなら話が早いな。あたしのルベルメルからの報告に、やけにそいつの名前が出てきてね。一度は手にした原典を奪われただとか、エリアスでの工作を邪魔建てしたのもエインズだとか」

指を折って數えるリディア。

「コルベッリを撃退したのも……、まあこれは別にどうでもいいか。あたし、あいつ嫌いだったしな」

鼻で笑い一蹴するリディアは、太を叩いて続ける。

「まあとにかく、そいつがあたしたちの敵となるのならばそれ相応に対応しなくちゃならない。となれば、まずはエインズのことを知っておかなくちゃな」

「そこでなぜ妾が出てくるのだ」

「お前だって無駄に生きているわけじゃねえんだろう? この世界……は、言い過ぎだがお前以上の生き字引もそういない。なんたって悠久に生きる魔なんだからな」

「ふんっ。……知ってどうする」

「そりゃ、挨拶するに決まっている。禮儀は大切だぜ? 禮に始まり禮に終わる。禮さえ払えばあとはぶん毆っても問題ないんだから、大事だろう?」

「騎士も泣いて悲しむ程に士道を曲解したものだ」

「曲解だろうと解していることには変わりない。十人十な世の中だ、その思考も違うのは當然。それを曲解だと切り捨てるのはナンセンスだぜ、魔

ニヤつきながら語るリディア。もちろん彼も本心で言っているわけではない。

「詭弁はいい。続けろ」

「とりあえず會って話さないことには何も分からない。話せばほら、魔だって意外に無駄話に付き合ってくれるってことも分かるんだから」

次代の明星のトップというからどれだけ偏屈な人間なのだろうかと思っていたリーザロッテだったが、意外ともあるものなのだと驚く。とはいえ、そのヘラヘラした態度が気に障るのだが。

「相容れないと判斷した時は?」

「そうなれば簡単よ、ぶん毆る。禮を払うのもそのためさ、後腐れないだろう? まあ、魔の魔とは相が悪かったけどな」

簡単に考えるリディアだが、彼はエインズの魔を知らない。

ルベルメルから聞いた報告と言っていたあたり、ルベルメルが認識した程度のざっくりとした効果はリディアも聞いているだろう。

だが、

「お前では毆れないだろうな。いいところ引っ掻き傷程度だろうよ」

エインズの魔を知るリーザロッテは意気揚々と話すリディアを鼻で笑う。

「魔はエインズというやつのことを知っているみたいだな、教えてくれよ」

気に障る相手に対して懇切丁寧に教えてやるのも癪にじるリーザロッテ。しかしエインズのあの憎たらしい顔を思い出して、リディアの問いに沈黙で返しどこかエインズを助けるような態度もしたくない。

「……腹が立つ男だ」

そうして絞り出した答えがこれだった。

「ぷっ、なんだそりゃ。魔にしてはやけに人間らしいを吐したものだな。だがまあいい、俄然興味が沸いてきた。つまりは実際に會ってみろってことだな?」

ただ純粋に口から出ただけの言葉をうまく勘違いして捉えたリディアはベッドから腰を上げ、グラスの中を一気に呷った。

「ありがとよ。それじゃ、挨拶に行ってくるわ。穏やかにすめばいいんだけどな」

リディアから攻撃をけたミレイネはリディアのきに即座に構え、その後の向を注視する。

け取れ侍従。うまく摑まなければ落として割らせてしまうぞ」

リディアはグラスをミレイネに放り投げる。

弧を描いてリーザロッテの頭上を通過したグラスは、ワインボトルで片手が塞がったミレイネの元にふわりと落ちてくる。それを気を張ってもう片方の手でけ止めた。

突然のことに安堵の表を浮かべたミレイネを見て小さく笑ったリディアは次の瞬間には忽然と姿を消した。

しばらくしも部屋の中に姿を見せないリディア。

「やっと帰ったか……」

ため息を一つこぼすリーザロッテ。

「私は彼のことを報告に行きます!」

ワインボトルとグラスをテーブルに置いたミレイネは痛む足を引きずり部屋を出ようとしたところ、リーザロッテは彼を呼び止めてポーションを渡す。

「飲め。これで幾分かはましになるだろう」

まさかリーザロッテからポーションを手渡されるとは思わなかったミレイネは目を丸くしてそれをけ取り、すぐに飲み干した。

完全ではないにせよ、傷が癒えたミレイネは報告のためリーザロッテの部屋を後にした。

部屋にはリーザロッテとキリシヤのみが殘り、やっと靜けさが戻ってきた。

「騒がしかったな」

「お疲れ様でした、リーザロッテ様」

「うむ、すまんなキリシヤ。とりあえずキリシヤに大事がなくてよかった」

リーザロッテは空いた椅子にキリシヤを座るよう促し、彼が腰を下ろすのをゆっくりと待った。

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『隻眼・隻腕・隻腳の魔師~森の小屋に籠っていたら早2000年。気づけば魔神と呼ばれていた。僕はただ魔の探求をしたいだけなのに~』

書籍化決定!第1巻【10月8日(土)】発売!

コミカライズ進行中!

詳しくは作者マイページから『活報告』をご確認下さい。

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