《僕の姉的存在の馴染が、あきらかに僕に好意を持っている件〜》第一話・3
練習が終わった頃には、もう夜になっていた。
一曲だけ流してみると言って曲を流した後、彼たちはそれだけでは満足せず、何曲も流しているにあっという間に夜になっていたのだ。
香奈姉ちゃんたちは、僕の家で夕食をご馳走になった後、何故か僕の部屋に來ていた。
「男の子の家に來て夕食をご馳走になるなんて初めてだよ」
「そうだよね。普段は、香奈ちゃんの家で各々夕食を持っていくから、そんな事はなかったよね」
「そう思って、今日も夕食に食べるサンドイッチとかを持ってきたんだけど……。無駄だったかな」
「それは、後で食べれば問題ないと思うよ。それよりも──」
「うん。そうだね」
「そうだよね」
香奈姉ちゃんたちは、そう言って僕の方を見る。
「…それで。僕の部屋に來るってことは、まだ僕に用件があるのかな?」
この後、解散かと思っていたんだけど、全員が僕の部屋に來たので、何の用件があるのか直接訊いてみた。
すると沙さんがずいっと僕の方に近づいてくる。
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「うん。用件があるから君の部屋に來てるんだよ」
「そうそう。やっぱり君にしか頼めないよ」
「どんな用件なの?」
これは音楽絡みじゃないな。
別の案件だ。
そうじたが、僕の部屋にってきていた時點でもう遅い。
沙は僕の手を握ってきて
「君さ。私と付き合ってみない?」
そう言ってくる。
「え?」
僕は突然のことに唖然となってしまう。
唖然となっていたのは、僕だけではなかった。
香奈姉ちゃんもセミロングの髪のの子も、沙を見て唖然としている。
沙の近くにいた奈緒は、呆れた様子で口を開く。
「それって、そんな直球に言うことなの? まだどんな人かもわからないのに言えることじゃないと思うんだけど」
「え~。…いいじゃん。私たちは子校に通ってるんだよ。男の子と一緒にいられることって滅多にないんだよ。ベースの腕前もなかなかだし、顔もまあまあだしさ。…ダメかな?」
「ダメよ。ダメに決まってるじゃない! 弟くんは、沙の気分転換の玩じゃないんだよ」
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と、香奈姉ちゃん。
「え~。せっかくいいじの男子を見つけたのに~」
いいじの男子って……。
そんな風に思える基準ってどこにあるんだろう。
僕のベースの腕前を披した途端にこれだからな。
さっきまで、できるのかって聞きたげな表で見ていたくせに……。
の子っていうのは好みの覚がバラバラだから、よくわからないんだよなぁ。
「とにかく、弟くんに変な仕掛けなんてしないでよ」
仕掛けって……。
僕を目の前にしてそんな事言うのか、香奈姉ちゃんは──
仕掛けしてるのは、香奈姉ちゃんにも思えるんだけど。
「仕掛けをしないでとかって言われても、それには無理があると思うよ」
と、奈緒。
彼はいったい何を言うつもりなのかな。
香奈姉ちゃんは、思案げな表で首を傾げていた。
「どうして?」
「あたしたちのバンドは、楓君以外、全員だよ。仕掛けをしないでと言われてもさ。一つの仕草がそれに繋がることだってあると思うし」
「それは、たしかにそうだけど……」
「それに、香奈のその呼び方にしても無理があると思うよ」
「どういうこと?」
「あたしたちには、さすがに楓君を“弟くん”と呼ぶのは無理だね」
「これは別に……。ただ、その方が呼びやすいからそう呼んでいるだけで……」
「仕掛けはダメって言うのなら、まず香奈が“弟くん”のことを“楓”と呼ばないと説得力がないよ」
「だけど……。弟くんは弟くんだし……」
そりゃあね……。小さい時から一緒だったからね。
その気持ちはわからなくもないけど……。
だけど香奈姉ちゃんの友達からしたら、僕はただの後輩でしかないわけだし。
それは僕も同じだ。
彼たちはたしかに子校に通っているが、僕にしてみれば一応先輩である。
今回、香奈姉ちゃんの友達にこうして會うのも初めてだ。
「はいはい……。まぁ、あたしとしては、そういうことにはあまり興味がないから、どっちでもいいんだけどね」
奈緒は、そう言って僕のベッドの上に座ると腳を組んだ。
あの……。その格好はやめてください。
腳を組むのは勝手なんだけど、このアングルからだとスカートの中が丸見えになるんですよ。
今も、中の下著がチラッと見えてます。しかも見た目のボーイッシュなイメージとは裏腹なピンクの可い下著がね。
「奈緒ちゃんはね。とかには、あまり興味なさそうだからいいんだけどさ」
沙は、奈緒の顔を見てそう言う。
どうやら沙さんも理恵さんも香奈姉ちゃんも、気づいていないようだ。
「まぁね。あたしは、よりもバンドの方が好きだから」
奈緒は、自慢げに言葉を返す。
何を言おうが自由だけど、ホントその格好をやめてください。
それは、十分に仕掛けになってると思う。
ていうか、本人は全然気づいてない様子だし……。
だからといって、僕がここから移するのも不自然すぎる。
「さすがは奈緒ってじがするよ。昔から、そういうことにはストイックだったからね」
「理恵に言われても嬉しくないな。あたしはただ──」
「わかってるって。わたしたちのバンドに夢を乗せてるんでしょ?」
「そう。そのためには、とにかく練習するのみ──」
そう言って、奈緒はギターを持ちやさしく弦をかき鳴らす。
音楽のことに夢中で、自の今の格好に気づいていないなんて……。どこまでストイックなんだろう。
やっぱり、の子を僕の部屋にれるべきじゃなかったかな。
香奈姉ちゃんがってくるから、いつもどおりにれちゃったのが失敗したか。
「そういうことなら、私も練習しなきゃいけないかな。今は、しの時間すら惜しいよね」
「さっきも言ったとおり、文化祭が近いからね。その準備もしながらだと練習時間も限られてくるし」
「とにかく、今日の練習は終わりだから、まだ練習したい人は、各自、家に帰ってから練習してね」
「わかってるって、そんなこと。ついいつもの癖でね」
「いつもの癖って言ってるけどさ。奈緒ちゃんなんてこの間、下著姿で練習してたじゃん! いくらめんどくさいからって、無防備すぎだよ」
「それは、制服から普段著に著替えるのがめんどくさくなっただけだよ。練習もしてたからね」
「いくら練習してたからって、さすがに下著姿は真似できないよ」
「それに暑かったし」
「いや……。たしかにその日は暑かったけど……」
「一人で練習してたから、著替えるのを忘れてただけだよ」
「まぁ、一人でならどんな格好でも構わないんだけどさ」
沙は、そう言って奈緒を見る。
さすがに、僕の部屋で下著姿になるっていう暴挙にはでないと思うけど。
香奈姉ちゃんの例もある。油斷はだ。
とりあえず、ここにいる四人の先輩たちの様子を見ておこう。
どうやら、奈緒はまだ練習し足りないようだ。
今日は、兄貴は練習してないし、別に構わないか。
「まだ練習するつもりなら、僕の部屋じゃなくて、あの部屋でやってね」
「まだあの部屋を使っても大丈夫なの? 楓君」
と、奈緒は思案げな表で訊いてくる。
「兄貴はまだ帰ってきてないし、もうしだけなら使っても問題ないと思う。ただし、泊まりはダメだよ」
「泊まりはダメって……。あの部屋に泊まる人がいるの?」
「うん。兄貴のバンドメンバーさんが、たまに泊まりがけで練習しにくるんだ」
「なるほど」
「それ、私も知ってるよ。たしかテツさんだったよね?」
「そうだよ。──兄貴の親友でさ。よく家にも遊びにくるんだ」
やっぱり香奈姉ちゃんは、その人のことを知ってるか。
兄貴のバンドにわれたことがあるから、“テツ”さんの事を知っていても不思議じゃない。
「なるほどね。私は、隆一さんのバンドにはわれたけど、らなかったんだよね」
「そうなんだ」
まぁ、兄貴のバンドにらなかった理由については敢えては聞かないでおこう。
香奈姉ちゃん自がバンドを結してるくらいだから、方針や大義が違ったんだろう。
「──ところでさ。このベッドの下、何かありそうなんだけど、ここには何があるのかな?」
「え?」
奈緒の言葉に、僕は本能的にそちらを向いた。
奈緒は、ベッドの下に手をれて、何かを探している。
──ちょっと、やめてください。
ベッドの下になんか何もないから。お願いだから、やめてください。
「あー。それ私も気になったんだよね」
「男の子って、大抵ベッドの下にエッチな本とかいれてるんだよね。楓君はどうなのかな?」
「弟くんの。なんだか余計に知りたくなっちゃったよ」
ところが奈緒だけでなく、沙や理恵、さらには香奈姉ちゃんまで興味を持ったようだ。
殘念ながら、そこにっているのはエッチな本なんかじゃない。
音楽雑誌だ。
しかし、ベッドの下から出てきたものは、僕の予想を上回るだった。
奈緒さんは、ベッドの下にあるを取り出して唖然となる。
「何これ?」
「え?」
僕は、ベッドの下から出てきたを見て唖然となってしまう。
それは、18のアダルト雑誌だった。
「最低……」
と、沙さん。
奈緒さんと理恵さんに関しては、意味深な笑みを浮かべ
「やっぱり楓君も男の子なんだね」
「なんかし安心したかな。の子に興味がないのかなって思ったよ」
そう言う。
「違う! これは僕のじゃ──」
僕は弁明しようとしたが、近くにいた香奈姉ちゃんの迫力に言葉が止まってしまった。
香奈姉ちゃんの前で、エッチな本や漫畫、エッチな事などは止である。
もしそれらがバレたら……。
考えただけで恐ろしい。
「弟くん。これは一何なのかな?」
香奈姉ちゃんは、凄まじい迫力で僕に迫ってくる。
普段どおりの笑顔だが、目が笑っていない。
僕は、慌てた様子で口を開いた。
「これは違う! 僕のじゃない! そもそも、そんなものベッドの下になんかれた覚えもないよ」
「ふ~ん。そうなんだ」
あ……。
全然信じてない。
むしろ疑ってる。
「それじゃ、これは何かな?」
と、奈緒はさらにベッドの下から、あるを取り出す。
「なっ…… ︎」
それを見て、僕は絶句する。
それは、男がいかがわしい行為をする時に使われるアレだった。
しかも使用前の新品である。
これには、さすがの香奈姉ちゃんも赤面してしまう。
「何で弟くんの部屋にそんなものがあるのよ?」
「そんな事言われたって、僕にはわからないよ。今、それがある事に気づいたんだから」
「なるほど。楓君のじゃないって事は、お兄さんのになるのかな?」
「たぶん、そうかもしれない。…それにしても、それを実で見るのは初めてかも」
「弟くんには、まだ早いよ! …奈緒ちゃんも、いつまでそれを持っている気なのよ」
「あたしは、別にそんなんじゃ……。ただ気になっただけで──」
香奈姉ちゃんは、奈緒さんが持っているアレを強引に奪い取る。
「とにかく、それは私が預かるから。奈緒ちゃんもこれ以上、弟くんの部屋の中をしないで!」
「いや、そう言われても。男の子の部屋は初めてだったから、つい……」
いくら初めてでも、僕のベッドの上に座って、ベッドの下を探るなんてのは、やっていいことじゃない。
「噓をついてもダメだよ。奈緒には、弟がいるの知ってるんだから」
「弟って言っても、まだ小學生だよ。こんなエッチな本は持っていないし、まともにはわからないと思う」
「それでも、弟くんのベッドの下を探るなんてのは、やっちゃいけないよ」
「わかってはいるんだけどさ。男の子の部屋にったら、なんかこうやってみたくてさ。うずうずしちゃうんだよね」
奈緒は、全然懲りていないのか笑顔を見せて言う。
普通に音楽雑誌が出てきたら、逆に不満げな顔をするんだろうな。この人の場合。
「弟くん。後で話があるから、みんなが帰った後、いい?」
「いや……。この後は、今日の宿題があるから無理かな」
「しだけ、時間とってくれればいいから。…時間あるよね?」
香奈姉ちゃんは、手にアダルト雑誌とアレを持ったまま靜かな口調で言う。
あ……。これは香奈姉ちゃん、何か言いたげだ。
笑顔を浮かべているが、今は、逆にそれが恐い。
なんか見てるだけでも、すごい迫力がある。
「う、うん。しだけなら……」
僕の口からは、そうとしか言えなかった。
斷ったら、後が恐いし。
奈緒さんたちはあの部屋でし練習した後、各々家に帰っていった。
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