《僕の姉的存在の馴染が、あきらかに僕に好意を持っている件〜》第一話・5
僕の姉的存在の馴染である西田香奈は、品行方正・眉目秀麗・績優秀と三拍子揃ったの子で、男子校ではちょっとした有名人である。
その綺麗な容姿に相まって、誰にでも分け隔てなく気遣う優しさが男子校に通う男子たちから慕われてしまう要因だ。
當の本人もかなり気さくな格であり、同じ子校の間でも友人が多いらしい。
もちろん男子校の男子たちが何人も手紙を送り、告白されていたこともあった。
しかし香奈姉ちゃんの返事はノーで、何人も斷られてしまったらしい。
「お。西田先輩、発見。今日も、相変わらず綺麗だな」
と、僕の友人である風見慎吾は、登校中の香奈姉ちゃんを見て微笑を浮かべた。
「そうだね。いつもの香奈姉ちゃんだ」
「お前、いつまで西田先輩の事を“香奈姉ちゃん”って呼ぶつもりなんだ?」
「ん? 香奈姉ちゃんも、僕のことは“弟くん”って呼んでるし、お互い様かなと……」
「そうなのか? そういうもんなのか?」
慎吾は、不思議そうな顔をして僕を見る。
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風見慎吾も、香奈姉ちゃんに告白した者の一人だ。
もちろん斷られてしまったが。
「そういうものだよ。…どっちにしても、僕にとって香奈姉ちゃんは、香奈姉ちゃんだよ。僕の姉的存在でしかないよ」
「なんにしたって、まわりはお前の事を羨ましいとさえ思っているはずだぜ」
「羨ましい? どうして?」
僕は、思案げな表を浮かべる。
すると慎吾は言った。
「お前は、あの西田先輩と馴染なんだぞ。馴染ってことは、家族ぐるみでの付き合いもあるってことだろ?」
「それは、そうだけど……」
「しかもお前は、西田先輩から“弟くん”っていう稱で呼ばれてるしさ」
「いや……。さすがにこの歳で“弟くん”って呼ばれるのは、恥ずかしいよ」
「だけど、西田先輩が一番信頼と好意を寄せているのはお前って事になるだろう」
「そうなのかな?」
「そうに決まっているだろ。西田先輩は、今も誰とも付き合っていないんだぜ。もし本命がいるとしたら、誰が考えられるっていうんだよ」
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「わからないよ、そんな事。僕はあくまでも“弟”だしさ。香奈姉ちゃんも、そこまで考えていないと思うんだ」
「それじゃ、この前のバレンタインデーのチョコレート。誰から貰った?」
慎吾が言っているのは、あの時貰ったチョコレートの事だ。
僕は、そこまでの子にモテたりしないので、チョコレートの箱を見て不思議に思ったんだろう。
「それは、僕がまだ中學生だった時に香奈姉ちゃんから貰ったものだから、今は関係ないでしょ」
「やっぱり西田先輩から貰っていたか……」
慎吾は、そう言ってがっくりと肩を落とす。
何をそんなにショックなのかわからないけれど。
今年のバレンタインデーは中學卒業前だったので、香奈姉ちゃんがその記念にと僕にくれたのだ。
あくまでも義理であって、本命ではない。と、思う。
斷言はできないけど。
「ただの義理チョコだよ。僕は、別にバレンタインデーになんて興味もなかったから、香奈姉ちゃんに渡された時もそこまで意識してなかったよ」
「とにかく、お前が羨ましいよ。西田先輩からバレンタインデーのチョコを貰って、さらに“弟くん”と呼ばれてされてるんだから」
慎吾は、そう言ってため息を吐いていた。
もちろん義理チョコでも、一応貰ったものだから、その時のチョコのお返しにと思ってクッキーを渡しといたけどさ。
そういえばクッキーを渡した時、すごく喜んでいたな。
嬉しそうに『ありがとう』って言っていたけど、本命は別にいると思って、気にもしなかった。
──まさかね。
香奈姉ちゃんが、僕に好意なんて向けてなんていないだろう。
香奈姉ちゃんは、學校に向かって歩いている僕の姿に気がつくと、満面の笑顔を見せて
「おはよう、弟くん!」
と、挨拶してきた。
その瞬間、隣を歩いていた慎吾はビクッとなってしまい
「あ、俺は先に行くから──。じゃあな」
そう言って、先に走り出して行ってしまう。
僕は引き止めようとしたんだけど、慎吾のあまりの早さに、腕を摑むことさえできなかった。
仕方ないので、僕は香奈姉ちゃんに視線を向けて挨拶を返す。
「おはよう、香奈姉ちゃん」
「今日も、練習あるからね。あの場所で集合だよ」
「わかった。バイトが終わったら、すぐに行くよ」
「あ……。そういえば、今日は私もバイトがあるんだった」
香奈姉ちゃんは、思い出したかのようにそう言うと、がっくりと肩を落としていた。
香奈姉ちゃんが、喫茶店でバイトしているのは僕も知っている。
「それじゃ、お互いにし遅くなりそうだね」
「うん。そうだね」
香奈姉ちゃんは、微苦笑してそう言った。
しばらく無言のまま歩いていくと、香奈姉ちゃんは、いきなり僕の腕を摑む。
「香奈姉ちゃん? どうしたの?」
「今度の日曜なんだけど……。どこで買いしようか?」
「僕はどこでも構わないけど」
「またそれ! ──いい、弟くん。男の子はね。の子をちゃんとエスコートしないとダメなんだよ。そんなテキトーじゃの子も喜ばないよ」
「あ、はい。ごめん……」
「そんなことじゃ、日曜のデート……じゃなくて、日曜の買いが心配だなぁ~」
デートなのか。これって……。
ただの買いかと思っていたのだけれど。
というか、たかだか買いで何を心配する必要があるんだろう。
「大丈夫だよ、香奈姉ちゃん。ただの買いなんだから。しいものを買うだけでしょ」
「そこが甘いのよ。今時の男はね。買いする時は、常に男の子がの子を優しくエスコートするものなのよ」
「それってまさか、下著とかを買う時とかもそうなの?」
「いや……。さすがに下著とかは無理だけど……。それでも好きな人同士なら一緒に……。ううん。好きな人同士なら、下著とかも一緒に……。うう……」
香奈姉ちゃんは、恥に顔を真っ赤にして獨り言のように言う。
なんか一人で妄想を発させてるし……。
「香奈姉ちゃん?」
「とにかく! 弟くんは、私をしっかりエスコートしないとダメなんだからね! わかった?」
「よくわからないけど、僕が香奈姉ちゃんをエスコートすればいいんだよね? わかった。頑張ってみるよ」
とりあえず、香奈姉ちゃんをしっかりエスコートすればいいのか。
ただの買いも、男で行くと大変なんだな。
「それじゃ、私はこっちだから──」
香奈姉ちゃんは、近くにあった橫斷歩道の先に視線を見やる。
子校は、男子校とはそんなに距離が離れてるわけではない。
だが、一緒に歩いているところを子校の生徒なり男子校の生徒に見られたら、それだけで話題になってしまう。
特にも、香奈姉ちゃんは人気の高いの子だ。
僕も、それなりに気を遣わなければならないだろう。
「うん。それじゃ、後で──」
「後で、例のあの場所でね」
香奈姉ちゃんは軽くウィンクすると、そのまま走り去ってしまった。
──さて、僕も學校に向かわなきゃいけないだろう。
僕は踵を返し、そのまま歩き出す。
今日は、どんな一日になるだんろう。
特に何もなければ萬々歳なんだけど。
香奈姉ちゃんと歩いていた事は、他の生徒たちに見つかっていないよな。
どちらにしても、學校にいるまでの間は、普通の生徒として目立たないようにしなければ。
僕は、真っ直ぐに男子校に向かって歩いて行った。
學校の下駄箱に到著すると、數人の男子が話しかけてきた。
「なぁ、おい」
「ん? どうしたの?」
「お前、向かいの子校の西田さんと歩いていたのを見たんだけど、何なんだ、アレは? お前、西田さんと付き合っているのか?」
「え? 香奈姉ちゃんと? …香奈姉ちゃんとは馴染だし、一緒に歩いていたって不思議なことじゃないと思うんだけど……」
「俺は、付き合っているのかって訊いてるんだ。どうなんだよ?」
と、一人の男子は強引に僕の肩に摑みかかり、そう訊いてくる。
僕は、當然のごとく嫌そうな素振りを見せ、言う。
「香奈姉ちゃんはどうかは知らないけど、僕は付き合ってはいないとは思う。それがどうかしたの?」
「そうか。付き合ってはいないんだな?」
「う、うん。たぶん……」
「そっか、そっか。それなら安心した」
「安心したって、何が?」
「お前には関係ないだろ! …とにかくだ。西田さんの事は、俺に任せておけ」
何を任せろっていうんだろうか。僕には、さっぱりだ。
まぁ、ともかく──
僕に答えられる範囲の返答はした。
香奈姉ちゃんのバンドにっているから、付き合っているのかどうかと聞かれても、僕にはなんて答えればいいのかわからないし。
昨日のキスの事に関しては、香奈姉ちゃんの気持ちがわからないので無効だ。
「任せろって、何を?」
「俺は今日、西田香奈に告白するんだ」
「香奈姉ちゃんに告白するのか。…なるほど」
「──それでだ。この想いを西田さんに屆けるには、お前の応援が必要になる。だから、是非とも、俺と西田さんの仲を祝福してほしいんだよ」
彼は、僕にそう言ってくる。
そこで、何で僕の応援が必要になるのかわからないんだけど。
これは、あくまでも香奈姉ちゃんの気持ち次第であって、僕の応援とかが重要というわけじゃないんだけどな。
僕はふとにれ、微苦笑する。
「告白。上手くいくといいね。応援してるよ」
「そうか。応援してくれるか! お前の応援があれば百人力だ。西田さんへの告白も上手くいきそうな気がするぜ!」
「そうだね」
「ありがとな。これで俺も憧れの西田香奈と付き合える気がする」
「よかったね」
こうなると、もう彼のしたいようにさせるしかないでしょ。
そうしないと、彼が納得しないわけだし。
ちなみに香奈姉ちゃんに告白した男子は數知れずで、言うまでもなく斷られている。
今回も、どうなんだか怪しいものだ。
香奈姉ちゃんに近い人の僕に言ってくるあたり、本気なんだろうな。
「おう! お前も、姉ちゃんばっかり追いかけるんじゃなくて、新しく彼を見つけろよ。…でなきゃ、青春逃しちまうぞ」
「うん、余裕ができたらそうするよ」
僕は、立ち去る彼にそう言っていた。
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