《僕の姉的存在の馴染が、あきらかに僕に好意を持っている件〜》第二話・1
約束の日曜日。
今日は、香奈姉ちゃんと買いに行く日だ。
待ち合わせ場所は僕の家とのことらしいが、肝心の待ち合わせ時間を決めていない。
いったい何時に來るつもりなんだろうか。
すると──
ピンポーン。
と、家の呼び鈴の音が聞こえてくる。
今日は両親ともいないので、僕か兄が出るしかない。
しかし兄の部屋から兄が出てくることはなく、それどころかギターをかき鳴らす音が聞こえてきたので、これはもう出るつもりはないのだろう。
仕方なく僕が出ることにした。
「はーい」
「私。香奈だよ、弟くん」
「香奈姉ちゃん」
僕は、躊躇うことなく玄関のドアを開ける。
そこには、お出掛け用に可い服裝に著替えていた香奈姉ちゃんの姿があった。
普段の格好でも十分にイケてるのに、今回はなんかいつも以上に可い。
「おはよう、弟くん。迎えに來たよ」
「あ……。ちょっと待っててね。今、買いに行く準備してくるから」
「それじゃ、弟くんの部屋まで一緒に行って待っててあげるよ」
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「いや……。これから著替えるから、一緒にって言われても……」
「しくらい、いいじゃない。それとも、私が弟くんの著替えを見るのは、なにかと都合が悪いの?」
「いや、そんな事はないけど……。やっぱり異に著替えを見られてしまうのは、さすがに恥ずかしいよ」
「恥ずかしい…か。私は、弟くんに著替えを見られても恥ずかしくないんだけどな」
何言ってるんだよ、香奈姉ちゃん。
さすがに香奈姉ちゃんが著替えてる姿なんて、想像するだけでも罪なことだと言うのに……。
「香奈姉ちゃんはそうでも、僕は十分に恥ずかしいよ。とにかく、居間で待っててよ。すぐに著替えてくるからさ」
「仕方ない。それじゃ、お言葉に甘えて待っているとしますか」
そう言って香奈姉ちゃんは、家の中にって、居間へと向かう。
香奈姉ちゃんには、しばらくそこで待ってもらって、僕は自分の部屋へと向かっていく。
とりあえず僕は、著替えに行くとしよう。
僕と香奈姉ちゃんが向かった場所は、電車で二區間行ったところにある大きなショッピングモールだった。
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休みの日ということもあり、同い年くらいの男のカップルなどが街中を歩いている。
「わぁ。やっぱり人がたくさんいるね」
「そうだね。日曜日ってこともあって、カップルがたくさんだ」
「カップルか……。私たちも、見方によってはカップルになるのかな?」
と、香奈姉ちゃんはふいにそんな事を聞いてきた。
いきなり何を聞いてくるんだよ。
そんなのあり得るわけないだろ。
「それはないと思うよ」
「どうして?」
香奈姉ちゃんは、思案げな表で首を傾げる。
「だって僕と香奈姉ちゃんって、姉弟みたいなものじゃないか。そんな風に見られることなんて絶対にないよ」
「そうだよね。私と楓君は、あくまでも姉と弟なんだもんね。カップルになんて見られないよね」
「そうだよ。カップルになんて見られるはずがないよ」
「そっか……。カップルには見られない…か。それは、ちょい厳しいな……」
香奈姉ちゃんは、アハハと苦笑いしながらそう言っていた。
間違ってもこれはデートではなく、ただの買いだ。
香奈姉ちゃんにとってはどうだかわからないが、なくとも僕はそう思っている。
だから僕は、あまり意識しないように努めている。
やはり一緒に歩いていると、男の人たちの視線が痛い。
彼らは、ボソボソと小さな聲で
「なんであんな男なんかと……」
とか──
「クソッ! あの男が邪魔で聲をかけられない……」
などの聲が聞こえてくる。
それは香奈姉ちゃんにも聞こえたみたいで、僕の腕をギュッと組んできていた。
どうやら香奈姉ちゃんも、まわりの男の人たちの視線は嫌なものらしい。
「ところで弟──いや、楓君。楓君が行きたい場所はある?」
と、わざわざ僕のことを“楓”と呼んで、呼び方を変えてくるあたり、彼らに悟られたくないんだろう。
「いや、僕は特に行きたい所は……。香奈姉ちゃんは──痛っ!」
僕がそう言うと、香奈姉ちゃんはまわりに気づかれないように僕の腕を軽くつねってくる。
思わず香奈姉ちゃんの顔を見ると、何やら不機嫌そうに表をムッツリさせて
「香奈“姉ちゃん”はやめてほしいな。私のことは、“香奈”って呼んでよ。ほら──」
と、言ってきた。
──いや。そんな事を言われても……。
今まで、香奈姉ちゃんの事を呼び捨てにした事なんてないし……。
「さすがに香奈姉ちゃんの事を呼び捨てには…痛っ!」
「何? 聞こえない。何だって?」
香奈姉ちゃんは、笑顔で僕の腕をさらにつねってきた。
こうなると、何を言っても聞かないのが香奈姉ちゃんだ。
「…わかったよ、香奈さん。だから、僕の腕をつねらないで……」
僕は、痛そうな素振りを見せてそう言う。
香奈姉ちゃんは、僕の態度を見て仕方ないと言ったようにため息を吐いた。
「まぁ、香奈さんで我慢してあげるよ」
「ごめん……。香奈姉ちゃんは先輩になるから、どうしてもその呼び方しかできないんだ」
「言われてみれば、そうだね。…ごめん。私も大人気なかったよ」
なんとか、わかってもらえたようだ。
何度も言うが香奈姉ちゃんは、姉的存在であって先輩でもある。だから、尊敬の念を持って接さないといけない。
については、僕にはまだ早いと思う。
「謝らなくてもいいよ。…それより、香奈さんの買いを済ませようよ」
「え? あ、うん。そうだね。私の買いはね。この先を真っ直ぐに行ったところにあるんだ」
「そうなんだ」
「行ってもあんまり面白くないよ」
香奈姉ちゃんの買いってなんだろう。
僕をうくらいだから、逆に気になるな。
「何を買う予定なの?」
「それはねぇ~。だよ」
「今、向かっているのになの?」
「うん。今、言っちゃったら、たぶん楓君は行きたがらないと思うから……」
「僕が行きたがらないようなお店? …どこだろう?」
まったく見當がつかない。
僕が行きたがらないようなお店って言われたって、ヒントも無しじゃわかるわけないじゃないか。
「まぁ、とりあえずは行ってからのお楽しみってことで」
「わかった。それじゃ、行ってみよう」
僕たちは、比較的ゆっくりとした足取りでショッピングモールを歩いて行った。
このショッピングモールは、普通に男子校の生徒たちと子校の生徒たちがよく歩いている。
案の定、香奈姉ちゃんと歩いていたら、よく知ってる男子校の生徒たちが歩いていた。
休日なので、もちろん全員私服だ。
彼らはこの間、學校の下駄箱前で僕に話しかけてきた男子たちだった。
同學年では見ない顔だから、おそらく先輩だろう。
僕は、気づかれないように顔を背けて歩き去ろうとしたが、香奈姉ちゃんと腕を組んで歩いていたため、すぐにバレた。
「おう。お前はたしか周防だったな。今日は彼連れか?」
「彼ってわけじゃないんだけど……」
「彼じゃないだと? …って、何でお前が憧れの西田さんと腕を組んで歩いているんだよ!」
先輩の男子たちは、腕を組んでいる相手が香奈姉ちゃんだとわかった途端、ものすごい剣幕で接近してくる。
──近い近い!
顔がすごく近いって。
「こんにちは。もしかして楓君の知り合いかな?」
僕の傍らにいた香奈姉ちゃんは、そんなことを知ってか知らずか普段のスマイルで、先輩の男子に挨拶する。
「こんにちは、西田さん。周防君とは、先輩後輩の仲なんだよ。な? 周防」
「そうらしいね」
「ふーん。そうなんだ」
僕と先輩の男子のやりとりに違和をじたのか、香奈姉ちゃんは、し訝しげな表を浮かべていた。
それを悟られたくないのか、先輩の男子たちは香奈姉ちゃんにずいっと迫る。
「ところで、今日はどこに行く予定で?」
「今日は、楓君と“デート”なんだ」
「デートですか。それは一、どういう事なのかな?」
先輩の男子の一人は、そう訊いてきた。
外面的には笑顔を浮かべていたが、目は笑ってはいない。
あきらかに僕に敵意を持っている。
香奈姉ちゃんは、その事に気づいたのかがっしりと僕の腕を摑み、わかりやすいように説明した。
「どういう事も何も、私がったんだよ」
「え?」
「楓君と約束しててね。日曜日に買いに行こうって言ったらオーケーもらえたから、來ちゃったのよ」
「あの……。それって……。俺たちも一緒に行ってもいいですか? 二人だけよりも、三人以上の方が楽しいと思うし」
「それはその……」
そう言われると、なんか斷り辛いなぁ……。
そう思って何とか口を開くも、言葉になって出てこない。
すると香奈姉ちゃんは笑顔で──
「ごめんね。今日は他の男の子とは一緒に歩きたくないんだ。それでも一緒に歩きたいなら、他の子を當たってください」
ちょっときつめの、香奈姉ちゃんの一言だ。
その言葉に先輩の男子たちは、嫉しそうに僕を見て
「…わかりました。今日は諦めます」
そう言った。
そして、まだ諦めがついていないのか
「…だけど、日を改めてまた伺います。それじゃ──」
そう言い殘して、先輩の男子は去っていった。
先輩の男子が去ってし経った後、香奈姉ちゃんから聲をかけられる。
「あの人たち──。ホントに楓君の知り合いなの?」
「學校の先輩だよ。…たしかあの人の名前は、滝沢先輩だったかな」
「なるほど、滝沢君ね。覚えたよ」
「別に覚える必要なんてないかと思うんだけど……」
「何言ってるの。また伺うって言っていたから、また來るかもしれないじゃない。──もし近づいてきて、楓君に何かしたら、私が許さないんだから。私が敗してあげる」
「それは、頼もしいね」
多分、目的は香奈姉ちゃんかと思うんだけどな。
あの時、香奈姉ちゃんに告白するって言っていたしさ。
「それに楓君もだよ!」
「何で僕も ︎」
「楓君は、私以外のの子と仲良くなったりしちゃいけないんだからね!」
「そんな橫暴な……」
勘弁してよ、それは……。
僕が誰にしようが、そんなの勝手でしょ。
「橫暴なんかじゃないよ! 浮気防止だよ!」
「浮気って……。僕たち、付き合っているわけじゃないのに……」
「たとえ付き合っていなくたってだよ! 楓君は、私以外のの子と付き合ったりしちゃダメなんだよ!」
香奈姉ちゃんは、そう言ってギュッと腕にしがみついてくる。
もう言ってる事がむちゃくちゃだ。
さっきの先輩たちが香奈姉ちゃんに言い寄って來たのが、かなり不愉快だったらしい。
そうでなかったら、香奈姉ちゃんがこんな事を言うはずがない。
「…わかった。わかったから、しがみつくのだけはやめてよ。恥ずかしいよ」
「わかったのなら、いいよ。──聞き分けのいい弟くんを持って私は幸せだ」
香奈姉ちゃんは、満面の笑顔を浮かべるとさらに強くしがみついてきてそう言っていた。
どうやら、聞く気はないようだ。
もしかして、香奈姉ちゃんが行こうとしてるお店までこの狀態なのか?
周りを見れば、僕たちのことを羨ましそうな目で見てくる人もいるし。
さすがにこれは視線が痛い。
僕はさすがに気恥ずかしくなってきて、苦笑いをして香奈姉ちゃんと一緒にショッピングモールの中を歩いていった。
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