《僕の姉的存在の馴染が、あきらかに僕に好意を持っている件〜》第二話・2
「ここが香奈さんが來たかったお店なの?」
僕は、呆然とした様子で香奈姉ちゃんにそう聞いていた。
香奈姉ちゃんは
「そうだよ。前からしい下著があったんだけど、楓君が気にいるかどうか確認したくてね」
笑顔でそう言う。
──そう。
ここはの下著を専門に扱うランジェリーショップだ。
はっきり言うもなにも、僕には場違いなところである。
「いや、無理だから!」
「どうして?」
「僕に、の下著の事を聞かれたってわからないよ」
「いやいや。楓君なら、どの下著が好きなのかって確認したいんだよ」
「いや、マジで無理だって。香奈姉ちゃん! お願いだから、そういうのは自分で決めて買ってよ!」
「え~。せっかく連れてきたのに……」
「僕を連れてきて、何がしたいんだよ」
「楓君にも、選んでほしいなって思って」
「僕に香奈姉ちゃんの下著なんか選べるわけないじゃないか! それに、こんな所に僕がいたら変態みたいだよ!」
「そんなことないって……。私と一緒なんだし、全然問題ないよ」
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「問題大ありだよ。誰が好き好んでカップルでランジェリーショップに來る人間がいるんだよ! もうすでに周囲の視線が痛いんですけど。それに何より、すごく恥ずかしいよ」
「そんなに恥ずかしいことかな? 私なんか、男のパンツなんか見ても、何もじないけど……」
香奈姉ちゃんは、思案げな表でそう言う。
たしかにって、男のパンツを見ても恥ずかしがる素振りを見せないよね。
たまに神経が図太いんじゃないかと思うくらいだ。
「男とじゃ、全然違うって。僕なんかはの下著を見るだけでも、恥ずかしさでいっぱいになっちゃうよ」
「そんなものなのかな。私は全然平気だけど……」
香奈姉ちゃんの言葉は、品行方正なの子の発言とは思えないものだった。
「香奈姉ちゃんには平気でも、僕には十分に刺激的だよ。──とにかく、僕はし離れたところで待ってるから、ゆっくり見てくるといいよ」
「待って」
と、お店から離れようとした僕を、香奈姉ちゃんが腕を摑み引き止める。
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「私の側から離れないでよ。下著は選ばなくていいからさ」
「どういう理屈なんだよ。それ……」
「ほら。楓君が一緒なら、私も安心して買いできるし。楓君の買いにも付き合うことができるから」
それだと、僕までランジェリーショップにらなきゃいけなくなるじゃないか。
さっき恥ずかしいと言ったはずなのに、何を聞いていたんだろうか。
「ね。お願い。今日は、私に付き合って」
しかし香奈姉ちゃんは、僕の気持ちなど知ってか知らずか普段の笑顔を浮かべてそう言ってくる。
うう……。そんな笑顔を見せられたら……。
「…わかったよ。今回だけだよ」
そんな香奈姉ちゃんのお願いを無下にする事ができず、僕はそう言う。
こんなだからダメなんだな。僕も……。
「──ねぇ、楓君。この下著はどうかな? 私に似合うかな?」
香奈姉ちゃんは、嬉しそうな様子で下著を手に取り、僕に聞いてくる。
そんなこと聞かれても、の下著の事を僕が知るわけがない。
僕は、苦笑いをして
「う、うん。似合うんじゃないかな」
と、答える。
これが下著じゃなくて、の洋服なら苦笑いなんてしなかったと思う。
「それじゃ、これはどうかな?」
香奈姉ちゃんは別の下著を手に取り、さらに聞いてくる。
これについても、僕は苦笑いをして、こう答えた。
「…似合うと思うよ」
「なんかテキトーに答えてない? 楓君」
香奈姉ちゃんは、何を思ったのか疑わしげな表で言ってくる。
さすがに、売りとはいえの下著を見るのは恥ずかしい。
だけど僕は、できる限り平靜を裝う。
「そんな事はないよ。ちゃんと真面目に答えてるよ」
「噓。それだったら、ちゃんとこの下著を見てよ」
と、香奈姉ちゃんは、僕に売りの下著を見せてきた。
どっからどう見ても、見せにきたのは白とピンクが混じった普通の下著だ。
別段、変わったところはなさそうだけど……。
「どうしたの、香奈姉ちゃん? その下著に何かあるの?」
「別に何もないよ。ただ、私に似合うかなって思って……」
香奈姉ちゃんは、恥ずかしそうにそう聞いてくる。
そういえば香奈姉ちゃんのバストサイズって、そんなに大きかったっけ?
まぁ、僕には関係ないからいいんだけどさ。
「似合うと思うよ。ただ、その下著を他の人に見せるかどうかは別として…だけど」
「うん。絶対に見せるよ。楓君には……」
「え?」
僕は、呆然とした表で香奈姉ちゃんを見る。
香奈姉ちゃんは、急に恥ずかしくなったのか赤面して言う。
「あ……。何でもない。たぶん楓君に選んでもらった下著は、絶対に著用すると思うんだよね」
「そうなんだ」
僕が選んだ覚えはないんだけどな。
「それじゃ、今回はこれにしてみようかな」
香奈姉ちゃんは、手にした下著が気にったのか店員さんに試著してみたいと言った後
「ちょっと待っててね。試著してみるから」
と言って、試著室にっていった。
こんな時、絶対に知り合いなんかと會いたくないな。
そう思った矢先、誰かが僕に話しかけてくる。
「やぁ、誰かと思えば楓君じゃないか。こんな所で何をしてるんだい?」
「うっ……」
焦り気味に振り返ると、そこにいたのはショートカットのの子だ。
話しかけてきたのは、バンドメンバーの北川奈緒だった。
彼は、他の買いがあったのか買い袋を手に持って、僕に近づいてきた。
「これはその……」
まさかこの狀況で、奈緒さんに會うなんて……。
しかも都合の悪いことに、香奈姉ちゃんは今、試著室の中で下著の試著中だ。
つまり、僕だけこの場所に取り殘された形である。
どうする。
この場は、適當に言ってやり過ごすか。
見たところ、噓や冗談が通じる相手でもなさそうだし。
「まさか……」
と、奈緒さんがしどろもどろになっている僕を見て、何かを察したかのように言った。
「あの……。だから、これは……」
「誰かと待ち合わせかい?」
「いや、そうじゃなくて……」
やばい。
こんな所で何を言っても、言い訳にしかならないような気がする。
すると試著室の中から香奈姉ちゃんが顔を出す。
「ねぇ、楓君。この下著どうかな? 似合ってるかな?」
「え?」
それに反応したのが奈緒さんだ。
奈緒さんは、僕がく前に香奈姉ちゃんのいる試著室へと向かっていく。
おそらく、そこにいたのは下著姿の香奈姉ちゃんだろう。
本來なら、僕が香奈姉ちゃんの下著姿を拝んでいるところだが。
「香奈じゃない。何やってるの? こんな所で」
「…あれ? 奈緒ちゃん? 何でこんな所に?」
香奈姉ちゃんは、奈緒さんを見てそう聞き返していた。
「あたしは、ちょっとしたものを買いに來ただけよ。香奈は一何をしているの?」
「いや……。弟くんを連れて買いに…ね」
「ふーん。弟くんを連れてランジェリーショップにね。なるほどね」
「違うんだよ。ここに立ち寄ったのは、気にった下著があったからであって、別に深い意味は……」
「深い意味…ねぇ。ふむふむ……」
奈緒さんは、僕を見て何かを理解したのか小さく頷く。
香奈姉ちゃんは
「ちょっと待って」
と、言って試著室のカーテンを閉め、中でいそいそとし始める。
たぶん、著替えてるんだろうと思う。
「…大変だね。楓君」
奈緒さんは、僕の近くに來るとそう言って微笑を浮かべる。
「う、うん。そのおかげで香奈姉ちゃんの下著姿を拝まなくてよくなったから、良かったよ」
「見たかったかい? 香奈の下著姿」
「いや……。さすがに香奈姉ちゃんの下著姿はもう……」
香奈姉ちゃんの下著姿は、小さい頃にもう見ているし。
だから鼻の下ばして見るっていうことはないな。
しばらくすると、試著室の中から香奈姉ちゃんが出てきて、そのままレジで算する。
その下著を買いたかったんだろうと思う。
ランジェリーショップを出てしばらくしないうちに香奈姉ちゃんは、恥ずかしそうに言ってくる。
「──もう! 來てるなら來てるって言ってくれたらいいのに!」
「あはは。邪魔するつもりはないからさ」
「ごめん……。北川先輩にいきなり聲をかけられたから、気が転してしまって……」
「あたしは、ランジェリーショップに男がいたから『何かな?』って思ってね。近づいていったら楓君だったから気になって聲をかけてみたんだ」
「そうだったんですか。僕の方は、香奈姉ちゃんと一緒來てるって説明しても言い訳にしかならないと思って、正直焦ったよ」
「そうだったんだね。急に聲かけてごめんね。香奈とデートしてたんだったら、あたし場違いだよね」
「そんなことないですよ。なんというか、その……。んな意味で助かりました」
あのまま香奈姉ちゃんの下著姿を拝むことになったら、後數十分はあの店にいそうだったし。
「そうなの? なんにせよ、あたしは買いの最中だったから、また戻るつもりだけど」
どうやら、奈緒さんの買いはまだ終わっていないみたいだ。
せっかく會ったんだから一緒にとも思ったが、それだと香奈姉ちゃんとの約束を反故にしてしまうし。
「そうなんだ。私たちも、これから別の店に行く予定なんだ」
香奈姉ちゃんは、そう言って再び僕の腕にしがみつく。
「そっか。それじゃ、あたしはそろそろ行くね」
「うん。それじゃ、また明日ね」
「デート、頑張ってね」
奈緒さんは、そう言うと雑踏の中に消えていった。
とりあえず、ランジェリーショップでの買いは終わったみたいだけど、この後はどこに行くつもりなんだろうか。
「香奈姉ちゃん。これからどうしようか?」
しばらくして、僕は香奈姉ちゃんに聞いてみた。
すると香奈姉ちゃんは、迷うことなく言う。
「次は楓君の買いだよ。どこか寄りたいお店はある?」
「そうだな。特にはないけど、僕は洋服を買いに行きたいな。香奈姉ちゃんは?」
「私も、そこでいいよ」
「それなら、そこにしよう」
「うん!」
香奈姉ちゃんは、嬉しそうな表で歩き出した。
気がつけば、僕の呼び方も“香奈さん”じゃなくて、いつも通りの“香奈姉ちゃん”になっていた。
やっぱり、呼び慣れない呼び方をしても疲れるだけだ。
香奈姉ちゃん自も、いつの間にかその呼ばれ方をしても怒った様子はないし。
たぶん大丈夫だろう。
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